第45話 学園祭

色々とあったがロイドたちは元の学園生活に戻り、久しぶりに学校に来ていた。


だが行われていたのは授業ではなく重要な学園行事に向けてのホームルームだ。


「では来週は学園祭がある。今日はEクラスの出し物を決めろ。決まったら呼びに来い」


それだけ言ってブラッドはダルそうに教室を出ていく。そしてそれをダルそうに聞いている勇者が一人。


「学園祭ねぇ」


「何かロイド君怠そうだね」


ニニカは呆れたようにロイドを見る。


「ああ。こういう陽キャが楽しみそうなイベントはやる気が出ない」


「君って本当に勇者っぽくないよね。よく昔天才勇者って呼ばれてたね」


「あの頃は勇者っぽくしようとしてたからな」


「今は?」


「一回勇者じゃなくなったしな。今は好きにやろうって感じ。そしてこれはやりたくないことのひとつだな」


「正直になったもんだ。良くも悪くも」


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!学園祭って楽しい?」


ニニカの横にいたニーコがニニカの袖を引っ張る。


「ロイド君はこう言ってるけど、楽しいよ!だってお祭りだもん!」


「なるほど。ニーコ楽しみ」


ニーコはニニカの身内として一緒に登校することが許されていた。普通はこんなこと認められないが、ロイドが学園長に押し通した。


ヴァンクレストが死んで、代わりに学園長の座についた元教頭にだ。


それはほとんど脅しに近かったという。


まあ本当のところはわからないが。


ただ新学園長はロイドとすれ違う時には俯いていた。


「てかお前は学園に通えることを少しは俺に感謝しろよ」


「お姉ちゃんとの会話に割って入るな!このエテ公が!とやんわり忠告します」


「いや全然やんわりじゃねぇだろ」


「ちっ!とやんわり舌打ちを返します」


「やんわりな舌打ちってなんだよ。思いっきり元気いっぱいな舌打ちだったろ。そして最後に敬語くっつけても舌打ちはカバーできないから」


「ちっ!」


「あ、今度は単純に舌打ちのみなんだ」


「ロイド君、ニニカさん!学園祭は何をしましょうか?」


久しぶりにモブがモブっぽく話しかけてきた。


「、、、ん?お前、誰だっけ?」


ロイドは本気で忘れていた。普通ならここは忘れた振りをしながらも本当は覚えてると言ったシーンなのだが、ロイドは普通に忘れていた。


「えぇ!?!」


さすがのモブもこれには『えぇ!?』と言ってしまう。


だってベヒモス戦ではロイドたちのために転移魔法とか使ったりしたのだから。


「ロイド君これがまさにモブ君だよ!ボクたちがベヒモスと戦ったときに手伝ってくれた人だよ」


焦ってニニカが説明する。まあ普通なら説明する必要なんてないことなのだが。


「ああ、そうだった。悪かった、モブ」


思い出した感じのロイドだが、若干なんとなく、こんな奴いたかもなぁ程度だった。


「だ、大丈夫です!慣れてますから!」


「そんな元気よく言うことじゃねーだろ」


自分を棚に上げて一応ロイドはツッコんでおいた。


「とにかく学園祭は年に一度の勇者学園最大のお祭り!何をやるか二人の意見が欲しいんですよ!」


本当に慣れているのだろう。モブはそのまま話を続ける。


「はぁ!?俺たちの意見なんて誰も聞かないだろう。普通科上がりの俺たちは嫌われてるんだから」


ロイドは、何を言ってるんだという感じで返すが、モブもまた間髪入れずに返してくる。


「それはベヒモス戦前までですよ!あの日のお二人の活躍は我らE組の誇りなんです!」


モブの言葉に後ろにいたE組全員が頷く。


「え、でも俺こういうのは―


そうこられると逆にロイドはしり込みするが、そこに割って入る女子が一人。


「みんなー!!!ボクに付いてきて!この学園祭、全クラスの中でボクらが一番目立つよ!」


「「「「「おおおおお!!!!」」」」」


ロイドが口よどんでいる隙に、ニニカが一気にEクラスの指揮をとりだしていた。


(マジなんなんだこの女)


このあと熱い会議が繰り広げられ、最終的にEクラスの出し物は『コロセウム』となった。丁度Eクラスは校内に場所が与えられておらず、外で勝手にやってくれというスタンスだったので、ニニカが結界を張って外でコロセウムを開くことになったのだ。飛び入りの挑戦者も自由、そしてロイドを倒した者にはえげつない量の賞金が出ることになっている。正直学生の祭りで動くような額ではない。


