第16話 ロイドVSベヒモス

「ニニカ、ゲイルを回復してやってくれ。それと俺にバフをかけろ」


「もう人使い荒いんだから!まっかせなさい!」


―闇魔法 悪魔の囁き―


ニニカの魔法により一定時間ロイドの身体能力が底上げされる。


「あざーす!」


そう言ってロイドはベヒモスに飛び掛かっていく。ニニカはそのままゲイルの回復に向かう。


「二人とも大丈夫?」


「ニニカ!何でここに?」


「ロイド君があのベヒモスを倒すって聞かなくってさ。それでたまたま空間属性の転移魔法を使えたボブ君にここまで連れてきてもらったんだ!」


「あ、モブです」


「おい、お前早く俺を回復しろ!」


「そのつもりだってば!」


ニニカは急いでゲイルの回復を行う。そしてその横でミユキはベヒモスへ向かって飛び出して行ったロイドの戦いを見て唖然としていた。


「し、信じられない」





ベヒモスは今の攻撃を見る限り、とんでもない魔力の持ち主だ。長期戦は分が悪い。短期戦でケリをつけた方がいい。


―二天流 玄武 攻の型―


本来はオドで作った鎧をまとう防御主体の玄武を攻撃主体に切り替える。鎧の部分を最低限にし、残りのオドを全て剣に込める。


『うがあああ!!!』


飛び上がって来た俺をベヒモスが前足で攻撃してくる。


「人を足蹴にしようとすんなよ。ただの畜生が」


―二天流 玄武 十六閃―


『うぎゃあああ!!!』


向かって来た前足を斬り刻む。まあ派手に騒いでるが大した効いてはないだろう。デカすぎて表面しか斬れなかった。


血は派手に出てるが骨までは達してない。


やっぱり硬いな。


すぐさま今度は反対の前足で俺を踏みつけようとしてくる。


―二天流 玄武 極一閃―


さっきとは逆に数ではなく一振りに力を注ぐ。


『うごああああ!!!』


さっきより深く入ったが、それでも足を切り落とすには全然至らない。


こいつは硬すぎる。それなら弱点を突くしかない。そしてこういう硬すぎる奴の弱点は大体目だわな。


ベヒモスの顔面に向かって俺は再び飛び上がるが、待ってましたとばかりにベヒモスが大口を開けて炎を吐き出す。


「そんな炎が俺に効くかよ。せめてさっきみたいなレーザー撃って来い。まあ溜めなしじゃあれは無理なのか」


―斬―


炎を切り裂き、そのままベヒモスの目へ剣を突き立てる。


『ごぎゃあああ!!!』


「お!やっといい声出たな。さっきまでと違って必死さが伝わってくるぜ」


『ぐるるるる!!!!うごぎゃああああ!!!』


ベヒモスの肌が一気に赤く染まり、とんでもない熱が全身から吹き出る。


「ぐっ!」


俺は一旦ベヒモスから距離をとってニニカたちの元へと戻る。あの熱はさすがに厄介だ。まともに近寄れない。こいつらの協力が必要だ。


「おい、ゲイル。戦えるか?」


「当たり前だ!」


「ロイド君!この人強がりだよ!まだそこまで回復してない!」


「黙ってろ!チビ!」


「なにおう!恩を仇で返すやつめ!」


「こういうやつなんだよ。今は我慢してくれ、ニニカ」


「しょうがないなあ」


「で、戦えるでいいんだな?ゲイル」


「お前に勝つのもお前の横で戦うのも俺だけだ!そうだろ!」


「ああ、そうだったな。ミユキは?」


「私はそんなにダメージないから大丈夫だけど」


「よし、じゃあ4人であのデカブツをやるぞ!」


「「「おお!!!」」」





四人は動き出す。


『とりあえずあの熱をなんとかしないと近づくのも難しい。ミユキ、何とかできるか?』


『長時間は持たないけど、出来るだけやってみる』


『俺たちがベヒモスに近づくまでの時間を稼いでくれればいい。そしたら俺とゲイルで決める。できるな?ゲイル』


『誰に言ってんだ!ぶっ殺すぞ!』


『よし。じゃああとはニニカ。俺たちに限界までバフをかけ続けろ!』


『ボクが全力出しちゃったら大変なことになっちゃうぜ?』


『大変なことにしろって言ってんだよ』


動き出す前に全員で話し合った作戦通り、まずはニニカが魔法を発動させる。


―闇魔法 魔王からは逃げられない―


過剰なほどのバフが3人にかけ続けられる。


