第24話 ブラッド・ドラキュール

一方ロイドは教会内の僧兵を皆殺しにしてそのまま『血盟の11人(イレブン ナイツ)』の加勢に駆け付ける。


「どうやらかろうじてまだ全員生きてるみたいっすね」


そこには満身創痍で戦い続けている十一人の勇者たちがいた。


「お前は?」


コーラスがロイドに尋ねる。


「ブラッド先生の教え子です。先生に頼まれて加勢に来ました」


「ブラッド様が」


「ちょっと下がっててください。あとは俺がやります」


「はぁ!?何を言って―



―二天流 玄武 功の型―



コーラスの言葉の途中でロイドは僧兵たちへと向かっていく。


「これが学生?とんでもない強さだ」

「それに人を斬ることにためらいがない」


何のためらいもなく敵を次々と切り伏せていくロイドを見て『血盟の11人(イレブン ナイツ)』たちも驚きを隠せずにいた。


そんなうちに全て斬り終わり血塗れになったロイドが彼らの元に戻ってくる。


「うっ!」


返り血に塗れながら何事もなかったかのような顔っで歩いてくる少年にさすがのコーラスも息をのんだ。その姿はおとぎ話で聞いた鬼そのものだったからだ。


「終わったみたいだな、先生」


ロイドは『血盟の11人(イレブン ナイツ)』ではなく、その後ろから歩いてくるブラッドに声をかけた。


「ああ、終わった」


『血盟の11人(イレブン ナイツ)』のメンバーは驚いて振り返る。


「よくご無事で!」

「仇は取れたようですね!」

「また生きてあえるとは!」

「我々も生き残ってしまいました」


『血盟の11人(イレブン ナイツ)』の面々はブラッドに駆け寄っていく。


「よく生き残った。ロイドありがとうな」


仲間たちを労いロイドに礼を言うブラッドの手には二つの生首が掴まれていた。


「それは?」


「ゲパイルと教皇の首だ。これを王に提出して今回の仕事は終わりだ。もうすぐ夜が明ける。証拠を残さないために教会とその周辺は燃やす。やれ」


「お任せください」


『血盟の11人(イレブン ナイツ)』の1人が前に出る。


―炎魔法 送り火―


ラエル山はゆっくりと燃え出す。そしてロイドとブラッドたちは山を下りていく。


「先生、山に火つけて大丈夫なんすか?」


「知るか。このあとは他の奴らの仕事だ」


「てかこのまま勇者教が無くなるとどうなるんですか?」


「かなり荒れるだろうが、王国側が新しい宗教を用意してる。確か『国聖教』だったかな。今度の神は国王だとよ」


「気持ち悪いですね」


「ああ、だがもうどうでもいい。バカ共は勝手に恥をさらしていればいい。俺には関係ない」


「先生のその感じ俺好きですよ」


「お前は夜が明ける前にさっさと帰れ」


「了解。先生は?」


「俺はこの汚ねぇ生首を王に渡しに行く」


「こんな明け方に王城開いてるんですか?」


「開いてなくても無理やり開けさせるさ。こんな汚いもの1秒たりとも長く持っていたくねぇ」


「はは、じゃあまた学校で」


そう言ってロイドは帰って行く。


「お前らもご苦労だった。ありがとうな」


「礼なんていりませんよ。ブラッド様が戦場に赴くときはいつだって我々はお供します。それが貴方様の『血盟の11人(イレブン ナイツ)』です」


「そうか。じゃあまたな」


「「「「「「「「は、はい!」」」」」」」


『血盟の11人(イレブン ナイツ)』は驚いたと同時に嬉しかった。まさかブラッドの口から『またな』なんて言葉が出るとは思ってなかったから。

この戦いを最後にブラッドは本当に引退してしまうのだと思っていた。だが彼は次があると言った。つまりまだ次の戦場があるということなのだ。それが何よりも嬉しかった。


『血盟の11人(イレブン ナイツ)』と別れたブラッドは王城へと向かう。若干日が昇り始めていた。こんな早朝に王城に訪れる者などいない。門番が警戒してブラッドに槍を向ける。


「なんだ貴様!」


さすがに生首は布袋に入れていたが血が滲んでいた。槍を向けた門番の反応は正しい。だがブラッドは一切動じない。


「王を叩き起こせ。これが面会状だ」


ブラッドは今回の任務を受けた時に貰った王印の入った紙を見せた。


しばらくたってブラッドに入城の許可が下りる。そのまま近衛騎士に案内されて王の執務室へ向かう。


中に入ると王が不機嫌そうに座っていた。横に立っている宰相も若干不機嫌そうだ。こんな早朝に起こされたのだから無理もない。だが今回の勇者教潰しは極秘案件。ブラッドの面会を無下にすることはできなかった。