「なんで賭け試合みたいなことやらなきゃいけねーんだよ。というかなんでこんなグレーな企画にクラス全員賛成してるんだ?」


「それはまあロイド君の力を信じてるからだよ」


「信じられ方がうぜーな」


「とにかくロイド君は負けないこと。その間にボクたちは入場料とか売店の売り上げで稼ぐから」


「結局見世物パンダじゃねーかよ」


「主役ってことだよ!」


「嫌な主役だな」


「ちっ!お姉ちゃんに口答えするとか愚かの極みなんだけどと、怒りを込めた視線を向けながら発言します」


ニーコがロイドを睨みつける。


「お前って俺に対しては本当に舌打ち多いよな」


「、、、だってお前はお姉ちゃんの―


「ニーコちゃん、それ以上はダメだよー」


ニニカは笑顔でニーコの口を押える。


「もごもご」


「どうしたんだよ、ニニカ」


「ロイド君も黙ろうね♡」


物凄い圧の笑顔でロイドは笑いかけられる。


「あ、ああ」


ロイドは考えることを辞めた。





Eクラスがかなり攻めた出し物に決まったころ、Aクラスも出し物を決めていた。


「誰か意見はありますか?」


もちろん議長はミユキ。


色々な意見が出つつも決まらず、会議は踊る。もはやランバダを踊っていた。


「では多数決で決めたいと思います!」


意見が出きったところで収拾がつかなくなると判断したミユキは多数決を行う。でもこの多数決の結果さえもミユキを悩ませることになる。


同率一位で二つが選ばれたからだ。


ちなみに全く興味のないゲイルは会議の最初から最後までずっと寝ていた。


そしてこの二つの案をミユキは上手いことまとめ上げたのだった。





Aクラスで同率一位に選ばれた案は『メイド喫茶』と『闘技大会』だった。


どうしようかと悩んでいたミユキだったがEクラスの出し物がコロセウムと聞いて合同開催とすることを思いついたのだ。


ロイド、ミユキ、ニニカ、ジロウ、ゲイルは学園祭について話し合うためにケーキ屋に集まっていた。場所は多数決で決められたので女子の意見が勝利し、ケーキ屋になった。


「勇者科ともあろうものが『コロセウム』と『闘技大会』なんて案が出るなんて、大丈夫か?この学校」


「俺もそう思うぜ」


珍しく意見のあってるロイドとゲイルだった。それもそのはず、寝ている間にゲイルはAクラスの番人にされてしまっていたのだから。


簡単に言うと二人は怠いのである。


「でもゲイル、コロシアムの大トリはロイドとあなたの一騎打ちよ?」


だがそんなゲイルにミユキが甘い言葉をかける。


「はぁ!?マジかよ!それはいいな」


ニヤリと笑い、ゲイルは突然立ち上がる。ゲイルはチョロかった。簡単にのっかった。だがゲイルはそのまま立ち上がり店から出て行こうとする。


「ちょっとゲイル!どこ行くの!」


「ロイドと戦うんんだ。こんなところでケーキなんて食ってる場合じゃねぇ」


店を出る前にゲイルは振り返ってロイドに言う。


「おい、ロイド!本気でこいよ!叩き潰してやるからな!」


そのままゲイルは店を出て行った。


「ふっ、俺がお前相手に本気じゃなかったことなんてね―よ」


ロイドはぼそっと呟く。


ちなみにロイドも実はやる気満々だった。


そう、最強格の勇者2人はそろってチョロかったのである。





「さあ、バカな男どもはこれでいいとして、私たちの課題はメイド喫茶よ」


二人の男のいい感じなシーンをさらっと流してミユキが女性陣と向かい合う。


「確かコロシアムがAクラスEクラスの合同開催になったことによって、メイド喫茶とコロセウムの出店も互いのクラスから人員を出し合うことになったんだよね」


ニニカはケーキを食べながら今の現状を説明する。


「お姉ちゃん、これもおいしい」


言い忘れていたがもちろんニーコも来ている。


「ニーちゃん、このチョコのもおいしいよ。はい、あーん」


「あーん。もぐもぐ。おいしい」


「よかった。そして圧倒的にかわいい!」


ニニカはニーコを抱き締める。というかニニカは何かあるたびにニーコを抱きしめている。そしていつの間にかニニカのニーコの呼び方は『ニーちゃん』にアップグレードされていた。


「という訳でニニカとジロウもメイドをやってもらうわよ」


「なに!?ワシもコロセウムでロイドと戦いたいのじゃが!」


「ボクもニーちゃんと一緒にコロセウムに行きたいんだけど」


「まあ休憩時間はあるからその時にジロウは挑戦すればいいわ。ニニカもその時に見にいきなさい。でもメイドはやってもらうわよ!」


ミユキはちゃんと生徒会長をしていた。

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