第23話 血液魔法と信仰魔法

―血液魔法 血脈―


ブラッドが腕に巻いていた包帯をほどくと無数の傷口から血があふれ出し地面に浸みこんでいく。


「これは?」


「俺の血は脈という脈に浸透する。今は地脈に俺の血を流し込んだ。これで適当に連中の今の配置を確認する。確認が済んだら一気に攻め込むぞ。夜明け前には終わらせたい」


「総本山攻略は先生に任せる。俺を使ってくれ」


ブラッドが兵たちの配置を確認したと同時に彼らは動き出す。


総本山とは山に建てられた巨大な教会だ。その大きさは王城さえも凌ぐ。


だが遥か昔に建てられたものであり、建物自体が神格化されているがゆえに改築もされていない。つまりセキュリティーは割と緩い。神官たちの魔法によるセキュリティーのみだ。それならばいくらでも入りようはある。要するにチョロいのだ。

だがまあ勇者教総本山に忍び込もうとする者などいるわけがないのだからわからなくもない。なにせ忍び込んだ時点で首が飛ぶのだから。


教会内に潜入した二人は本格的に総本山攻略に向けて動き出す。


「とは言ってもこの教会の中だけで1000人近い人間がいるんですよね。大変だ」


「そうでもないさ」


「え?」


「黙ってみてろ」


―血液魔法 血操 凝血―


ブラッドは液体のまま部屋の中へと忍び込ませた自分の血液を凝固させて教会の僧兵たちに気付かれないように小さな傷をつけていく。


ブラッドの魔法は準備に時間がかかるが、準備が済めば一気に制圧できる魔法だ。相手の魔力量によって流させる血の量が多く必要になるが、この程度の僧兵ならかすり傷程度で十分だった。


「兵隊はこんなもんで十分か」


ある程度傷をつけ終わったところでブラッドは魔法を発動させる。


―血液魔法 血は間違える―


ブラッドの魔法が発動した瞬間、敵兵たちは完全にブラッドの傀儡と化した。


「進め。クズども」


ブラッドは300人ほどの兵隊を連れて侵攻を始める。


「えぐい魔法ですね」


「この程度の血で操れるのは雑魚どもだけだ。だが弾避けにはなるだろう。さあ暴れるぞ!」


「了解!」



―血液魔法 鉄血―

―二天流 玄武―



ブラッドの血液は全身を包み鎧と化す。そして右手には血で作られたレイピアが握られる。

ロイドもまたオドで作った甲冑を着こむ。


ブラッドは凄まじい速度でレイピアを振り僧兵たちを細切れにしていく。ロイドは一振りで僧兵を吹き飛ばしていく。

ブラッドの傀儡兵を弾避けにしながら二人は突き進んでいく。



―信仰魔法 ギガントマキア―



そんな二人へ突然巨人のような形をした雷が襲い掛かり、辺り一面が焼かれる。もちろんブラッドとロイドもだ。


「ぺっ!やっと出て来たか」


雷に焼かれながらもブラッドは剣を構える。その目の前には杖を構えた男が立っていた。


「ロイド!無事か!?」


「はい、何とか。もしかしてあれが」


「ああ、ゲパイルだ。あとは俺だけでいい」


「わかりました。それじゃあ背中は俺に任せてください。先生はそいつを」


「悪いな。できればそのままウチの連中も助けてやってくれないか?」


ロイドの活躍により、当初の予定よりも余力を残してゲパイルの前までこれた。だから少し欲が出た。もしかしたら部下たちを死なせなくてもいいかもしれないと。だからブラッドはロイドに部下たちを託した。ロイドならできると思ったからだ。


