第34話 二天流 白虎

「ぐぎゃああああ!!!!」


「なんだ?いきなり」


さっきまではひたすら機械のように毒のブレスを吐き続けていた八岐大蛇の様子が突然変わり、急に暴れだす。


『ロイド君、炎の人がジライヤを倒して洗脳が解けたんだよ』


「ん?ニニカか!」


『うん、今ミユキちゃんに魔力を貰ってそっちに向かってる。もう少し待ってて!』


「マジか。そりゃ助かる。正直どうしたらいいかわからなくなってたとこなんだ。それで洗脳が解けるとどうなる?」


『まあ大して変わらないんだろうけど。ボクの魔法が通じるようになる。つまり―


「ジロウを助けられるんだな!」


『その通り!だからもう少し踏ん張って!』





話は一旦数十分前にさかのぼる。


「ミユキちゃん。とんでもない化け物の封印が解かれたみたい」


ゲイルが作った炎の結界の中でニニカが深刻な顔でミユキに言う。


「え!?どういうこと!?」


「ベヒモス以上の魔物が解放された」


「うそ、、、で、でもロイドなら」


「ボクもそう思うんだけど、その化け物はジロウちゃんを依り代にしてるみたいなんだよ!」


「え!?」


「普通の戦いならロイド君はきっと負けない。でもこれじゃあロイド君は戦えない。今この状況をどうにかできるとしたらきっとボクだけだ。だから―


「魔力が必要なのね。いいわ、私の魔力全部持っていって」


「いいの?」


「うん、だからロイドとジロウを助けて」


「あえいがとう。約束するよ」


「私たちって―


「親友でライバルで、それでやっぱり親友だよ!」


「そっか」


ニニカはミユキを抱きしめ、ミユキも抱きしめ返す。そしてミユキは自分に残った魔力の全てをニニカに託した。





「さて、ジロウ。お前の友達たちがお前助けにやってくるぞ。お前とまた遊びたいんだとよ。だからそれまでは俺が遊んでやるよ」


ロイドはひたすら八岐大蛇の攻撃を後ろへ通さないように耐える。もちろん朱雀を使ったままの状態でだ。


さっきと変わらない。だがニニカが来るとわかったことで目途が立った。


「うごぁぁぁぁ!!!」


「大丈夫だ。もう少し頑張れ。お前の友達が助けてくれる」


ロイドはひたすら八岐大蛇の攻撃を受け止め続ける。そしてその時は来た。


「うがぁぁぁ!」


「もう少しだけ俺と頑張ろうぜ。お前なら余裕だろ。なんたって俺に本気を出させた勇者なんだ」


ロイドは届くはずのない言葉をかけ続ける。


「ろ、ろ、、い、ど?」


「俺が分かるのか!?」


「ぐごおおおおお!!!」


八岐大蛇は八つ頭全てが毒のブレスを吐こうと力を貯めだす。


「まあ、そう簡単に戻ってくるわけないよな。いいぜ、俺が全部受け止めてやる」



―くらがぽgjらpgjらぽgじゃrpご―



八つの頭から同時にブレスが放出される。



―二天流 玄武 金剛―



ロイドはオドを全て防御に回し耐えきる。耐えたといってもギリギリ。オドの消耗は激しい。


「はぁはぁはぁ」



―gかろgはおgはりpほj―



だが休む暇もなく再び8本のブレスがロイドに襲い掛かる。そしてこれが幾度となく繰り返された。


「お待たせ!ロイド君!生きてるかい!」


やっとニニカがやってきた時、ロイドはボロ雑巾のようになりながらかろうじて立っているようだった。ひたすらブレスを後ろに生かせないように耐え続けていた結果だ。


「生きてるよね!?」


そんなロイドの姿を見てニニカが駆け寄る。ニニカの顔は青ざめていた。とてもじゃないが生きているような姿ではなかったから。


「、、、ごはっ!、、、生きてるに決まってんだろ。はぁはぁはぁ、とっととあの蛇をぶった切ってやりたいからジロウから離してくれ。ぐはっ!」


ニニカが来たことで安心したのかロイドは片膝をつく。


「任せて。だからあともう少しだけ頑張ってね」



―闇魔法 超極大悪魔祓い―



ニニカが魔法を発動させた瞬間空が黒に染まる。夜よりも暗い完全なる黒だ。目は何も映さない。視覚するという行為が諦められた闇が八岐大蛇を呑み込んでいく。


「ぐがぁぁぁぁ!!!!」


何も見えなくなった闇の中から八岐大蛇の叫び声だけが聞こえてくる。


ニニカの魔法により八岐大蛇とジロウが徐々に引き剥がされていく。


「おりゃあああああ!!!」


八岐大蛇とニニカの魔力の力比べだ。


「ぐぎゃあああ!!!!」


もちろん八岐大蛇も必死で抵抗してくる。だが魔力においては神獣だろうが伝説の魔獣だろうが、ニニカに勝てはしない。


「返してもらうよ、、、って言うか返せぇぇぇ!」


ニニカは一気に八岐大蛇からジロウを引き抜く。


「うぎゃあああああ!!!!」


ジロウから引き剥がされた八岐大蛇は叫び声をあげながらもだえ苦しむ。


「よくやった、ニニカ!で、このクソ蛇は依り代が無くなって大地に憑りつこうとしてるって感じか?」


ジロウから引き剥がされた八岐大蛇は土や木、水、あらゆるものを取り込んで不格好ながらも自分の形を形成しようと足掻いていた。


「ロイド君の回復も―


「いやいい。アレはもう斬っていいんだな」


「うん、ジロウちゃんは八岐大蛇から完全に放したよ!だからロイド君の傷も―


「あのクソ蛇、散々毒ぶっかけやがって。ぶった斬ってやる!」


ロイドは邪悪な笑みを浮かべる。


「ろ、ロイド君?」


「ああ、そういえばニニカ。ジロウと他の連中を頼めるか?」


「大丈夫。ジロウちゃんと毒を受けた人たちはボクが回復する。無問題さ!」


今にも倒れそうな体でニニカはサムズアップする。


「そうか、じゃあ任せるぞ」


ニニカがどれだけ疲労しているか、どれだけ限界かもわかっていたが、ロイドは背中を全てニニカに任せる。信じていたから。誰よりも。ニニカのことを。


「任された!だからロイド君!」


「ああ、わかってる!」


「行っけえええええ!!!」


ロイドはその場から飛び立ち八岐大蛇に突っ込んでいく。



―二天流 玄武 殺刃―



「ごぎゃああああ!!!」


ロイドは八岐大蛇に斬りかかるが、八岐大蛇もまたロイドを標的と定めて襲い掛かる。


「ちっ!これでもダメか。じゃあ」


ロイドは剣に纏わせたオドを限界まで研ぎ澄まし、圧縮し、更に研ぎ、さらに圧縮する。


黒いオドは更にその黒さを増していく。それを限界まで繰り返した時、黒すぎる黒は限界を超えてその色を失う。


オドを纏う剣はまるで二本の虎の牙のように真っ白く輝きだす。


ロイドの最強の一撃。この技を使えばしばらくはオドを練ることさえできなくなる。だがその威力は絶大。


ここまで使いすぎて、もう残り少しとなったオドでさえも磨き抜くことで一瞬の輝きを放つ。


「これで終わりだ。気持ち悪いんだよ、お前のフォルム。消えろ」



―二天流 白虎―



ロイドは八岐大蛇ごと辺り一面を消し飛ばす。文字通り消した。白虎の牙は触れたものを消滅させる。


何もなくなったその場所には力尽きたロイドだけが倒れていた。

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