第17話 魔王ネロ・ケイオス
「初めまして。僕はネロ・ケイオス。仲良くしてくれると嬉しいな、ロイド・ブレイブハートきゅん」
「お前が魔王だと?」
「うん、そうだよ」
「人間のお前がか?」
ネロの気配を探ったがこいつは完全に人間だ。
「そうだけど?」
ネロはあっけらかんと答えた。
「人間が魔王なわけないだろ。ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「へぇ、何も知らないんだね。ロイドきゅん」
「なに!?」
「魔王とは人間だよ?」
「はぁ!?」
「遥か昔の魔王だって人間だ」
「そんな話聞いたことない!」
「そんな話が残ってるわけないじゃん♪だって人間を滅ぼそうとした魔の王が人間だったなんて。恥ずかしくて伝えられたもんじゃない」
「じゃ、じゃあ魔族は!魔族は何なんだ!」
「魔族?そんなものいないよ。闇属性の魔力を持った人間をそう呼んだだけだ。そして魔王とは闇の魔力を持った人間と魔物全てを支配する魔法『魔王からは逃げられない』を使える人間のことを言うんだよ」
『魔王からは逃げられない』!?いや、ついさっきその魔法を使った奴が俺の後ろで倒れてるんだが。
どういうことだ。訳が分からない。
こいつはそれに気付いてないのか?そういえばベヒモスが倒されたのを感知してからここにやって来たって言ってたな。それにニニカは魔力を使い果たしたようだったから闇の魔力も感知できていないのか?
、、、まあいい。考えてもしょうがない。
よくわからないが目の前の男がベヒモスを使って勇者たちを殺したのは間違いない。
更に魔王だというなら、何も迷うことはない。
―殺す―
ロイドは一瞬でネロの目の前に移動しその首を刎ねる。
「あははは!!!気が早いなぁ。ロイドきゅんは」
宙を舞ったネロの首はそのままプカプカ宙に浮かび、何事もなかったように話し出す。
「前言撤回だ。お前人間じゃないわ」
「人間さ。君たちと全く同じね」
「それでもお前は罪のない人間を多く殺した。ここでその罪を償え」
―二天流 玄武―
最後の力を振り絞ってオドを集める。
「はぁ。罪には罰をとか、殺される覚悟がないと殺してはいけないとか。なんなの君たちのその謎理論。本気で神でも信じてんの?神が全てをプラマイゼロにしてくれるとでも?結局プラマイゼロになるんだったら世界なんていらないじゃない。
いいかい。人を助けたって人に助けられはしないし。人を殺したって殺されたりはしない。そんな人間の方が多い。
罪と罰はセットじゃない。罪だけもって上がってく奴もたくさんいる」
「話がなげぇんだよ。結局何が言いてぇんだ」
ペラペラとしゃべってはいるがその言葉一つ一つに全く心がこもっていない。ただ文章を読み上げているだけのような気味悪さを感じる。
「要するに僕は絶対死にたくない。ただ殺したいだけ」
そう言い放ったネロの顔は、この世界の存在自体をバカにしているかのようだった。
「お前、舐めてんのか?」
「君バカなの?どう考えたって舐めてるでしょ!これで舐めてなかったらマジヤバいって」
「それが最後の言葉でいいんだな」
―二天流 玄武 一閃―
だがロイドの一閃は空振りに終わる。
ネロは一瞬でロイドの背後に回っていた。そしていつの間にか刎ねられた首も元に戻っていた。
「そう荒ぶるなよ。僕は話がしたくて来ただけなんだって」
「じゃあ話は終わったんだから死ねよ」
「君はさ、なんで勇者やってんの?」
「おい、会話って知ってるか?」
「僕はね勇者っていうのがこの世で一番嫌いなんだ。吐き気がするほどに。君たちは人を守るって言うけど、人しか守らないじゃない。この世界には人しかいないかのように」
「もう一回聞くけど、会話ってキャッチボールだって知ってるか?」
「人しか守れないくせに、偉そうにしてる。自分たちが正しいと信じて疑わない。己を疑うという感情が欠落している」
「はぁ。じゃあお前は魔物の命も大事にしろって言ってるのか?」
「そりゃそうさ。同じ命なんだ。人間だろうが魔物だろうが虫も植物も同じ命だ。そこに優劣はない。僕は博愛主義者なんだ」
「自分に都合のいい言葉だけは聞こえるらしいな。じゃあまずはその都合のいい耳を千切り取ってやるよ」
ロイドは鎧を捨て、玄武を完全な攻撃特化へと移行する。
「君も全てを平等に愛する僕の気持ちがわからないのかい?」
悲しそうな顔してネロが言う。だが彼がどれだけ必死に言おうが、もうロイドにはただの茶番にしか思えなかった。
「心にもないこと言うなよ。お前は人間も魔物も虫も植物もその他この世にあるすべての命をどうとも思ってない。その辺の石ころと同じ価値としか」
「平等だろ?」
ネロは誇らしげに笑みを浮かべる。
「平等だな。そして平等なだけだ」
「それの何が悪いの?平等こそが正義だよ」
「正義ね。俺の一番嫌いな言葉だ」
正義って言葉は元々嫌いだったが、ネロの口から出ると余計に吐き気がした。
「ん?勇者とは正義のために戦う連中だろ?」
もうこいつとは話していたくない。さっさと殺してしまいたい。
「誰が決めたよ。俺は守りたいものを選ぶ。俺が守りたいもののために戦う。邪魔をするなら正義の味方であろうともぶち殺す。これが俺にとっての勇者だ」
「なんだよ、それ。勇者がそんなこと言っていいのかい?」
ネロはがっかりしたような顔でロイドを見つめる。
「ダメだって言うなら、勇者なんていつでもやめてやるよ。今の俺にとって勇者なんてただの言葉に過ぎない」
「へぇ、ちょっと思ってたのと違うな」
「お前はここで殺すぞ?」
その瞬間ロイドから凄まじい殺気がネロへと向けられる。
―二天流 玄武 極一閃―
ガキン!
「なに!?」
ロイドの全力の一振りは、いつの間にか抜かれていたネロの剣で簡単に受け止められる。
「焦るなよ。僕は自分で戦うのは嫌いなんだ。魔王の鏡だろ?」
―闇魔法 百鬼夜行―
おびただしい数の魔法陣で空が埋め尽くされる。
「なんだこれ?」
「ほら、守りたいものを守ってみなよ」
ネロは楽しそうに笑い、魔法陣から魔物が次々と降ってくる。その数は下手したら一国を滅ぼせるほどのものだった。
「お前ぇぇぇ!!!」
「生き残ったらまた遊ぼうよ。勇者ロイドきゅん」
そう言って笑いながらネロは消えていく。
気付いてなかったが他の生徒会役員たちもしっかりと眠らせられていた。
目の前にはおびただしい量の魔物たち。そして背後には俺が守るべきもの。
ネロが召喚した魔物たちが一気に向かってくる。
「あの野郎は絶対に殺してやる」
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