第33話 ゲイルVSジライヤ
「ったく!乱暴な奴だ」
ゲイルによって王都の外れまで飛ばされたジライヤが土煙の中から立ち上がる。
「さっさと立て。カエルと一緒に殺してやるからよ」
ゲイルは炎を纏いだす。
「おいおい、何をそんなに怒っている?もしかしてあの娘を連れて行ったことか?」
「、、、」
「図星か?なんでそこまで固執する?少しだけ行動を共にしただけだろう?」
「いいから返せ」
「なんだ?ロリコンだったのか?じゃあ愛しの彼女を奪って悪かったなぁ!ひゃはははは!」
ジライヤは挑発するように大げさな笑い声をあげる。
「はぁ、そういう安い挑発は他所でやれ。お前が何を言おうが、俺はお前を殺すし、サスケは取り返す」
「ちっ!」
―闇魔法 洗脳―
「平伏せ」
ボウッ!
ジライヤがゲイルに闇魔法をかけようとするがそれは弾かれる。
「なにっ!?」
「お前の魔法は人間の脳に闇を潜り込ませて操るものだろ?なら俺にそれは届かない」
「はぁ!?何を言っている」
「闇だろうが何だろうが存在しているなら俺に燃やせないモノはない。お前の闇も俺の中に入る前に焼き焦げたんだよ」
ゲイルは更に燃え上がる。
「闇を燃やした?」
「ああ。そしてこの後お前も燃えカスになるんだよ」
「、、、闇を燃やすね。なら真面目に戦わないといけないのか。はぁ、めんどくさい」
ジライヤはダルそうに刀を抜く。
そして凄まじい魔力を放出し、大量のオドを取り込む。
そう、そもそもジライヤにとって闇魔法などおまけに過ぎない。彼が天才と呼ばれた理由はその膨大な魔力と膨大なオドの許容量ゆえである。
「どうでもいいからさっさと死ね」
燃え上がっているゲイルが切りかかる。
しかし魔力とオドを混ぜ合わせたジライヤはその剣を受け止める。魔力とオドにコーティングされたジライヤの剣はゲイルの熱で溶かされることはなかった。
「もうお前の熱は俺の魔力とオドを上回ることはない」
一一旦距離をとったゲイルはふむふむと言った感じで自分の刀を見る。
「なるほどな」
「どうした?諦めたか?」
「ん?いや別に」
ゲイルは更に燃え上がる。
「なに!?」
「なんだよ、その顔。笑えよ。やっと楽しくなってきたところじゃねーか」
ゲイルの炎は控えめに言っても倍以上に膨れ上がる。
ゲイルの炎によってあたりから水分が消えていく。
急激に乾いたジライヤの唇からは血が流れる。
「ちっ!太陽にでもなるつもりかよ」
「太陽?それでも足りない。あの最強の勇者を倒すためにはな」
ゲイルはまだまだ火力を上げていく。
「バケモノめ」
ジライヤは息をのむ。
「という訳で死ね!」
途轍もない炎を帯びながらゲイルはジライヤに斬りかかる。まさに必殺。避けても受けても丸焦げになる反則的な一撃だ。
だがその一撃は空振りに終わる。
ジライヤがその場から一瞬で消えたからだ。
ジライヤは速いわけではなく完全なる瞬間移動でゲイルの背後に現れる。
「ちっ!」
舌打ちをしながらゲイルが振り返ると、ジライヤは巨大なガマガエルの上に立っていた。
「その精霊はお前のものじゃねーな」
ゲイルはジライヤを睨みつけて言う。
そもそも闇属性の魔力を扱うものは精霊と契約することはできない。なぜなら精霊には闇という属性は存在しないから。
「ああ、闇属性がバレれば周りに警戒される。だからちょうど精霊を持っていた父親を殺して奪い取り、属性を偽装したんだ」
「精霊を奪うなんて聞いたことねーんだけど」
「主を失ってすぐにこの精霊を洗脳したのさ。まあ俺以外には無理だな」
「、、、なるほど」
ゲイルはもうジライヤの話に飽きたような顔をしていた。
「そんな悠長にしていていいのか?ガマを呼び出した俺は空間を支配するぞ」
もう勝ったかのようにジライヤはガマの上からゲイルを見下ろす。だがゲイルの顔色は変わらない。
「瞬間移動でも何でもしろよ。突然近づいてきたところで触れられなければ意味がねぇだろ」
ゲイルは全身に炎を纏う。
「空間を支配するって意味が分かってないみたいだな」
ジライヤがそう言った瞬間、ゲイルを包んでいた炎が一瞬で消える。
「ん!?」
「お前の周りから酸素を取り除いた」
