第3話 神ー②
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伝言を開示します。
「滑稽よ、滑稽! 使えるワケがないだろう!」
「はーっはっは! 腹が痛い! 愚かにも程がある!」
「あー、笑ったから貸してやる」
神からの加護を受けました。
ロウは「
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「はい? 何このメッセージ。誰だよ、この笑ってるやつ!」
「わ、私は笑っていませんよ?」
という事はファルナじゃないのか。
どういう仕組みなんだろう。いきなり目の前に出てきた。
おまけに誰なのかも分からないし、何で笑ってるの。
色々考えていたら、ピリッとした痛みを感じた。
俺の手に小さな炎が浮かび上がってきた。
「お、おおお……! 小さいけど出来た!」
さっきは失敗したのに今回はあっさりと成功してしまった。
やってることは同じなのに何が違ったんだろう。
そうか、あのメッセージか。
貸してやるって「原初の炎」ってやつを借りてるのか。
少し白っぽいオレンジ色の小さな炎が俺の手のひらで発生している。ファルナも信じられないとばかりに大きく目を見開いて、俺の火の魔法を見ていた。
「ロウ、あなた詠唱も無しにどうしたのですか! 私と同じ……いえ、全然違います……その炎は……」
「ファルナも詠唱なかったろ? 確かに小さいけどそこまで違う?」
「それは神が世界に落とした最初の炎……原初の炎です。手違いで使えるとか、たとえ間違いがあってもロウが使えるような魔法ではありません。何故、使えるのですか? まさか、神とお会いしたとでも言うのですか?」
興奮気味にファルナが矢継に聞いてくる。
これってそんなに、大層なモノなのか。握りこぶしくらいの炎だぞ。
「神に会ってはいないと思うけど、メッセージみたいのが出てきた。笑ったから貸してやるって。そしたら使えてた。ファルナが言ってる神とは会った事なんてないぞ」
「そんな、貸すだなんて本当に? ロウ自身に直接……一体何をお考えになっているのかしら。それにしてもどこでそんな……」
―――ジジジジジジジジジ―――バリン!
突然ファルナの周囲が黒に染まり、四方八方から取り囲むように鎖が現れた。
胴を鎖が捕らえたあと、両手首と両足首を捕縛する。
身動きがとれないファルナを嘲笑うような声が聞こえてくる。
「どこに消えたかと思えば、このような空間で何をしていたのですかな?」
響くような声がどこからか聞こえてきた。
変化があった箇所はファルナ周辺の闇。
つまりあの奥に原因の声の主がいるってことか。
「おい、誰だよ! ファルナを離せ!」
「ロウ、やめなさい。あなたは黙っていてください」
「おやおや? この声はまた召喚でもされたのですかな」
「私は戻りますから、この鎖を解いてください」
「解いておきたいところなのですがね……そこにいる魂が勇者であった場合、この私の身が危ないではありませんかな。またどんな言霊を使って操ろうとしているのやら」
「おい、そこのハゲ! 俺は別に操られてなんていないし、ちゃんと謝罪は受けたからな!」
「ほう、この私がハゲだとどこで知った? また余計な事を話したのですかな?」
ハゲは冗談で言ったつもりだったんだが当たってたのか。
それに気にしてるのか、ファルナに聞き返している。
「私は何も話していません! ロウ、彼は五百年も生きているのですよ、ハゲは仕方ありません」
普通に答えてるよこの女神。
「ぐっ!! ファルナ、貴様もか!」
「まったく、ロウ! 話がややこしくなります。いい加減にやめなさい!」
俺のせいにしているこの女神、完全に天然です。
普通にハゲを煽っていて、それで俺に怒るとかどういう事なんだ。
理不尽すぎるだろ。
「いいや、黙らないね! まず、声が気に入らない。それに、いきなりファルナを鎖で拘束するのも気に入らない。ハゲにお前みたいな悪党気質なやつがいると、正しく生きているハゲ達まで悪いイメージになる!」
「お……おのれぇ、貴様! 五百年生きていてここまで侮辱されたのは初めてだ! 消し去る前に名を聞いておこうか!」
「俺の名はロウ! ハゲ悪党の名も聞いておいてやるよ!」
「ぐぬぅ! 我が名はランドヒル! いずれ異世界を繋ぐ王となる魔王だ!」
「はっ! ランドヒルだって? ハゲ悪党に改名しとけ!」
「言わせておけば……、ロウと言ったな。貴様を業火で焼き続けてやるわ!!」
「いや、悪い。俺、まだ肉体ないらしいんだ」
「ぐぬぬぅ、何だと!? まだ転生すら行われていないのか! どこまでもふざけおって!」
ファルナを捕らえている闇の空間かが、波打つような歪みが大きくなってきてい
る。その魔力の揺れで、俺自身も少し押されてよろける。
怒りの感情も一緒に届いてきて、嫌な感じだ。
「ならば魔力の檻に閉じ込め、永劫にその魂を吸い尽くすのみ! 我が
名を持って異界の魂を喰らう贄となれ!
