第46話 学園祭2
学園祭の話し合いを終えたニニカとニーコが家に帰るともう一人の妹が飛びついてくる。
「ねぇねぇ!ねぇねぇ!」
「ただいま!ミーカ!」
ミーカはもう無闇に人を襲ったりはしないが、まだ言葉もしゃべれないから学園には行っていない。
家でお留守番だ。
ただたまにゲイルが学校をさぼって魔物狩りに行くときにはサスケと一緒について行くこともある。
ニニカたちだけでなくゲイルやサスケとも触れあっているせいか、最近では言葉っぽいものも発するようになってきた。
「にこ!にこ!」
ミーカはニーコにも頬ずりする。ニーコの名前も覚えてきたようだ。
「もう、くすぐったいよ。ミカ姉」
これが今のニニカの日常。
ニニカはこの三姉妹での生活に今までにないほどの幸せを感じていた。
『見つけたよ』
ゾクッ!
だがそんなニニカに突然声が聞こえる。、、、いや、聞こえた気がした。地の底から響くような不気味な声。
誰の声かはわからない。だがそれは寒気を覚えるような気持ちの悪いものだった。
「お、お姉ちゃん?」
「ねぇねぇ?」
急に青ざめたニニカの顔を見てニーコとミーカが心配そうにニニカへ声をかける。
「、、、大丈分だよ。二人は私が絶対守るから」
そう呟いてニニカは二人を抱きしめた。
*
不穏な空気を若干感じながらも、ロイドたちは学園祭の日を迎えた。
学園祭は三日間行われる。
初日はコロシアムの番人としてロイドが挑戦者たちを次々と倒して行っていた。
「はぁ、めんどくせーな」
一方、闘技場の周り。
「コーヒー、ケーキ、軽食のサンドウィッチまで盛りだくさんですよー!」
ミユキ、ニニカ、ジロウはメイドのカッコで働いていた。
「みんなー!売り上げ一位を目指すよ!!!ロイド君という見世物パンダのおかげでコロシアムは大盛況!そしてそんな時に欲しくなるのがお酒と食べ物!そこに私たちの可愛い過ぎるメイド姿で一気に金づる共の喉元をつくよ!」
そしてニニカはいつも通りこういう行事はノリノリだ。
ミユキを差し置いていつの間にかAクラスとEクラスの女子たちをまとめ上げリーダーのようになっていた。
だが売り上げは相当なものになっていた。
初日が終わったAクラスとDクラス。
「みんなお疲れ様だよー!今日の売り上げは学園内で4位!これはもう打ち上げでしょ!!!」
「「「おおお!!!」」」
基本的にAクラスは、というかすべてのクラスがDクラスを蔑んでいる。勇者学園の汚点だと。だが今Aクラスにその気持ちはない。
理由は二つ。
まず生徒会長であり、AクラスのリーダーであるミユキがDクラスを認めたから。
まあこれが大きい。
あとはニニカがAクラスの生徒たちに割と慕われていたから。
ニニカは人の心を掴むのが上手かった。それこそ魔法でも使ってるんじゃないかってレベルで。
だが断じて魔法は使ってはいない。ただただニニカのコミュ力がえげつなかっただけだ。
「なんかめちゃめちゃ儲かってるみたいだな」
「おお!見世物パンダ君!じゃなかった、ロイド君!」
「お前もう隠す気ねーな」
「余裕そうだったね!」
「まあ今日は飛び入りの挑戦者相手だからな」
「でも明日はジロウちゃん、明後日はゲイル君が対戦相手なんだよね」
「ああ、だから明日明後日は一試合ずつだけどよかったのか?」
「だって連戦の中で戦うってなったら2人共怒るもん。それに見世物パンダは君だけじゃないのさ!」
そう言ってニニカは胸を張った。
「ああ、そう」
*
学内が学園祭で盛り上がってる頃、理事長室には二人の男が向かい合っていた。
「よく来てくれたな」
1人はこの国の王であるフィリップ・イームス。
「王命なんだから来るしかないでしょ」
向かい側に座っているのはゼニス・リーンジャッジ。年は40代半ば、酒瓶を抱え、無精ひげを生やしただらしない男だが、実はSランク勇者である。
「そう言うな。お前にしか任せられない案件だ」
「ここの学園長をやれってことですか?」
「その通りだ。ヴァンクレストのことは聞いているだろう?」
「死んだみたいですね。殺しても死ななそうなジジイだったのに。病死でしたっけ?」
「いや、箝口令を敷いているがヴァンクレストは殺されたのだ」
「、、、誰に?」
「ネロ・ケイオスという男だ。自分を魔王と名乗っているらしい」
「ネロか、、、。まあジジイを殺したってことは魔王だってのもあながち嘘でもないかもね」
「なんだと!?」
「あんただってジジイの強さは知ってるでしょう」
「確かにヴァンクレストは我が国の最高戦力でもあった」
「いや、それどころかジジイが死ねば国家間の力関係も崩れる。なにせこの国はヴァンクレストに守られていた国なんだから」
「ぐっ!」
「だがこれはチャンスだ。ヴァンクレストはその強さ故にあんたもヴァンクレストの我儘に口を出すことができない。つまり目の上のタンコブだった。それが死んだのだから今度は自分の言うことを聞く奴を勇者たちの管理者である学園長にしようとしてる。そう、俺だ。俺なら金さえやればちゃんということを聞くからな」
そこまで言ってゼニスは酒瓶を煽る。
「、、、そこまでわかっているなら、話は早い。私の傀儡として勇者たちを管理しろ。金ならいくらでもやる」
「額によるな」
「言い値でかまわん」
「ふふ、それなら引き受けてやるよ。王様」
そう言ってゼニスは笑いながら部屋から出ていく。
「王よ、あんな無礼者を本当に学園長にするのですか?」
ゼニスの態度にイラついていた側近がゼニスが出ていくのを見届けてから王に意見する。
「私もあの男は好かん。だが勇者学園の学園長となればSランクの勇者でなければ周りが納得せん。そしてSランクの勇者となると王の言うことを聞かない無礼者のみ。唯一あの男だけは金で動く。もちろん礼儀はなってないがな」
「なるほど」
「たくっ!人造魔族計画が完成していれば勇者なんていう無法者に頼ることなどなくなっていたのだが!」
フィリップ王は悔しそうに歯噛みする。
そう、フィリップが人造魔族計画を秘密裏に行っていたのは、勇者から脱却するためだった。
王である自分が勇者ごときの顔色を窺わなくてはいけない現状に我慢ならなかったのだ。
だがそれは奇しくも勇者たちによって阻止された。
だから嫌々ながらもゼニスを学園長に据えるしかなかったのだ。
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