「ああ、そういうことか」
そう呟いたゲイルはすぐにその場から離れた。
「今のはあいさつ代わりだ。次は空間ごとお前の身体を抉ってやるよ」
空間の歪みを感じたゲイルは急いで回避するが、若干横腹を抉り取られた。
「ごはっ!」
「いい反応だ。本当は真っ二つにしてやろうと思ってたんだが。まあ、それでもその出血量じゃすぐに死にそうだな」
抉られた横腹からは大量の血が流れ出ていた。
「確かにこのまま血が流れ続けたら死ぬな」
「よくわかってるじゃないか。お前は死ぬんだよ」
「このまま血が流れ続けたらな」
そう言った瞬間ゲイルは炎を噴き出し、自分の横腹の傷口を焼く。
「なるほど迷わず焼いたか。お前を殺すにはもう少し必要みたいだな」
―お前らも来い、ビビ、マイマイ―
ジライヤの周りに巨大な蛇とナメクジが現れる。
「それも奪ったのか」
巨大なカエル、ヘビ、ナメクジを見ながら呆れたようにゲイルが言う。
「イガの里の精霊は全部奪ったからな」
ジライヤは誇らしげに答える。
「キモいな、お前」
「俺の闇魔法が洗脳だと分かった時、お前は俺を舐めただろう?だが洗脳とはこうして真価を発揮するんだよ」
「どうでもいい。全部燃やせば終わりだ」
「バカなのか?お前の炎は俺の前じゃ燃えることはできないんだよ」
「ああ、そういえばそうだった」
ゲイルはあっけらかんと答える。
「更にヘビのビビは毒を操り、ナメクジのマイマイは周りのものを溶かす。ガマによって炎が使えないお前はこの二つを防ぐことはできないだろ?」
「、、、うん、確かにその通りだな」
「諦めたか!じゃあさっさと死ね!」
ゲイルはさっきから炎を出そうとしているが周りから酸素を奪われているために発火できない。そして目の前には毒霧を吐き出すヘビと溶解液を噴射するナメクジ。まさに絶体絶命な状況。だがゲイルの心は落ち着いていた。
それならやることは単純だから。
今の自分を超えるだけ。普通は実戦でいきなりそんなことが出来るわけないが、ゲイルは違う。
そんなことはロイドと戦うたびに毎回やってきたことだ。限界まで修行をしてそれを出し尽くしてもロイドには勝てない。ロイドと対峙した時には限界の一つや二つ越えなくては話にならない。
だからゲイルにとって格上との戦闘中に自分の限界を超えることなど、当たり前のことなのだ。
『酸素がないこの状況では俺の炎は使えない。ならばどうするか』
ゲイルは懐かしく思っていた。ロイドと戦っているときには何度もやった自問自答だ。そしてゲイルは答えを出す。
『炎の質を変えるしかない。酸素など必要としない炎。もっと凶悪な、もっと暴虐な炎。炎をも燃やすような』
諦めない者は死地でこそ最も成長する。向かう方向を定めたゲイルに魔力が答える。
―火葬葬衣―
ゲイルから黒い炎が噴き出し、その黒炎はゆっくりと収まっていき衣に姿を変える。まるで喪服のような。
同時に黒炎はゲイルの体までも焼きだした。だがゲイルはそんなことどうでもいいと言った感じで、ずっと抜いていなかったもう一本の刀、カグツチを抜く。カグツチもまた黒い炎に包まれていた。そしてそのままゲイルは一瞬でヘビとナメクジを焼き切る。
『おい!あちーぞ!何だこれ!なんで俺が熱いんだよ!訳が分からねぇ!』
突然カグツチが話し出した。
「なんだやっと起きたのか、カグツチ。いくら起こしても起きねぇから死んでるのかと思ったぜ」
『うるせぇ!狸寝入りだよ!お前みたいな小僧の言うことなんか聞きたくないから無言の抵抗をしてたんだよ!そんなことより熱いんだよ!早くこの黒い炎を消せ!』
「消してほしかったら目の前の敵を焼き尽くせ」
『なんでお前の言うことを聞かなきゃいけねーんだ!』
「だったらこのまま燃え尽きろ。別の刀を探すだけだ」
『くっそーーー!!!!このカグツチ様に代わりなんていると思うな!見せてやるよ!俺様の力を!』
カグツチを包んでいた黒炎は急に勢いを増して燃え上がる。
「これがお前の力か?」
『俺は小さな火種であっても大火に変える。それがどんな炎であってもだ!だが俺が熱さを感じる炎なんて初めてだけどな!』
「ならもっと燃やせ。こんなもんじゃ刀に頼る必要なんてない」
