第39話 研究所
ロイドたちは穴を掘っていた。基本ロイドとジロウで穴を掘り、その穴が崩れないようにミユキが凍らせる。そうして地道に王城の地下研究所へと向かている。
「おい、壁にぶち当た多ったぞ!」
掘り進んでいたジロウが言う。
「マジか!ジロウ、ちょっと見せてみろ」
「だがかなり強固な壁じゃ。しかも強力な魔法防御がかけられておるようじゃ」
「それなら俺には関係ない」
「確かに!魔法防御などロイドには関係ないな!」
「この壁を壊すと一気に崩れだすかもしれないから、ミユキ!」
「わかってるわ。一瞬で凍らせて見せる」
「よし!じゃあ行くぞ!」
―二天流 無手 玄武岩―
狭い穴の中では剣を十分に使うことはできないので、オドでガントレットのようなものを作り出し、ロイドは拳を叩き込む。しかし壁を貫くことはできなかった。
「さすがに頑丈だな。でもまあ貫くまで打ち込み続ければいい」
―二天流 無手 玄武岩 無限連打―
ドガがガガがガガがガガがガガ!!!
ロイドはひたすら拳を叩き込む。それがしばらく続いた後、遂に壁が崩壊する。
―氷の世界―
それをミユキが一瞬で凍結させる。
「ここが研究所か」
壁を壊したロイドたちが出たところは通路の様で特に何もなかったが、警報音が鳴り響いていた。
「まあさすがにこれだけ派手に入るとこうなるか」
「ロイドどうするのじゃ!?」
「元々この研究所は潰すつもりだったんだ。全て叩き潰す」
「ロイド!なに笑ってるのよ!結構ピンチなのよ、今」
「でもこうするしかなかったろ?」
「わかってるわよ。気を抜くなって言ってるの!」
「ではわしもここから全力で暴れていいのだな」
「この忌々しい場所をぶち壊すぞ!」
ロイドたちは研究所の人間たちを次々吹き飛ばしながら進み、巨大な扉の前に辿り着く。
「邪魔だ」
もちろんその扉は問答無用でロイドがぶち破る。
そうして中に入っていったロイドたちだが目の前の光景を見て言葉を失った。
研究所はロイドたちが思っていたよりも胸糞の悪いものだった。そこには液体に満たされたガラスの筒がいくつも並んでおり、その中にはニニカの面影はあるものの異形の姿をした少女たちが浮かんでいた。
「そんな、、、」
「これが失敗作ということなのか?」
ミユキとジロウが辛そうな声を上げる中、ロイドは無言でその光景をただ見ていた。
「貴様たちか!私の研究を邪魔しようとしているのは!」
そんなロイドたちの背後から兵を率いたルスタ・オスレが現れる。
「お前らか?こんなふざけた研究をやってるのは」
ロイドは振り返らずに呟く。
「貴様らのような愚か者どもにはこの研究の崇高さはわからないだろう!」
「わかりたいと思ってねぇからな」
振り返ってロイドはルスタを睨みつける。
「お前らのような低脳がいるから世界は一向に進歩せんのだ!人造魔族計画が成功すれば我が国がこの大陸を治め、争いを失くすことができる。なぜこの意味が分からない!」
「そのせいで不幸になっている奴がいる」
「大事の前の小事!多くを救うための犠牲だ!」
「国としては政治としてはそれが正しいのかもな、、、」
「やっとわかったか!愚か者め!だったら―
「だけどな、そういう犠牲を許さないのが勇者だ」
「はぁ!?バカげたことを!そんなもの子供の絵空事だ!」
「そう、子供の絵空事なんだよ、勇者っていうのは。そしてその絵空事を現実にするのもまた勇者だ」
ロイドはルスタに剣を向ける。
「勇者こそ魔族を殺すのが仕事だろう!所詮魔族など魔物と変わらない愚かな種族だ!」
「言葉が通じるのに?感情があるのに?お前らはただ自分たちより優れた種族を認めたくないだけだ。腰抜けども」
「なんだと!」
「魔族を魔物と同じだと言いながら魔族の血に頼っている。お前ら恥ずかしくねーのか?」
ロイドがバカにしたような笑みを浮かべる。
「貴様ー!!!」
「図星つかれてブチ切れって一番ダサいやつだぞ?」
「殺す!」
ルスタは懐から小瓶を取り出し地面に叩きつける。すると辺り一帯が毒の霧で包み込まれていく。
「ミユキ、ジロウ!今すぐ引き返して地上に出ろ!ここは俺が破壊する!」
「でもあんた毒をどうやって防ぐつもりよ!」
「ロイド!わしらも一緒に戦うぞ!」
「お前らには別に頼みたいことがある」
「なに!?」
「なんじゃ!?」
「ニニカに俺がここにいるって伝えてくれ」
そう言ってロイドは笑った。
*
「お姉ちゃん、大丈夫?」
未だに表情は変わらないが、ニニカと話すときだけニーコは変な言い回しを使わなくなっていた。
「大丈夫だよ、ニーコちゃん!お姉ちゃんに心配はご無用さ!」
「でも皆がいなくなってから、不安そうにしてる。そう見える」
「、、、ニーコちゃんにはわかっちゃうか」
「妹だから」
「でも皆はきっとボクのために動いてくれてるから、ボクらはここで待ってないと」
「わかった」
ニニカとニーコはミユキに指示された王都の外れの宿屋で身を寄せ合っていた。
ドゴン!