「いけません! ロウ! 逃げなさい!」
ランドヒルのいるであろう闇の空間から、幾つもの檻の形をしたモノが飛んでくる。真ん中から口でも開いたかのように、ガチガチと音を立てながら迫ってきている。
こんな数を出されたら、もう回避すらできない。
だったら、この手にした「原初の炎」を……。
「これでも食らって、反省するんだな。行っけえぇぇ! 『原初の炎』!」
手の中の「原初の炎」をファルナの背後の闇に、思いっきり投げつけた。
真っ直ぐに投げられた炎は、少しずつ大きくなって檻の形をしたモノに触れた。
その瞬間に、檻は粉々になってかき消されていった。
一つの檻に当たっただけなのに、全ての檻が消えていった。
「原初の炎」は止まらずに、ファルナに絡みついていた鎖を焼き尽くすと、そのままランドヒルがいるであろう闇の空間へと消えていた。
ボンと音が鳴ると闇の空間が消えて、そこから絶叫が響き渡った。
「ぐあああああ! な、何だこの炎は! 馬鹿な、消えぬ! そんな事があり得るのか! おのれ、ロウ!! 貴様だけは許さぬぞおお!!」
叫び声だけが、この白い空間にこだましている。
転がるような音と呻き声だけが暫く聞こえた後、パキンと音が聞こえた。
「原初の炎」があのランドヒルを焼き尽くしたかは知らないけど、少なくと
も無事で済まないだろう。
「ファルナ! 大丈夫か!」
「はぁ……。まったく! ロウ! どうするのですか!」
「あ……俺、やってしまった感じかな?」
「やってしまった、じゃありません! もう完全にやっちゃい過ぎました!」
ものすごい剣幕で怒っているけど、本気で怒っているわけではなさそうだ。
またファルナがため息をついてる。深い深いため息だ。
「はぁぁぁぁ……………………っ。あなたは平凡に暮らしたいって言ってましたよね? 私の聞き違いですか?」
「でもさ、あいつに捕まらなくて良かっただろ?」
「それについては、ありがとうございます。まさか、助けられるとは思いませんでした」
ご丁寧に頭を下げるファルナ。
長い髪が綺麗に肩から落ちてきて、それだけで切り取られたような絵みたいに見えてしまう。
「でも! ソレとコレとは違います!」
「それはファルナが召喚した理由教えてくれなかったから気になってさ。あのランドヒルとか言う悪党ハゲに捕まってるって知らなかった。あいつを止めるのに勇者を召喚したってことなんだよな?」
「はぁ……。分かりました。お話しますけど、覚えておいてください」
「何を覚えておけばいいのかな?」
「ロウは完全にランドヒルに目を付けられました。分かりますか、あなたにこの意味が」
「降りかかる火の粉は振り払えばいい」
「そういう事ではありません! 平凡に暮らせないと思ってください」
真剣な表情をしたファルナは、有無を言わさないの迫力をもって言ってくる。それだけ悪党ハゲがとんでもないやつだってのが聞く前から伝わってくる。
異世界を繋ぐって、そんなことが可能なのか。
悪党ハゲはそれをやろうとしていたのは分かる。
そのキーになっているのがファルナってことも。
でも、何で捕まっていたかってことになるよな。
「それはもう仕方がない。こそこそ隠れながら暮らすよ」
「それは無理です。あのランドヒルは一つの国を預かる王です。あなたは肉体がないため、何の特徴もありません。外見で捕まることは無いでしょう。ですが、ロウの名は知られてしまいました」
「ロウって名前くらい、ノアレームにいるんじゃないの?」
「そうです。だから、ロウの名を持つ者全てを捕らえようとするでしょう」
「そ、そんな名前だけで捕らえても、何も分からないしそんな事しないでしょ」
「そうですね。すぐには行動は起こさないでしょう。ランドヒルはそれ以上にやることがあるのです。それは大量の魔石を集めること」
「魔石なんて集めてどうするんだよ。そんなの限界があるだろう」
「ランドヒルは、ありとあらゆるものから魔石を採取する方法を常に研究しています。最近は、また効率よく魔石を集める方法を見つけたと言ってました。何度その言葉を聞いたか分かりませんが、研究に関して嘘をつく人ではありませんから」
「それでファルナが捕まってたのも、魔力を奪うためってことでいいのか」
「それは……少し違います。私は自ら協力したのです。この世界をより良い環境にするために」
「ノアレームって何か問題あるってこと?」
―――ピシッ、ピシピシッ―――バリン!
その時、ファルナのいるこの白い世界が音を立てて崩れてきた。
鏡の破片が落ちてくるように、白い破片がこの空間全てから崩れている。
「もう、時間がないようですね」
「まだ聞いてない事が!」
静かに首を振ると、仕方のない子のように頭を撫でてきた。
「ロウ、私は決めました。もう説得は叶わないことが分かりました。だから、私は逃げて……体制を整えて、ランドヒルを止める事にしました」
「だったら、俺も協力するよ!」
「いいえ、あなたはノアレームで平凡に暮らしてください」
「協力するって!」
「はぁ……分かりました。ここで問答しても仕方ありません。では、こうしましょう。もう一度、再会できたら……その時はロウ、あなたも手伝ってください」
「分かった、絶対に見つけてみせるよ!」
びしっと目の前が割れて、ファルナとの距離が開いた。
崩れてる壁は半分以上なくなり、何もない空間しかなかった。
「一つ、謝らないといけません。完全な転生は無理そうです」
「え? 完全じゃないとどうなるの?」
「分かりません……、せめて安全な場所に。生きて行けるくらいの年齢に」
ファルナの手から光が飛んできた。ゆっくりと俺のほうへと。
手を伸ばして光を掴むと、目が眩むほどの光量が大きく広がって俺を包み込んで
いく。
「絶対、見つけるよ!」
ファルナが頷くと、全てが勢いよく盛大に崩れていった。
手を振ると、霞むように消えて見えなくなった。
ファルナと出会った空間が崩れていく。
こんな場所でも、消えてしまうと少し寂しく感じるなと思いながら、優しい光に包まれながら意識がなくなった。
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耳元が騒がしい。風を切るような音がうるさい。
もう少し寝かせてくれ。もう少しだけ寝ていたい。
耳元に直接あたる風と音が、あまりに煩いので強制的に目が覚めた。
俺は空から落下しているようだった。
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