第11話 近づく距離

「なっ……! そんなことを話したのか?」


「はい! クロード様が領民想いで、高い能力をお持ちだとお聞きしました」


「……」


 嬉々として話すナタリアは、クロードが気まずそうにしていることに気がついていない。


「今回の結婚は、領民の皆様が祝福してくださると知って……あの、クロード様?」


 ナタリアは、黙り込んでしまったクロードの顔を覗き込んだ。


 それに気がついたクロードは、ふっと顔をそむけてしまう。


(あ、クロード様のお耳が赤い……もしかして照れているのかしら? 可愛らしい)


 いつもと違うクロードの一面を見たナタリアは、なんとも言えない気持ちになり思わずクロードの手を取った。

 

「私はとても嬉しかったのです。今回の結婚のこと、私は誰にも祝福されないと思っていました。でも実際は、大勢の人々が喜んでくださって……全部クロード様の人徳のおかげです。ありがとうございます」


 きゅっと握った手に力を込めると、ようやくクロードはナタリアの顔を見た。


 クロードは顔を赤らめたまま、嬉しそうに笑った。


「……ここに住む人達は、心が広くて気さくな人が多いんだ。僕はこの土地と領民が好きだ。ナタリアも好きになってくれると嬉しい」


「もちろんです。早くこの地に馴染んで皆さんのことをよく知りたいです!」


「そうか、では今度時間を作って皆に挨拶する機会を設けよう」


「ありがとうございます!」


 その後もナタリアとクロードは、結婚披露パーティーについての話や、領地についての話で盛り上がった。





 一時間程経った頃、予想以上にクロードとの会話が弾んだことに舞い上がったナタリアは、つい口をすべらせてしまった。


「結婚という問題も解決しますし、東の国との交渉はきっと上手くいきますわ」


「君がなぜそのことを? ポールに聞いたのか?」


「あっ……はい。なぜクロード様が結婚を急いだのかと尋ねたら……。申し訳ありません、直接クロード様にうかがうべきでしたね」


 あまりに深刻な顔をするクロードに、ナタリアは慌てて謝った。


「いや、構わない。初日はあまり話す暇もなかったから。……申し訳ない。ナタリアを利用するような形になってしまった」


 クロードは、立ち上がって頭を深々と下げた。

 ナタリアもつられるように立ち上がって頭を下げる。


「そんな……それは私も同じです。家を出るためにクロード様との結婚を利用したのですから。正直、結婚出来るなら誰でも良いと思っていました。でも、今はクロード様で良かったと思います」


「ありがとう。僕も相手がナタリアで良かった」


 顔を上げた二人は、顔を見合わせて笑い合った。


「クロード様、私達また謝ってましたね」


「本当にな」


 そうして、また笑い合うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る