ゲイルはがっかりしたように言う。
『小僧!舐めやがって!まだ準備運動程度だ!ここからなんだよ!』
さらに黒炎は燃え上がり空に立ち昇る。
「まあまあだな。少しは使えそうだ」
『クソガキがぁぁ!!!』
「うるさい、黙れ。ここからが本番だ」
ゲイルの前には瞬間移動してきたジライヤと蝦蟇がいた。
「お前よくも俺の精霊を二匹も殺しやがったな」
「殺されて怒るんなら檻にでも閉じ込めておけよ」
「死ね!」
再びジライヤは空間を抉り取る。今回は前回と違って避けることができないようにゲイルだけでなくその周りの空間まで大きく抉る。
「、、、」
ゲイルは黒い炎が噴き出しているカグツチを振る。
「な、なんでだ?」
ジライヤは驚いていたが無理もない。抉ろうとした空間は何事もなかったかのように当たり前のようにそこに存在していたからだ。
「お前何をした!」
「空間ごと燃やした」
「はぁ!?空間を燃やす!?意味が分からない!そんなことできるわけないだろう!」
「出来たんだからしょうがねーだろ」
「ふざけるな!」
「うるせーな。てかお前暢気に喚いてる暇あんのか?」
「何を言ってる?」
『ぐぎゃああああ!!!!』
意味が分からないという顔をしていたジライヤの足元でガマが叫び声をあげる。
「な、何が起こった!」
いつの間にかガマが黒い炎に包まれていたのだ。
「なぜ!お前、何をした!」
「そのカエルが触った空間を燃やしたんだ。燃え移るに決まってんだろ」
「なに!?クソが!」
ジライヤは氷結系の魔道具を発動して火を消そうとする。だが―
「消えねーよ」
「はぁ?」
「この獄炎は消えない。炎さえ燃やし尽くす不滅の炎だ」
「だ、だがそんなことをしたらお姫さんまで燃えちまうぞ!ガマの腹の中にいるって言ったのを忘れたのか?」
「サスケならもう回収した」
いつの間にかゲイルの傍らにはサスケが抱えられていた。
『こればっかりは俺がいなきゃ無理だったろーが!俺は自分で火を点けたもの自体に干渉することができる!そのおかげだぞ!コラ!』
「ああ、よくやった」
『よくやっただと!?ありがとうございますだろーが!クソガキ!』
「うるせぇ!黙れ!まだ敵は生きてんだろーが!舐めた仕事してんじゃねぇ!」
『むきぃぃぃぃ!!!』
「ん?あ、アニキ?」
「よう、迎えに来てやったぞ」
「あ、アニキーーー!!!うわぁぁぁぁん!」
目覚めたサスケはゲイルを見た安心感で泣き出した。
「ここで少し待ってろ」
そう言ってゲイルはサスケをその場に降ろす。
「アニキ、、、」
不安そうな顔をするサスケの頭をゲイルは荒々しく撫でる。
「あ、アニキ!?」
「俺が来たのに不安なことなんてあんのか?」
「、、、な、ないでやんす!!!」
さっきまで泣きそうだったサスケは目をこすり、満面の笑みでゲイルを見る。
「それでいいんだよ」
本人も気づいていなかったがゲイルは優しく笑みを浮かべ、再び戦場へと戻っていく。
サスケはこの時のゲイルを一生忘れない。この瞬間、サスケにとっての勇者が決定したのだから。
「おい、お前。足手まといを抱えて俺に勝つつもりか?」
サスケをかばいながら戦うゲイルにジライヤはしびれを切らす。
「はぁ?当たり前だろ。なんだよ、もっとハンデが欲しいのか?」
ゲイルは小バカにしたような顔でジライヤに答える。
「、、、そうかよ」
―来い、鵺―
ジライヤは猿の顔、狸の胴体、虎の手足、尾は蛇の精霊を呼び出す。
「まだ奪った精霊がいたのか」
「これは奪っただけじゃない。奪った精霊たちを配合して作り上げたオリジナルの精霊だ」
「どおりで気持ち悪い見た目なわけだ」
「死ね!お前も殺して俺の人形にしてやる!!!」
鵺に乗ったジライヤがゲイルに向かってくる。
だがゲイルは全く動じることなく、ジライヤを見る。
「もう飽きたぜ。クソ忍者」
「え?」
「終わりだ」
ゲイルがカグツチを振り抜いた瞬間、ジライヤは鵺と共に真っ二つにされその切り口から燃え出した黒炎により灰さえ残さず燃え尽きた。
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