第22話 ロイドとブラッド
『ブラッド!エリクトル!ダダン!俺はいつの日か歴代最強の勇者になって見せるぜ』
『いっつも言ってんな、お前。もう聞き飽きたよ。なあエリクトル』
『僕も負けないよ!デス!』
『乗っかんじゃねーよ。めんどくせーな』
『俺は普通の勇者になれればそれで満足だな』
その日も俺たちは将来の夢について語り合っていた。
『俺の魔法属性は死霊で皆から気味悪がられてるけど、この力はもしかしたら人の心を救えるかもしれないと思ってるんだよ』
『俺の属性だってめんどくせーよ。血液だからな』
『そう考えると僕の属性は裂断だからつまらないね』
『そんなこと言ったら俺のが一番しょべーよ』
『とにかく俺たち4人はみんなですげー勇者になってやろうぜ!』
いつもデスがそう言って締めくくる。それが俺たちの青春だった。
*
「はぁ、久しぶりに昔の夢を見たな。昨日ロイドと話したせいか?」
日が完全に落ちたころブラッドは起き上がり、冷水で顔を洗って目を覚ます。
「さて、何からやるか」
国王から渡された勇者教信者たちの潜伏場所が書かれた紙を開く。
確かに総本山はラエル山にある勇者教だが、王都の中にも多く潜伏している。
「これだけわかっているなら自分たちでやればいいのに」
しっかりと調べ上げられている王からもらった書類を見て呟く。
「まあ王と宗教がぶつかり合ったとなると、下手すれば国が割れるからな」
ブラッドは煙草に火を点け、これからの流れを思考する。どこから攻め、どう動かし、どう総本山を落とすのか。
勇者教の信者は数えきれないほどいる。それを一人で相手できるわけはない。それが分かっていて王はブラッドを送り出している。そしてブラッドもまたそれが分かっていてこの任務を受けている。
ただブラッドの魔法は多対一に有利なものだ。タイマン向きではないし、ある程度の強者には通用しないものでもあるが、多数の雑魚相手なら真価をはっきりする。
「我ながら嫌な能力だな。勇者をさっさとやめてよかった」
夜更けにブラッドは人知れず動き出す。
「お供します」
そんなブラッドを11人の男たちが待っていた。ブラッドが勇者だったころ彼の強さに惚れこみ、それからずっと彼に付き従って来た『血盟の11人(イレブン ナイツ)』だ。
「はぁ、死ぬぞ?」
呆れたようにブラッドは言う。
「わかっています。死ぬなら戦場で、あなたの横で死にたい。皆その思いです」
「ははは、そうか」
思わずブラッドは笑ってしまう。そして覚悟を決めたブラッドは彼らの目を見て言う。
「じゃあ祝杯は地獄であげようか」
「「「「「「はっ!!!」」」」」」
*
ブラッドたちは闇に紛れながら粛々と勇者教の信者が潜伏先を潰していった。
「これで総本山へとすぐに連絡が行くことはないだろう」
ブラッドは総本山を見上げながら呟く。
「ではいよいよ本番ですね」
『血盟の11人(イレブン ナイツ)』筆頭のコーラス・セッシがブラッドに声をかける。
「ああ、人生の最後にクソどもを消せるなんて、あの愚王にしてはなかなかいい命令をしやがる。まあ死んで来いってことなんだろうけどよ」
「しかしただで死ぬ気はないのでしょう?」
「当たり前だ。全員道連れだ」
「我々もですね?」
笑いながらコーラスが言う。他のメンバーたちも楽しそうに笑っていた。
「死んでくれるか?」
「もちろん」
そんなことを話しているといつの間にかブラッドたちはどこから現れたのかわからない僧兵たちに囲まれていた。
「本当に虫みたいに湧いてきやがる」
ブラッドは腕に巻かれた包帯に触れようとする。しかしコーラスそれを制止する。
「その魔法はまだとっておいてください。ここはお任せを。ブラッド様は敵将の元へ」
「、、、ありがとよ」
包帯から手を放し、ブラッドはコーラスを見る。コーラスはニッコリと笑って見せた。。
「地獄で待っております」
次々と湧いてくる僧兵を『血盟の11人(イレブン ナイツ)』に任せ、ブラッドは教会へ向かって走っていく。
そして何とか教会まで辿り着いたブラッドの前に、一人の男が立っていた。
「先生、ここで待っていれば会えると思ってたよ」
「ロイド!」
さすがのブラッドも驚きを隠せなかった。
「何しに来た?」
「何しにって勇者教潰しを手伝いに」
「お前には関係ない!」
「そうもいかないんですよね。俺も魔族をかくまっているので。このまま勇者教が政権を握るとまずいんですよ」
「ニニカか」
「まあ、先生なら知っているか。という訳で俺にはあんたに手を貸す理由がある」
「魔族と馴れ合ってもいいことはないぞ」
「それはあんたの友達のことか?」
「ちっ!ダダンのやつが話したのか。それならわかるだろう?ニニカはいつかお前の足枷になる」
「足枷ねぇ。まあ足枷が一つや二つあっても俺には関係ない。ニニカはそれ以上のものを俺にくれる」
「、、、そうか」
ハッキリとそう言いきるロイドを見て一瞬驚いた顔をしたが、ブラッドは優しく笑みを浮かべる。
「で、同行を許してくれるんですか?」
「許さなかったら許さなかったで、お前は一人で動くんだろ?」
観念したとばかりにブラッドが答える。
「よくわかってらっしゃる」
「仕方ないか。ついて来い。お前なら足枷にはならないだろう」
ブラッドはロイドの力を評価していた。下手したら自分より強いと。だからこそロイドの申し出を受け入れた。
「お前の戦い方は分かっているから、俺の魔法について教えよう。俺の血液魔法は自らの血と他者の血を操る。ただ他者の血を操るには対象に傷を付けなくてはいけない」
「つまり少しでも傷をつけてしまえば勝ちが決まるってことですか?」
「そうだな。だから俺は色々な種類の暗器を使う」
「俺が傷をつけた場合はどうなるんですか?」
「俺自身が傷をつけないと意味はない。だがお前が傷つけてその人物から離れた血ならば操作は可能だな」
「なるほど。じゃあ俺は適当にやりますよ」
「待て。今回の任務は一応暗殺だ。目立たないように動け」
「一応暗殺なんですね」
「そういう命令だ。まあどうせ皆殺しにするからそこまで意味はないんだが、一応な」
「了解です」
「あともう一つ。約束しろ」
ブラッドの目が鋭くなる。
「何ですか?」
「この総本山には枢機卿ゲパイル・メンデがいる。こいつだけは殺さずに俺に渡せ。聞きたいことがある」
「教皇じゃないんですね」
「教皇か。アレはただの傀儡だ」
「え?」
「もうずいぶん前から教皇は操り人形だ。ゲパイルのな」
「てことは先生の友達を処刑したのも」
「ああ、全てゲパイルが行ったことだ」
「わかりました。じゃあそのおっさんは先生に残しておきます」
「悪いな。じゃあ行こうか」
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