第26話 ヒノモト国への旅スタート

ヒノモト国王城



「よく帰った。ジロウよ」


ジロウに声をかけるのはヒノモト国将軍であるノブヤス・ササキだ。大柄な男で城の中だというのに甲冑に身を包んでいる。


「はい、父上」


ジロウはいつもとは違い礼服に身を包み、言葉遣いや態度も大人びたものだった。


「一週間後お前はイガの里の新たな里長に嫁ぐこととなる」


「わかっております。ところで先代の里長はどうされたのですか?まだご健在であったはず」


「不慮の事故で急死されたようじゃ」


「そうなのですか」


「儂もこんな急なことになるとは思っていなかった。すまなかったな」


ノブヤスは本当に申し訳なさそうにジロウに言う。娘がサムライとしての未来を捨ててまで臨んだ留学生活、出来るなら全うさせてやりたかった。


「いえ、父上のせいではありません。ヒノモト国の姫としての役目をしっかりと果して見せます」


「、、、そうか。ところでイームスでの生活はどうだった?目的は果たせたのか?」


「はい。私の勇者と剣を交えることが出来ました」


ロイドとの戦いの記憶を抱きしめるように、ジロウは目を瞑りながら言った。


「思い残しがないならいい」


「はい」


ジロウは分かっていた。もう人生において剣を持つことはないだろう。出来る事ならもっとロイドと研鑽したかった。ミユキやニニカ、ミルたちといろいろなところに遊びに出かけたかった。思い残すことはたくさんある。だが最後の相手がロイドだったことだけは幸せだった。


「ヒノモトのためにありがとう」


「もったいなきお言葉。私の命はヒノモトのためにあります」


何にも縛られず自分の理想のためだけに突き進んでいくロイドに憧れた。だが自分にそれはできない。ジロウはヒノモト国を愛していたし、その愛は自分を押し殺しても構わないほどに深いものだった。


最後の我儘。ロイドともう一度戦うこと。


学園で久しぶりに会ったロイドはまるで別人だった。がっかりした。勇者になることを諦めている彼に。


だがやっぱりロイドはロイドだった。口では諦めたと言いながら、彼の手は潰れた豆で血塗れだった。きっと昔以上の鍛錬を続けているに違いない。彼は諦めていなかった。それを知れただけで嬉しかった。


そしてオドを教えてからのロイドの成長は信じられないものだった。やはり彼こそが勇者なのだと確信した。


最後に最強の勇者と本気の勝負ができた。これを一生の誇りとして生きていこう。偽りなくそう思えた。


「私は幸せです」


そう言ってジロウは笑った。





ロイドたちはイームスを旅立ち、列車に揺られていた。


「とりあえずはこの豪華寝台列車を満喫するか。金にものを言わせてスイートをとってやったぜ!」


「当日でもチケット取れたんだ」


「、、、運よくな」


「何かしたの?ロイド」


「何もしてねーよ。運がよかったんだよ」


「お兄あやしい~」


「いいから乗るぞ」


ヒノモトまでは列車で3日。ただでさえ気が滅入る長旅をどうしても快適に過ごしたかったロイドはしっかりと金にものを言わせていた。まあそれはいいとして、このスイートはかなりスゴイ。


まず高めのホテルと同じぐらいの広さのツインが二部屋。部屋分けはロイドとミルの兄妹チームとミユキとニニカの恋する女子チーム。


「とにかく朝早くてまだ眠いから俺は少し寝る。食堂は自由に使えるらしいから。何かあったら部屋をノックしてくれ。じゃあおやすみ」


二部屋に分かれた4人。まずはロイド、ミル部屋。ロイドは宣言通りソッコーで眠ってしまったため、つまらなくなったミルはすぐにミユキ、ニニカ部屋のドアを叩く。


「じゃあ皆でボクが持って来たゲームをやろうよ!」


そう言ってニニカはリュックから大きめのボードゲームを出す。わざわざそんなデカいもの持って来たのかい!とツッコみたかった二人だが、今この状況でこれだけしっかりしたゲームがあるのはすごく有難かったので、何も言えなかった。


「これが王都で爆売れ中の『民政ゲーム』!どれだけ自国民を幸せに出来るかを競うゲームだよ!」


「ポップな絵柄とは裏腹にかなり意識の高いゲームなのね」


「うん、難しそうだね」


「まあいいからいいから。みんなで軍政に牙をむこう!」


それからしばらく彼女たちは『民政ゲーム』をプレイすることになる。そして―


「どんどん公共事業を行っていくぞ!国民でさえ引くぐらい!」


「国民の幸せのためならば国など滅んでも構わない!」


「メルは国民のためならこの命いつだって捨てる覚悟があるよ!」


彼女たちはめちゃめちゃハマった。


コンコン!


そんな時、部屋のドアがノックされる。もちろん入って来たのはロイドだ。そしてロイドから驚愕の事実を聞かされる。


「おい、もう夜だから夕飯食いに行こうぜ。あんまり遅くなると食堂が閉まるぞ?」


「え?まだ昼過ぎでは!?って外暗っ!!!」


「本当だ!もう8時じゃない!」


「本当だ!我に返ってみたら物凄くお腹が空いて倒れそうだったよ!」


「どんだけ熱中してたんだよ」


呆れているロイドと目が覚めた3人娘は食堂車に向かうことにする。


「さて何を頼もうかなー」


席に着いた3人娘はメニュー表と睨みっこを始める。むしろメンチを切っていると言ってもいいほどだった。そして遂に彼女たちの注文が決まる。


「ボクはビーフシチューと食パン30斤」


「30斤!」


「私は激辛クリームシチュー」


「クリームなのに激辛!」


「ミルはカエル、ヘビ、ナメクジの三竦み丼」


「もうわかんない。気持ち悪い。こいつら注文ヤバいな。というか我が妹の注文が常軌を逸している」


「お兄!ごちゃごちゃ言ってないでお兄も早く注文しなよ」


「ああ、じゃあ俺はカレーライスで」


「「「・・・」」」


「俺だけ注文つまんないみたいな顔すんな!」


これから三日間、ロイドはこんな感じの注文マウントを他の3人にとられながら電車の旅を過ごした。


ロイドの精神がギリギリの段階でやっと電車の旅は終わった。つまり帝国に到着したのだ。

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