第15話 生徒会VSベヒモス
時はベヒモスが現れるほんの少し前までさかのぼる。前線の国軍が打ち漏らした魔物を生徒会役員たちが排除していた。
―火火恐々―
―氷血―
ゲイルとミユキは剣を抜くこともなく、魔力だけで魔物たちを殺していく。
「確かに数は多いが、魔物一匹一匹の力は大したことないな」
「気は抜かない方がいいとは思うけど、これなら問題にはならないわね」
ゲイルとミユキが現状の感想を言い合っていた。そんな時だった。
ドゴーン!
突然ベヒモスが現れたのだ。
「「「「ぎゃあーー!!!」」」
前線からは悲鳴が鳴り響く。
そのあまりの巨大さに少し離れたところに陣取っていた生徒会たちにもすぐに確認できた。
「なんだ!?いきなり現れたぞ!」
「なんなのあれ!」
「魔物なのか!?」
学園の先鋭である生徒会の面々もあまりにも信じられない光景に冷静さを失った。もちろんゲイルとミユキも例外ではない。
「おいおいマジかよ」
「嘘でしょ?」
ゲイルやミユキたちの前で戦っていた国軍たちは何もできずに次々と踏みつぶされていった。そしてベヒモスはゆっくりとミユキたちの元へと向かってくる。
「ゲイル!まずいわ!撤退よ!」
若干思考が停止していたミユキだったが、無理やり正気を取り戻してすぐに撤退の指示を出す。
「撤退?俺は戦うぜ」
「ちょっとゲイル!」
「撤退するなら足止めは必要だろ」
ゲイルは嫌な汗を流しながらもニヤリと笑い、ベヒモスと向かい合った。
「だからってあんなのと戦うなんて無謀よ!」
「勇者ってのはそういうもんだろ」
―五の秘剣上 炎炎狒々―
―五の秘剣下 炎炎鬼気―
すぐに剣を抜いたゲイルの太刀は凄まじい炎を帯びてベヒモスに襲い掛かる。
「ちっ!全く効いてねーな」
炎が収まったところには何事もなかったかのようにベヒモスが立っていた。
「もう!全生徒に撤退を指示!その間我々生徒会は突如現れたこの超巨大魔物の足止めを行います!」
この場にいた生徒会役員はミユキとゲイルの他には書記エルグス・マナ、会計リリㇺ・エポクリ、広報ユーゴ・エクリプス。今回は勇者科の招集なので普通科の庶務リング・ホルスは不参加となっている。
セトがいなくなって生徒会での役職の構成も若干変化していた。前までは序列二位と三位に差がほとんどなかったことやゲイルが他の役職にあまりに向いていなかったために特例で副会長が二人にされていた。それが今回、元の構成に戻った。
広報として生徒会入りしたユーゴは2メートルを超える巨体、さらに鍛え抜かれた肉体をしていた。だがその見た目には似つかわず、彼の魔法は通信に長けていた。属性は波。力は弱いが、その代わりに有効範囲はトップクラスの魔法である。
―波魔法 伝播―
ミユキの指示の元、撤退の指示が全生徒に通達される。
「おい、お前らも逃げていいんだぜ?」
後ろでごちゃごちゃやっている生徒会の面々に振り返ってゲイルが言い放つ。
「なに言ってるのよ!あんたの攻撃全然効いてなかったじゃない!」
そんなゲイルにミユキがめんどくさそうに返す。
「まだだ。これからなんだよ」
ゲイルはじっとベヒモスを見ていた。
『うごおおおお!!!』
ゲイルの攻撃を受けて若干動きを止めていたベヒモスだが再び前進を始める。そして雄たけびを上げながら炎を吐き出す。
吐き出したのだ。
呆れてしまうほどの暴力を。
辺りは一瞬で更地になり、随分見晴らしがよくなっていた。
―凍える吹雪―
「はぁはぁはぁ、みんな無事!?」
辺りで燃えている炎をミユキが鎮火する。
「大丈夫よぉ、ミユキちゃん」
ゲイルとミユキの後ろのいた残りの生徒会役員3人は透明な壁によって守られていた。
これはリリㇺ・エポクリの魔法。おっとりとしたお姉さんという見た目の彼女の魔法の属性は空気。空気中の成分濃度を操ったり、凝縮したりすることができる。今回は炎の攻撃だったのがよかった。彼女は自分たちの周りに酸素のない層を、そして衝撃を吸収する空気の壁を作り出したのだ。
「じゃあ引き続き私とゲイルの援護を頼むわ!」
「わかったわぁ」
「了解!」
「了解した!」
「はぁはