第4話
「椿ー、美千代ちゃんよー」
玄関から女将の声が聞こえ、約束通りに来た美千代を少し恨めしく思った。
「…お待たせ」
「わぁめっちゃ落ちてるね」
そりゃ行きたくないところに無理やり行かされるのだから、気分が落ちるのも当たり前。
「じゃあ行こうか!!!」
そんな椿とは反対に、美千代はいつもよりも元気に声を上げて椿の腕にくっついた。
しばらく2人で歩き、吉原に着くとそこはまさに異世界だった。豪華な装飾を頭に着け、華美な着物に身を包み、甘い匂いを嗅ぐわせる女達。
そしてその一角には、目を疑うほどの美女を侍らす美形の男。
「あ、あそこだよ」
美千代の指さした場所を見れば、「まきや」と書かれた看板が目に付いた。
どこの遊郭よりも地味な外見だが、のれんから見える内観はどこよりも目を引かれる。
そんな店の前で美千代の友達だという残りの2人を待つ。
「ねぇ美千代ちゃん…ほんとに食事だけでいいんだよね?」
「ん?あぁもちろん!でも、もし椿も気に入った人がいればその人と逢瀬を楽しんでもいいんだよ♡」
誰よりも楽しみにしている美千代の頭は、この遊郭の事でいっぱいだ。
数分と経たずに来た残りのふたりと合流して、さっさと店に入ると、まだ幼い少年が椿達を大広間へ案内した。
「ようこそまきやへ。こちらへどうぞ」
まだ花魁として働ける年齢と技量を持っていない少年は、花魁の見習いとして仕える禿という。禿は、先輩花魁の身の回りの世話やこうした部屋案内などを行っている。
大広間へと案内された椿たちは、障子を開けた瞬間に広がった、目の前の美形男子達に目が眩んだ。
「ようこそいらした」
「これはまた、べっぴん揃いだな」
男花魁と呼ばれる男たちは座る間隔を開けて、どうぞ俺の隣へ、と言わんばかりに手招きをしてくる。
椿以外の3人は、誰の間に座るやなんやかんやと話していたが、椿は迷わず端の席を陣取った。
正直、ここまで美形に囲まれたら緊張して食事も喉を通らなさそうだ。
椿が端を取れば、ほかの3人も次々とお目当ての人物の隣を取った。
そして、1人の花魁により、乾杯の狼煙が上げられた。
「初めまして。俺はユウキだ。君の名前は?」
唯一、椿の隣になったユウキは、慣れた様子で迷わず話しかけた。
「椿、です」
「椿か…良い名だ」
椿も男の人が苦手という訳では無い。
ただ、免疫がないだけ。
現在高校2年生の椿は、つい最近彼氏に浮気されたばかりの傷心。しかも浮気彼氏とはキスもしていない程の仲のため、好きな男に愛を囁かれるという行為にまったく慣れていない。
しかも花魁としての知識を多少なりとも知っている椿からすれば、彼らから発せられる言葉全て、誰彼構わず言っていることなど百も承知だった。
「椿、君は何の遊戯が好きだ?」
急に距離が縮まり、椿の手を優しく握るユウキにビクッとしてしまう。ユウキは、これだけで椿が全くと言っていいほど男慣れしていないことが分かった。
「ははっ、君は男に慣れていないのか?」
「そ、そんな事ありません!」
なせそこで意地を張ったのか、自分でも分からない。なぜか女のプライドが許さなかった。
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