「貴様、こんな時間から何のようだ!」


「何の用って、任務完了の報告に決まってるだろう」


悪びれもせずにブラッドが呆れたように言う。


「だからと言ってこんな早い時間に来なくとも」


「だったらこの生首をその辺に放っておいてもいいのか?ほれ」


ブラッドは王の机の上に生首が入った袋を投げる。


「ひっ!宰相、お前が確認しろ!」


触りたくもないと言った感じで王は宰相に指示を出す。宰相は袋の中身を確認して、この首が教皇とゲパイルのもので間違いないと王に伝える。


「そうか、よくやった。ご苦労。帰っていいぞ」


めんどくさそうに王はブラッドに言い放つ。


「報酬は?」


「これは記録に残らない任務だ。国庫から褒章を出すことはできん。だが貴様を教職から国の重役に取り立ててやろう。光栄だろうが!」


「はぁ、バカと話すのは疲れるな。こんなクソみたいな国の重役にされるなんて罰ゲームじゃねーかよ」


「な、な!貴様!今余をバカと言ったのか!?」


「なんだ。言葉もわからないのか?いよいよ本物のバカだな」


「き、貴様!!!!」


「俺の部下と教え子は命を賭けて戦った。それ相応の見返りは貰う。さっさとよこせ」


「処刑だ!この無礼者を処刑しろ!」


王の大声に驚いた近衛兵たちが部屋に入ってくる。


―血液魔法 血界―


しかし次の瞬間、王以外の部屋にいる人間全てがその場に倒れる。


「う、動けない」


王だけは意識があったが身動きが取れなくなっていた。


「お前らの血を制圧した。おい、愚王。今なら俺はお前らを皆殺しに出来るぞ?」


ブラッドはゆっくりと王の前まで歩いていき、首にナイフを当てる。


「ひっ!こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!」


「はぁ、本当のバカだな。じゃあ死ね!」


「ひゃああ!!!」


王は恐怖の余りその場で気を失う。


「ブラッド、やり過ぎじゃねーか?」


全員が気を失って倒れている執務室に一人の男が入ってくる。酒屋の店主ダダンである。


「ちょっと頭に来たんでな」


「まあ全員の意識を失わせてもらえれば俺の魔法は効果を発揮するからいいんだけどよ」


「後は頼む」


「報酬はどれぐらい貰う?」


「搾り取れるだけ搾り取れ。その5%がお前の取り分だ」


「了解。それはやる気が出るね」


―夢魔法 白昼夢―


ダダンの『夢魔法 白昼夢』は日が上っている状態で気を失っている者達に発動する。発動すれば夢と現実の区別が曖昧となり、軽い記憶操作と思考誘導が可能となる。


「そういやダダン。ロイドに話しやがったな」


ブラッドはダダンを睨みつける。


「助かっただろ?」


だがダダンは得意げに笑みを浮かべた。


「ちっ!ありがとよ」


悔しそうにブラッドは礼を言う。


「つけといてやるよ」


後日ロイドはブラッドから多額の報奨金を受け取ることになる。そしてブラッドは何事もなかったかのように教鞭についていた。





「という訳で出所は言えないが、めっちゃ金が入ったからうまいもん食いに行くぞ!俺のおごりだ!」


「イエーイ!!!」


ロイドに呼ばれて王都の中心部に皆が集められていた。ロイドとニニカはノリノリだが、他のメンツは何やらまだ状況をあまり理解していない。


「出所の分からないお金って怖いんだけども」


「昼間から呼び出すんじゃねーよ」


まずは右からミユキとゲイル。


「お兄!なんかヤバいことやってないよね?」


「僕も呼ばれちゃってよかったのかな」


あとは妹のメルとモブだ。


「めんどくさいことは一旦考えるな!何を食べたいのか。今はそれだけを考えろ!」


「はい!」


すぐさまニニカが元気よく手を挙げる。


「はい、ニニカ君!」


「焼肉が食べたいであります!それも焼肉バイキング食べ放題に!そして最後に何で来ちゃったんだろうって後悔しながら帰りたいであります!」


「よし!よく言った!最初の30分は天国、残りの30分は地獄。最後はアイスを食べることしかできなくなる焼肉バイキング食べ放題!いいな!他に意見は?」


「まだ私そこまでがっつり乗っかれてないんだけど」


「どこでもいいから早くしろ。腹減ってんだよ」


「お兄の横にはミルが座るからね!」


「僕はどこでも、、、」


正直やたらとテンションが上がってるのはロイドとニニカだけだった。


「はい時間切れ!それではニニカ君の意見を採用して焼肉バイキング食べ放題に行きます!」


という訳で、というかニニカしか意見を出さなかったので、ニニカの案が採用され、皆で焼肉バイキング食べ放題に行くことになった。


そして彼らは食べた。食べに食べた。そしてちゃんと後悔した。なんで来ちゃったんだろうと。


「はぁ、もう二度と肉なんて見たくない。ニニカ、全部お前のせいな」


「ロイド君も賛成してたじゃないかよ。ゲプッ」


「私ももうお肉見たくない。ていうかこうなることわかってたんでしょ?なんで来たのよ」


「わかってるだろ、ミユキ。焼肉バイキング食べ放題ってのはこういうもんだ。後悔することがわかってても、忘れたころにまた行ってしまうんだよ」


「ふっ、腹いっぱいになったら食うのを止めればいいだけだろ。バカなのかお前ら」


唯一平気そうな顔をしているゲイルが呆れたように言う。


「お前そういうとこクールだよな」


「お兄、ミルはアイス食べ過ぎて震えが止まらないよ」


「うん、そういう奴いる」


「僕はサイドメニューばっかり食べてたんであんまりお肉食べてないですね」


「ああ、そういう奴もいるわ」


各々が各々のやり方で焼肉を楽しんだ後、その日は解散となった。帰り道が同じだったロイド、ミユキ、ニニカは一緒に歩いていた。そしてここでロイドはずっと疑問だったことを口に出す。


「で、それはそうとずっと言おうと思ってたけど、なんでジロウは来てないの?呼んだよな」


ここ最近はバタバタしていたから余裕がなかったが、確かにジロウは随分前から姿を見せていない。


「最近学校にも来てないわね」


「そうなの!?風邪!?」


「あいつが風邪なんかひくか?まあいいや。明日直接会いに行ってみるか」


「うん!そうしよう!」


こうして翌日はジロウの元を尋ねることが決定した。

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