第38話 動き出す者たち

翌朝ロイドは学園長の小屋へと向かった。


扉をこじ開け緊急用と書かれたベルを鳴らす。


すると突然ヴァンクレストがロイドの前に現れる。


「何の用じゃ?こんな朝早くから」


「じいさん、人造魔族計画について知ってることをすべて話せ」


ロイドはヴァンクレストを睨みつける。


「どこでその計画について聞いた!?」


「聞いたんじゃねぇ。人造魔族をを保護した」


「はぁ!?人造魔族を保護したじゃと!?アレは国家機密中の国家機密じゃぞ!儂でもまだ尻尾を掴めん!」


「知ってる事だけでいいから教えてくれ」


ロイドの真剣な目を見てヴァンクレストが口を開く。


「ニニカを保護するにあたり国が出した条件はニニカの研究利用じゃ。ニニカに直接危害をくわえないのならと儂は了承した。しかし最近になって人工的に魔族を、というかニニカのクローンを作りだそうとしてることを知ったのだ」


「そうか」


「しかしまだ全貌は掴めていない。かなり厳重に隠されているからな。だがまさかお前の元に実験体が訪れるとは」


「まあ俺の元というよりニニカの元にだがな。なら悪いがここからは好きにさせてもらうぞ?」


「ちょっと待て。早まるな!ロイド!」


「早まらなくてどうすんだ!クソじじい!ニニカが悲しんでるんだぞ!


ロイドからオドが吹き上がる。


「止めても止まらぬか。それがお主の勇者じゃもののう」


「だからアレを寄越せ」


「、、、ほら持っていけ」


ヴァンクレストは異空間から指輪を取りだしてロイドへ投げる。


「俺が言うのもなんだが、こんなにあっさり渡していいのか?俺はこの国をぶっ壊すかもしれねーぞ?」


「はぁ、お前がそうしたいと思ったなら好きにしろ。だがその時はちゃんとわしも殺していけよ」


ヴァンクレストが渡した指輪は『勇者の証 Aランク-』。勇者の証は学園を卒業したものに渡される文字通りの勇者の証だ。だが階級が存在する。


勇者の階級はEからSまで+と-も含めれば18ある。そのうち立ち入り禁止区域に申請なしで入れるのはAランク-からだ。


勇者の証を授けるのは王や貴族、役人ではなく勇者学園学園長と決められている。学園長にとって最も大事な役目だともいえる。それなのにヴァンクレストは渡した。在学中の者に勇者の証を渡すだけでも大問題なのに、ましてやAランクの指輪を渡したのだ。だがヴァンクレストはわかっていた。指輪を寄越せと言ったのはロイドの最後の優しさなんだと。恐らく指輪を渡さなかったとしても今のロイドが止まるわけない。きっと罪のない役人たちを殺してでも突き進むはずだ。だからロイドは言った『寄越せ』と。自分から奪い取って行くと言ってくれたのだと。


もう出ていったロイドを思いながらヴァンクレストは考える。


「昔から優しい子だったからな。はぁ、年は取りたくないもんじゃ。感傷深くなるばかりで、二の足を踏んでばかり。教え子に全てを背負わして何が教師じゃ。ロイド、せめて後顧の憂いは儂が晴らしてやろう」


そう呟いた瞬間にヴァンクレストはその場から姿を消す。





小屋を出たロイドはヴァンクレストに貰った勇者の証を使って研究所を探し回っていた。


「ちっ!ここも違うか」


ロイドには魔力による探索などはできない。だからいままでそういったことはニニカに頼って来た。だが今回はそうはいかない。今回だけはニニカを連れてくるわけにはいかなかった。きっとニニカは見たくないものを見てしまうから。


だからこそロイドは片っ端から怪しそうな所を潰して回った。まあ潰すこともなかったんだがロイドはイラついていた。それはそれはイラついていたのだ。


なぜならニニカのあんな顔を見たのは初めてだったから。


「ニニカのためというよりかは俺の憂さ晴らしだな。いよいよになればこの国ごと消し飛ばしてやる」


そんなロイドの前に2人の勇者が立っていた。


「ロイド、探したわよ。一緒に行くわ。私も腹が煮えくり返ってるのよ」


「ロイド、儂も行くぞ!ニニカは友達だからのう!」


ミユキとジロウだ。


「俺一人で十分だ」


「確かに十分かもしれないわね。でもあなた一人じゃこの国ごと壊してしまうわ。というかそうしようとしてるでしょ」


「、、、」


「ロイド、お主の怒りはわかる。でも全てが終わったときに皆で仲良くご飯を食べられないならそれは何の意味もないんじゃぞ」


「、、、」


「頭冷やしなってことよ」


ミユキはロイドの手を握る。


「はぁ、わかったよ。正直場所の見当がつかなくて困ってたとこなんだ。頼めるか?」


「任せなさいよ」


「任せよ!」


「二人ともありがとうな」


今回の件で初めてロイドが平常心を取り戻した。





「で、ロイドは学園長から『勇者の証』を貰って来てるんでしょ?」


「ああ」


「ランクは?」


「A-」


「それなら十分ね。人造魔族の研究は国の内部でも一部しか知らない極秘機密。絶対見つからないような場所で行われてるはず。だからロイドは片っ端から潰してやろうと思ったみたいだけど」


「心当たりはあるのか?」


「知られたくないってことは出来るだけ関わる人間を減らすはず。だったら移動なんて作業は無駄でしかない」


「ということはニニカが採血を受けていた王城かのう?」


「まあ王城と言っても場所自体は隠されてるでしょうけどね」


「隠されてるってことは地下か?」


「そうね。これだけの計画を隠していられるとしたら地下しかないでしょうね」


「ちょっと待てよ。それならA-じゃ全然十分じゃないだろうが」


「どっちみち王城に正面から入ることなんてできないし、入ったところで王城の中で隠された地下への入り口を探すなんて無理に決まってるわ。それなら穴を掘って直接行ったほうがいいわ」


「で、どっから掘るんだ?」


「王城の裏にある王族霊園からよ。あそこならA-で入ることができる」


「はははは!さすがミユキだ!よし、じゃあ王族の墓を掘り返しながら王城を目指すか!」


ロイドは楽しそうに笑う。


「ミユキは豪胆じゃのう」


ジロウも感心している。






「まだ215号は見つからないのか!」


研究所では所長であるルスタ・オスレが大声をあげていた。


「215号には魔石が埋め込んであるだろう!その魔力を辿ればいいだけだろーが!」


「それが途中で急に反応が無くなりまして」


「なんだと!?反応が無くなった場所は!」


「研究員を向かわせましたが、何もないただの河原だったとか」


「反応が無くなる前までに言った場所は調べたのか!」


「はい。ですがどこも特に意味のない場所ばかりでして」


「どういうことだ!」


「王都西区に215号の魔石反応あり!」


ルスタが困惑していると別の研究員から朗報が届く。


「よし!今すぐそこに直行しろ!」


「はい、ですが、、、」


だが喜んでいるルスタとは逆に研究員たちは渋い顔をしている。


「どうした?」


「時折あらゆるところでこの反応はあるんですが、向かっても何もないんです」


「なに!?」


「まるでおちょくられているようで、、、」


「なんだと!ふざけよって!!!」



ニーコの魔石はニニカの魔法によって掌握されており、ニニカによって誤情報を送られているのだ。



「くそ!こうなったら仕方ない。アレを使え」


「いいんですか?」


「王都に被害が出てしまう可能性が」


「構わん。この研究の重要性の方が勝る」


「わかりました。それでは被検体13号を牢から出します」

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