第44話 ニニカの勇者
ロイドはヴァンクレストの小屋を訪れていた。
「じいさんがネロを退けたんだろ?」
誰もいない小屋でロイドは呟く。ロイドもわかっていた。ヴァンクレストはネロを退ける代わりにその命を散らしたということを。
『ロイド』
「はぁ!?」
突然テーブルの上に置いてあった本が開き、ヴァンクレストの声が流れ始めた。
『お前がこれを聞いているということは儂はもうこの世にいないじゃろう。』
「、、、」
『まあお決りのセリフから始めたが、お前ならわかってるか。儂に生き残る気はなかったってことを』
「、、、」
『だから今の状況は二択じゃ。儂がネロを殺せたか、殺せなかったか。だからそれについてはロイドお前が判断しろ。儂はネロにマーキングを埋め込む。どんな状況であろうが必ずじゃ』
「わかってるよ」
『机にある水晶がまだ光っているのならネロはまだ生きておる』
水晶は鈍く光っていた。
『もしかしたらお主にとんだバカ息子を一人残して行ったかもしれない。迷惑をかけるだろうな。だが心配はしていない。後は頼んだ、ロイドよ。もう一人の我が子』
「任せろ、クソ親父」
『ありがとう』
*
「お姉ちゃん!」
ニーコはニニカの妹として完全に仕上がっていた。ニーコ、ミーカ、サスケはこの機会にすごく仲良くなり、ミーカに関しては魔法のせいもありサスケに懐きまくっていた。そんな感じでミーカは常にゲイルとサスケについて来ようとした。
ゲイルは嫌な顔をしていたがサスケの熱心な説得によりミーカも行動を共にするようになった。まあゲイルがめんどくさくなって折れたのだ。
「ミーちゃん!あっしと一緒にアニキについて行くでやんすよ!」
「きゃん!」
「ちっ!」
嬉しそうなミーカと舌打ちをしているゲイルの対比がなかなか面白い光景だった。
*
人造魔族計画で生き残ったのはこのニーコとミーカの二人だけ。この計画による犠牲は234人に及んだ。
ニーコの前では必死に笑顔を浮かべているニニカだが自分のせいで不幸にしてしまった命たちを思い眠れない夜を過ごしていた。
「よう、ニニカ。久しぶりに遊びにでも行くか?ゲームも出来るバーがあるんだ」
そんなニニカの元にロイドがやって来た。
「ロイド君、ありがとう。でもこれはお酒を飲んで紛らわしちゃいけない痛みだと思うんだ」
「ま、そりゃそうか」
「死んで詫びられればいいんだけど、ボクは死ぬことさえできない」
ニニカは辛そうな顔で俯く。
「もう死んでる奴らがお前も死んで何を喜ぶんだよ。はぁ、らしくねーな。悲劇のヒロインみたいな顔してんじゃねーよ。めんどくせーからハッキリ言う。お前のせいで234人のガキどもが死んだ」
「うっ」
「だがそれがどうした?この世界で一人も殺さず生きていくなんて贅沢な人生があるか?人なんて息を吸うだけで誰かの酸素を奪って窒息させ、腹いっぱい食えばその分食べれなかった誰かを餓死させてる。つまりこの世に人を殺したことがない人間なんていないんだよ」
「でも!」
「死んでも悩んでも意味はない。だったら、、、」
「だったら?」
「だったら、、、だめだ。よくわからねーや。なんかもうちょっといいこと言いたかったんだけど、この辺が限界だわ」
「なにそれ?ちゃんと最後まで言ってよ!」
必死に笑顔を作りながらニニカが言う。
「その笑顔が凄く気持ち悪い」
「えぇ!?女の子の笑顔に気持ち悪いはこの世で一番言っちゃいけない言葉だよ!」
「お前はさ、ちゃんと笑ってろよ。バカみたいに当たり前な笑顔でちゃんと。、、、ちゃんと笑えバカ。少なくとも俺だけはお前の笑顔に生かされてる。だから何百人殺しても、お前だけは笑っててくれよ。俺を生かすために」
「な、なに言っちゃってるの?君」
「いいから、俺のためだけに笑ってろって言ってんだよ!」
「そんな、そんな自己中な、そんな意味の分からない理論」
「うるせぇ!俺は勇者だ!」
「いや、そんな勇者いないでしょ!」
「これが俺の勇者だよ。そしてお前の勇者だ!文句あるか!」
「ボ、ボクの勇者?」
「、、、そうだよ」
ロイドは恥ずかしそうに答える。
「、、、ロイド君、ボクは笑ってもいいのかな?」
涙を流しながらニニカは縋るようにロイドを見つめる。
「ダメだったとしても笑えよ。俺のために」
「え?」
「お前が自分を許せないなら俺が許してやる。お前の許せなさより俺の許しの方が確実に強いから俺の勝ちでお前は許される」
「なに言ってるだい!ロイド君」
「うるせぇ。今はそういうことにしとけ」
「ふふ、わがままだな。ボクの勇者は」
「それが勇者だろ?」
「うん、そうだね」
ニニカは涙を流しながら笑った。
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