「了解」


ロイドはブラッドの気持ちを汲み取り、背後の僧兵に突っ込んでく。そしてブラッドはゆっくりとゲパイルの元へと歩いていった。


「国王の差し金ですか?」


ブラッドを見てゲパイルがやっと口を開く。


「そうだ」


「呆れた。あなたは元勇者のはず。勇者が勇者教に歯向かうとは。恥を知りなさい!」


ゲパイルはブラッドに杖を向ける。


「恥を知れって?恥を知らないやつの言い方だな。俺が教えてやるよ。恥ってやつを」


「死ね!」



―信仰魔法 ヘラクレス―



騎士の姿をした炎の塊がブラッドに襲い掛かる。


「なるほど。信仰魔法ってのは属性関係なく自分の信じるものを具現化するのか」


「そうです!我が信仰魔法に死角はない!冥途の土産に信仰というもののの尊さを知りなさい!」


「信仰ねぇ。くだらねぇ。所詮自分で考えることを辞めた無責任な魔法。本物の炎ほどの力はないな」



―血風斬―



ブラッドは一瞬のうちに剣を何振りもして風を巻き起こし、炎の騎士を消し飛ばす。


「吹けば消える脆弱な炎だ」


「貴様!その生意気な舌を切り取って何も言えなくしてやる!」



―信仰魔法 ギガントマキア―



「ちっ!」


再び巨人を模った雷が落とされる。


「はぁはぁはぁ、何で雷だけはいっちょ前なんだよ」


再びブラッドは雷に焼かれる。さっきの炎とは違い雷の威力だけは本物の雷に匹敵するものだった。


「当たり前でしょう。雷とは天から降り降ろされる神の怒り。炎のような野蛮なものとは違う神聖なものだ」


ゲパイルは恍惚の表情で天を見上げる。


「あんたの主観がたっぷり反映されているってわけか。ふざけた魔法だ」


「それでは死ぬ前に言い残すことはありますか?」


勝利を確信したゲパイルはブラッドに神の慈悲を与える。神気取りで悦に入った気持ちの悪い慈悲だが。


「、、、勇者教とはなんだ?」


「勇者教?それは神のために創られた勇者という兵器を管理するためのシステムです」


「なに!?」


「勇者など神のための駒でしかない。それを運用するのが勇者教。神のためにね」


「お前らの言う神ってのは何だ?」


「大いなる存在です。全てを超越し、全てを司る神聖な存在。我らの本当の父ですよ」


「そうか。そんなくだらないことのためにあいつは殺されたのか」


「くだらない?私から見ればあなた達勇者こそくだらない。神のために作られたものでありながら神のお役に立とうとしない。まさに罰当たりな存在なんです。だからこそ私たち勇者教が管理しなくてはいけないのですよ!」



―信仰魔法 ギガントマキア―



再びゲパイルは雷をブラッドに向けて放つ。


「天罰?ははは、そうだ。俺は天罰ってやつが一番嫌いだったんだ。吐き気がするほどにな!」



―血液魔法 血は争えない―



ヒュン!



突如ゲパイルの頬を血の弾丸がかすめる。


それと同時にブラッドに迫っていた雷は霧散する。


「何!?何が起きた!」


「魔法陣を組み込んだ俺の血を受けた者は一定時間血が魔力を拒絶する」


「はぁ!?」



―信仰魔法 ギガントマキア―



ゲパイルはもう一度魔法を使おうとするが何も起こらない。



―信仰魔法 ギガントマキア―

―信仰魔法 ギガントマキア―

―信仰魔法 ギガントマキア―



何度も繰り返すが結果は同じ。


「あり得ない!私の魔法は神の力だぞ!」


「知るかよ。魔力なしで魔法が使えるわけねーだろ」


「くそぉぉぉ!!!」


ゲパイルは酷い形相で杖を地面に叩きつける。


「やっといい顔になったじゃねーか。ただの人間の顔だ」


「貴様ぁぁぁ!!!」


「うるせぇよ。少し黙れ」


ブラッドは血を操ってゲパイルを縛り上げる。


「くそっ!、、、さ、さっきの血はどこから飛んできた!?」


「一発目の雷を食らったときに血を吐いたろ。あれだよ」


「だとしても魔法陣を組み込む時間なんてなかったはず!」


「組み込めるんだよ。口の中ならな」


そう言ってブラッドは舌を出す。そこには複雑な魔法陣が彫り込まれていた。


「なんだと?」


「あいつが死んだときに入れた。いつかお前を殺すために」


「か、神の裁きを受けることになるぞ!」


ゲパイルは声を絞り出しながらブラッドを睨みつける。


「好きにしろって伝えとけ」



ザン!



ブラッドはゲパイルの首を切り飛ばす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る