第43話 ロイドの元に駆け付ける勇者たち

ミユキとジロウは必死に走って、ニニカとニーコがいる宿へたどり着いた。だが二人の目に飛び込んできたのは半壊した宿屋だった。


「うそ!」


「ニニカは無事なのか!」


焦った二人は急いでニニカの部屋に向かう。そこには部屋はめちゃくちゃになっていたが無事なニニカとニーコ、ミーカ。そしてなぜかゲイルとサスケもいた。


「ニニカ!ニーコ!無事でよかった!それでゲイルたちが何でここにいるの?」


「ロイドに頼まれたんだよ。この魔力女を守ってくれってな。お前らが来たことだし俺らはもう帰っていいか?」


「アニキ!あっしはもっとニーコちゃん、ミーカちゃんと遊びたいでやんす!」


同じ年ごろということもあり、いつの間にかサスケとニーコ、ミーカは仲良くなっていた。


「じゃあお前だけ残れよ。俺は帰って寝たいんだよ」


「そんなぁ!アニキも一緒に遊びましょうよ!」


「なんで俺がガキどもと遊ばなきゃいけねーんだよ」


「私からも頼むわ!もう少しここでニーコたちを守ってあげて欲しいのよ」


ミユキがゲイルに声をかける。


「なにがあった?」


必死なミユキの顔を見てゲイルの顔色が変わる。


「ロイドが毒を浴びながら戦ってるの。そしてロイドがニニカを連れて来いって」


「、、、そういうことか。ロイドに貸し2つだって言っとけ」


ゲイルは何かに気付いたようにミユキの頼みを了承する。


「ありがとう、ゲイル。私にも貸し一つでいいわ」


「お前のはいい。それだとロイドから取れなくなる」


「え?」


「いいから早く行け!ロイドが待ってるんだろう」


それだけ言って、もう話は終わりだと言うようにゲイルはそっぽを向く。でもミユキは知っている。ロイドと同じ、一度守ると約束したらゲイルも絶対に守り抜いてくれると。


「急いでニニカ!」


「ロイドの元までは儂が連れていくゆえ!」


「ボクは行ってもいいのかな?いや、ボクは行けるのかな?」


ニニカは不安そうな顔でミユキを見る。


「、、、ロイドを信じて!」


切羽詰まってたのもある。だがミユキはこれしか言えなかった。そしてこれで十分だと思った。なにより自分がそうなのだから。


「、、、そうだね。案内して!」


「行こう!」





「ごはっ!ごほっ!がはっ!」


ロイドは血を吐いている。何度も。


だが追い込まれているのはルスタだった。当初ルスタは自分に何かしらの薬剤を打ち、巨大な怪物と化した。だがロイドに斬り刻まれ、今は四肢を失った状態だ。


「私が死んでもこの毒は消えはしないぞ!だからこのまま私を殺しても無意味だ!分かるかね?」


「何が言いたい?」


「後ろの棚にある回復薬を飲ませろ!そうすればこの読を中和してやる!」


「ああ、そういう感じのやつか。なんで俺がお前を助けなきゃいけねーんだよ」


「お前本当にバカなのか!?私を助けないと貴様は死ぬんだぞ!」


「ごはっ!ごほっ!がはっ!」


会話の途中でロイドは再び血を吐く。


「ほら見ろ!死にたくなければ早く私を回復させるのだ!貴様を生かすことができるのは私しかいないのだぞ!」


ルスタは四肢が斬られ身動きの取れない状況でも勝ち誇ったようにそう言う。


「ごほっ!ごほっ!はぁはぁはぁ、俺を救うのはお前じゃねーよ」


血を吐きながらロイドはオドを纏った剣を振りかぶる。


「や、やめろ!」


「死ね」



ザン!



ロイドはルスタを頭から真っ二つにしてその場に倒れこむ。


「ごはっ!」


血を吐きながらもロイドの目に諦めのようなものはなかった。


「早く来い、バカやろう」


ロイドは静かにそう呟いた。





「ロイド君!」


ニニカが駆け付けた時にはロイドはすでに虫の息だった。


「ごはっ!おせーよ。死ぬかと思ったぜ」


ロイドはニニカを見て血を吐きながら笑う。


「君ってやつは」



―闇魔法 毒喰い 冥界からの拒絶―



ロイドの毒は取り除かれダメージも回復された。


「さすがだな。ニニカ」


ロイドは立ち上がる。


だがニニカは難しい顔をしたままだ。そんなニニカの頭にロイドはポンと手を置く。


「怖い顔してんじゃねーよ。これから兄妹たちに会うんだ。笑顔でいろ。そんで俺のことも紹介してくれ」


ロイドはニニカの血を与えられた少年少女の元へとニニカを連れていく。彼らは液体で満たされたガラスの筒に入れられて並んでいた。


「そんな、、、」


その光景を見てニニカは泣き崩れる。


「ニニカ、俺はこの研究所をぶっ壊す。そうするとこいつらも死ぬことになる」


「え?」


「こいつらはこの液体の中でしか生きられないらしい。だが俺はこれからこの液体も、その作り方も全て消す。どうする?俺と戦うか?お前が俺と戦うって言うなら俺は負けてやってもいいと思ってる」


ロイドはニニカを真っすぐに見て言う。


「負けてもいいなんて言葉、ロイド君の口から聞くなんてね。でも、、、でも大丈夫。ボクは君と戦わないよ。だけど、、、だけどこの子たちはボクの手で送らせて」


ボロボロの顔でニニカは精一杯笑って見せた。


「そうか、わかった。じゃあ俺は向こうに行ってる」


優しく笑ってロイドは遠くへと離れていく。


「ありがとう」


ここにはニニカと彼女の血を与えられた子供たちだけが残った。この子供たちが起きることはない。使える臓器があるかもしれないからとただ生かされている子たちだ。彼らが意識を取り戻すことはない。だからロイドは自分の代わりに彼らを殺すと言ったんだろう。本当に不器用な男だとニニカは思った。あんなんで本当に勇者なんてやれるのかとも。可笑しくて笑ってしまいそうだった。いや、笑てしまおうと思った。でも零れてきたのは涙だった。


勇者が自分に乗り越えろと言っている。魔族である自分が勇者に救われるなんておかしな話だ。


「みんなごめんね。ボクのせいで。なのにボクはみんなに何もしてあげられない。ごめんね。ごめんね。ごめんね。、、、ごめんね」


兄弟たちを前にニニカは頭を地面に擦り付けながら謝り続ける。


ひとしきり泣いた後、ひとしきり謝った後、ニニカは覚悟を決めた目で立ち上がる。


「今度こそみんなの魂は穢させない。君たちは自由だよ」



―闇魔法 反転 神は子らを愛する―



液体の中にいた子供たちは光に溶けながらゆっくりと消えていった。


「ごめんね。ありがとうね」


ニニカはその場で気を失ったって倒れる。




「ニニカ!!!」


倒れる寸前のニニカをロイドが抱きとめる。


「よく頑張ったな。あとは俺に任せろ。こんなお前が見たくない場所は俺が跡形もなく消してやる」



―二天流 白虎 最大輪―



ロイドが言った通りこの研究所は本当に跡も形も思いも残さず完全に消え去った。


ロイドたちは証拠を残さないようにしてその場から去り、地下が削り取られた王城は原因不明の地盤沈下により多大な被害を受けた。


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