第12話 王家の思惑

 婚約を公表するパーティーの日はあっという間にやってきた。


 ナタリアは招待したい人などいなかったため、クロードの知り合いに婚約を報告する意味合いが強いパーティーだった。


 それでも王族が出席するだろうと噂を聞きつけた大勢の貴族から、是非招待してくれと熱望されていた。


「本当は全て断りたかったのだが……」


「仕方がありませんわ。国王からも広く招待するように念を押されたのでしょう?」


 クロードは苦々しく文句を言っていたが、国王の命とあれば断ることなど出来ない。


 パーティー会場はナタリアの想像以上に人が溢れていた。





「クロード、久しぶりだな。本当に結婚するなんて驚いたよ」


 挨拶も済ませ皆が歓談し始めた時、クロードに親しげに話しかけてきた人物がいた。


「……そちらの要望に応えただけなのに、驚かないでください」


(随分と親しそうね。クロード様もそれほど嫌がっていないようだし。……なんだか周囲の視線が集まっている気がするわ)


 ナタリアが失礼にならない程度に相手を観察していると、クロードが彼をナタリアに紹介した。


「もう知っていると思うが彼はクロイ、第一王子だ」


「お会いできて光栄です、クロイ様。ナタリアと申します」


(第一王子だったのね……小さい頃に一度見たきりだから気づかなかった)


 ナタリアは慌てているのを悟られないように、出来るだけ冷静に挨拶をした。不敬だと思われたらクロードに迷惑をかけてしまうからだ。


「よろしくナタリア。君には渡すものがあるんだ」


「渡すものですか?」


「クロードと結婚したら、王家から褒美が出るって聞いたことない? はい、これ。他の品物はヴィルト家に届けさせたから安心して」


 そう言ってクロイがナタリアに手渡したのは、一目で非常に高価だと分かる華美な髪飾りだった。


「う、受け取れません! 恐れ多いです……それに、クロード様と結婚するのは褒美のためではありませんから」


(クロード様は褒美の噂はデタラメだと言っていたじゃない!)


 ナタリアは訳が分からず、クロードに視線を送る。


「ん? あぁ、褒美の話は本当だよ。前はあの二人を追い返すためにデタラメだと言ったんだ。受け取っておけば良い。君に恩を売っておきたいんだろうし」


 そうだろ? とクロードがクロイに尋ねると、クロイは苦笑しながら頷いた。


「そうだよ。ナタリア、君がこれを受け取ってくれないと僕が困るな。クロードに何か依頼する時、君から説得してもらうかもしれないし」


(つまり王家からの命令にクロードが渋った時、私に協力させようってこと?)


「……クロード様は正しい命令ならば受けるし、間違っているならば断るはずです。私が説得することはありませんよ」


 ナタリアはそう言った後に、大変失礼な物言いだったことに気がついた。


 しかしクロイは怒るどころか、嬉しそうに笑っていた。


「本当に良い娘をもらったんだね、クロード。少し羨ましいくらいだ。……ナタリア、これは単純なプレゼントだと思って受け取って。君の言う通り、クロードはこれくらいじゃ王家に媚びたりしないだろう?」


「えっと……」


 ナタリアが受け取るべきか悩んだ一瞬、後ろから聞き覚えのある声がした。


「お姉様が受け取りにくいならば、グラミリアン家の者として私が受け取りますわ!」

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