だがそんな部屋の屋根を突き破って一人の少女が二人の前に現れる。
「ガルルるるる!!!」
彼女もまたニニカと同じ髪の色をし、ニーコの様な少女の姿をしていた。だがニーコとは違い言葉を交わすことができるようには見えなかった。
まるで獣の様に四つん這いで、牙が生え、涎を垂れ流し、目は血走っている。
被検体13号、人造魔族計画初期に生み出された失敗作だ。彼女はギリギリ生き物としては成立していた。だが理性はなく、人の形をしたただの魔物のような存在だった。それでも何とか生き物としては成立し、言葉は通じないが、匂いをかがせたものを探し出し殺すという単純な命令にだけは従ったため研究材料として生かされていたのだ。
215号の匂いを辿って13号はニニカたちの元までたどり着いたのである。もちろん13号にも魔石が埋め込まれており、215号を殺した後は速やかに近くで監視している研究員がその魔石を爆破することになっている。
だがここで研究員は予想していない状況を目にしてしまう。215号がニニカと一緒にいたのだ。ニニカまで殺してしまったら計画自体が頓挫してしまう。
迷ったが膨大な魔力を持ったニニカが死ぬわけはないと判断する。別に傷を負う分には問題ないのだ。もしニニカを死にそうになったらその時は魔石を爆破させればいい。
「ニーコちゃん、この子も」
「うん、この子もお姉ちゃんの妹」
「うっ!そっか」
ニニカは辛そうな顔をするが、正直そんな暇はない。目の前の13号はすでに戦闘態勢に入っているのだから。
「ガルルるる!グガー!」
13号が凄まじいスピードでニーコに飛び掛かる。
「危ない!」
―闇魔法 影の束縛―
13号の影から無数の黒い腕が伸びて13号を縛る。しかし―
バキバキバキ
「ぐがああああ!!!」
13号は自分の腕や足を引きちぎりながらもニーコに向かって行こうとする。
「嘘でしょ。痛みがないの?」
「違うよ、お姉ちゃん。あの子は四肢が千切れる痛みなんてとっくに慣れてるんだよ」
拘束は解いたが四肢が無くなった13号はその場に這いつくばる。だがしかしすぐにその手足は再生されていく。
「きっと再生するから何度も千切られて実験されてる」
「そんな、、、」
ニニカの顔は青ざめていく。
今まで見て見ぬふりをして考えないようにしてきたことが、まさかこんなむごい現実を生み出していたなんて。
涙があふれ、息も出来ない。そして今まさに妹が妹を殺すために飛び掛かってきている。だがもう―
『どうすればいいかわからない』
ニニカは動けなくなっていた。
ドゴン
だが次の瞬間ニニカの目に映ったのは殴り飛ばされた13号と炎を纏った男だ。
「おい、魔力女。いつもの元気はどうした」
「ゲイル君?なんでここに」
「ロイドがお前を守ってくれって俺のところに頼みに来たんだよ」
「ロイド君が?」
「ロイドに頭下げられたのは初めてで調子狂ったけどな。と思って来てみたら今度はうぜぇぐらい元気な女が絶望してやがる。今日は調子が狂いっぱなしだな」
「本当でやんすね!」
後ろからひょっこりサスケも現れる。
「家で待ってろって言ったのに結局付いてきやがって」
「あっしはアニキの傍を離れないでやんすよ!」
「ちっ!俺の後ろに下がってろよ」
「はい!アニキ!」
嬉しそうにサスケはニニカたちの近くへと行く。
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