第27話 気味の悪い国
帝都は大いに栄えていた。だが景色を見ながら列車でやって来たロイドたちには気持ちの悪いものに見えた。
帝都に入るまではひたすら畑しかなく、そこにはやせ細りながら奴隷のように働く農民たち。そんな具合の悪いものをひたすら見せられてきて、帝都に入った途端、突然王都以上に栄えた街が現れたのだ。
ある線を越えた瞬間に世界が変わったようなそんな気味悪さだった。
「まあ、よその国に口を出す気はないけど、ここは異常だな」
「確かに気味の悪い国ね」
「さっさと帝都を出ようよ。この街の人たち笑顔が張り付いてるみたいで気持ち悪い」
「お兄、ミルもここあんまり好きじゃない」
「そうだな。さっさとバスに乗るか。飯は途中で食おう」
ロイドたちは足早に帝都を後にした。すごく気味が悪かったから。だがこのあと帝国は少し変わる。今のロイドたちに気付くすべはなかったが、つい先日トップがすげ変わったのだ。まあこれに関してはまだ国民たちも気づいていないことだった。
逃げるようにバスに乗り込んだロイドたちはゆっくりとタカビヤ山脈へと向かう。バスは舗装されていない道を走り続ける。
やたらと揺れる車内。バス乗り場で買った弁当を食べる一行。
「揺れがすごいから全然味が入ってこないな」
「うん、何もしてないのに揺れのせいでよく噛めてるよ」
「多分おいしいわよ。こんな揺れながらでも食べられるんだから」
「お兄、ミル具合悪くなってきたかも」
「この道路全く舗装されてないもんな」
「一日二本しかバス出てないし、基本的に誰も行かない所なんじゃない?このバスだって乗ってるの私たちだけだし」
「そう言えばバスに乗りますって言ったとき運転手の人軽く舌打ちしてたもんね」
悪路を超えてロイドたちはタカビヤ山脈のふもとに辿り着く。ちなみに帰り際にも運転手は舌打ちをしていった。
あとで聞いた話だが、タカビヤ山脈行きのバスはダイヤ上では日に二本運行されていることになっているが、本当に動くのは月に一度あるかないからしい。
行きのバス停に客がいなければ運休。なぜならタカビヤ山脈から帝都に向かうバスに乗る者は絶対にいないから。
「はぁ、気まずいし揺れるしで最悪のバス旅だったな」
「あの揺れ悪路のせいもあるけど、運転手が貧乏ゆすりしながらアクセル踏んでたのも大きな原因の一つだと思うの」
「物凄いイライラしてたもんね」
「ミルたち何にも悪いことしてないのに」
「どうせ運休だと思って予定でも入れてたんだろ。まあ知ったこっちゃねーけど。とりあえずイラついたからタイヤパンクさせといたわ」
「え!?ロイド君!そんなことしてたの!?勇者にあるまじき行為だよ!」
「ちょっとロイドそれで事故にあって死んじゃったらどうするのよ!」
「死んだら死んだで運がなかったってことだろ。それにあの運転手、事故ごときじゃ死にそうには見えなかったけどな」
「どういうこと?」
「帝都の人間は気持ち悪いぐらいの笑顔を張り付けて生活していた。だがあの運転手は俺たちが乗ったときちゃんと嫌な顔をしたぜ?きっと操られる側じゃないってことだ。それがなにかもよくわからんけど。まあ事故って死んでも別にどうでもいい。就業態度の悪さが高くついたってだけだろ。むしろ死ね。6時間嫌な空気にしやがって」
「ロイド君って一応勇者志望だよね?」
「勇者って資格が欲しいだけだ。勇者としての心構えとかその辺はマジでどうでもいい」
「あ、言いきっちゃうんだ」
「ニニカ、お前だってそうだろ」
「まあ、ボクもそうだけど。ミユキちゃんと妹ちゃんがドン引きした目でロイド君を見てるよ」
「、、、よし!バスなんてどうでもいい!ここからが本番だ!気を引き締めていくぞ!」
「あ、なんか無理やり仕切り直した」
ちょっと変な空気になりつつもロイドたちはタカビヤ山脈を登り始めた。ふもとはそうではなかったが、登るにつれ気温が下がっていき雪もちらほら見られるようになってきた。
「寒くなってきたな」
「それもあるけど、ロイド!この辺で休みましょう?空気も薄くなってきてるわ。このままじゃ高山病になってしまう」
「そう言えば山にはそういうのもあったな。じゃあ今日はこの辺でテントでも張るか」
「ロイド君、高山病って何?」
「高山病(こうざんびょう、altitude sickness)とは、低酸素状態に置かれたときに発生する症候群。最近では(熱射病や日射病という病名が、より病態を表現した「熱中症」と呼称変更されたように)「高度障害」と呼ぶ場合も多い」
「それは何ペディアから引っ張ってきたの?」
「まあとにかく今日はここで野営するってことだよ。いいから道具を出せ!」
「もう人使い荒いんだから」
―闇魔法 闇空間収納―
突如現れた闇の穴からニニカはキャンプ道具を次々と取り出していく。
これはニニカの便利魔法のひとつだ。闇の中に色々なものを収納できる。量に応じて消費魔力も増えていくが、この程度ならニニカにとっては問題ない。
ロイドがテントを建てている間に女性陣は夕飯の準備をする。昼ご飯はバスのせいでちゃんと味わえなかったので気合を入れて調理を始める。メニューはカレーライス。まあキャンプと言えば定番。そして誰が作ろうが大体うまい。
だが3人の個性がぶつかり合うとたちが悪い。一人一人ならそれなりにうまいカレーも作れただろう。だがその三つが混ざり合うことによってよくないケミストリーが生まれた。つまり―
「不味い」
「「「え!?」」」
「食えないことはないけど、普通に不味い」
「そんなはず!」
「まずめちゃめちゃ甘いな。何入れたの?」
「私は隠し味に蜂蜜を入れただけだけど」
「ボクは隠し味にチョコレートを入れただけだよ!」
「ミルは隠し味にリンゴを!」
「うん、どれか一つでよかったな」
この日から料理は当番制になった。
ロイドたちは山脈の頂上を超え順調にヒノモトへ向けて進んでいた。
「そう言えばこの辺にシノビの里があるんだよね」
思い出したようにニニカが言う。
「イガの里ね。でも隠れ里らしくて詳しい場所は分からないわ」
学園の本を全て読み切っているミユキでさえイガの里の正確な場所はわからなかった。
「シノビか。一度見てみたかったけど、今は隠れ里を探してるような余裕はないしな」
「お兄、シノビといえば確か忍法を使うんだよね!」
「ジロウに聞いた話だと、魔力とオドをを混ぜ合わせた物らしい」
「でもそれだとサムライが使うのと一緒なんじゃないの?」
「確か混ぜ合わせる割合が違うらしいな」
「お兄!ミルも忍法見てみたい!」
「それはまた今度だな」
そのころタカビヤ山脈のふもとに一人の男がやって来ていた。
「たく!なんで俺がこんなところまでこなきゃいけねーんだよ」
とてつもなく不機嫌そうなゲイルだ。
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