「さあみんなボクの魔力が尽きるまで君たちはボクのバフからは逃げられないよ。それこそ君たちの身体がボロボロになっても。うっしっし」


「はは、さすがだな、あいつ。めちゃくちゃしやがる」


ゲイルとミユキの魔力は倍以上に、魔力のないロイドは身体能力が数倍に膨れ上がる。


「なんて魔力なの。自分の身体じゃないみたい。やり過ぎよ、ニニカ!これじゃ魔力の調節が」


「ミユキちゃん!ベヒモス相手に調節なんて必要ないよ。ぶちかませー!!!」


ニニカが拳を振り上げる。


「それもそうね。やってやるわ!」


(さっきまで本当に死を覚悟してた。でもロイドが現れたとき、心のどこかでやっぱりと思ってしまった。だって私の勇者が私のピンチに駆けつけてくれなかったことなんて一度たりともなかったから。

そのままロイドは私とゲイルで手も足も出なかった魔物とたった一人で互角に戦った。やっぱりロイドはすごいと思った。ロイドは絶対に勝つ。


いつも一人で。


昔はそれに毎回ワクワクしていた。でもなぜか今回は寂しく感じた。

私はあの頃より強くなったつもりだったけど、まだロイドに守られるだけなんだって。

だからロイドに戦えるかと聞かれたとき嬉しかった。私の今までが無駄ではなかった気がして。


私もロイドを守れる)


「だからここでロイドの期待を裏切るわけにはいかないのよ!」


―絶対零度―


ミユキが放った魔法は巨大なベヒモスを凍り付かせる。


「よっしゃ!行くぞ!ゲイル!」


「ああ!」


(ロイドはやはりすげぇ。あのデカブツと一人で互角に戦ってやがった。きっと今の俺じゃ勝てないだろう。

悔しかった。そして嬉しかった。

俺が一生追いかけると決めた男はやはりとんでもなかった。

いつだって追いついたと思ったら、あいつはまた遠くに行ってる。


これはきっと俺がロイドを追いかけ続ける物語なんだ。


『戦えるか?ゲイル』


ロイドが俺に言った。叫びだしそうになるのを必死でこらえた。ロイドが俺の力を必要としている。あのロイドがだぜ。


あのロイドが俺に横で戦えと言っている。


傷?疲れ?関係ない。敵はあの化物?関係ない。

さっきまで殺されると覚悟した相手が今は何も怖くない。

さっきまでの無理した笑顔ではなく、今は自然と頬が緩む。


負ける気がしねぇ)


ロイドとゲイルはベヒモスに飛び掛かっていく。狙いはロイドが傷つけた眼球。ここに二人で最強の技をぶつける。



―二天流 玄武 終の型―



(限界を超えろ!ゲイル・リチャード!勇者が待ってる)



―零の秘剣 加具土命―



ドゴーン!!!


二人の攻撃がベヒモスの眼球に突き刺さり、その攻撃は脳にまで至る。


『ごぎゃあぐぎゃああああ!!!!』


断末魔のような叫び声をあげ、ベヒモスは倒れこむ。


「はぁはぁはぁ、どうだよ、ロイド」


「はぁはぁはぁ、さすが俺のライバルだ」


「はは、そう、かよ」


満足そうな顔でゲイルはその場に倒れる。


「ロイド―!!!ゲイルー!!!」


「ロイド君!ナイスー!恩知らずな人もナイスー」


ミユキとニニカが駆け寄ってくる。



パチパチパチ


皆が勝利を喜んでいるところに、水を差すような拍手が聞こえてくる。


拍手をしながら気持ちの悪い笑顔張り付けた男がやってくる。


ゾクッ!


ロイドは得体のしれない寒気を覚える。


「二人とも下がれ!!!」


ロイドはミユキとニニカの前に出て剣を構える。


バタ、バタ


が、その後ろでミユキとニニカが気を失ったように突然倒れた。


「はーい、お疲れさーん。まさかベヒモスが負けるとはなー」


「二人に何をした!?」


「ああ、そこの女の子たちね。大丈夫大丈夫。ただ眠ってもらっただけだよ。少し君と話したくてね」


「俺と話す?」


「それにしてもベヒモスの反応が消えたから見に来てみたら本当にベヒモスやられてるんだもん。まじびっくりだよ。てかあれほんとに神獣?マジ不良品つかまされた気分だわー」


「なんなんだ、お前」


「僕?僕はアレだよ、アレ。知ってるかな。魔王って言うんだけど」


「はぁ!?」

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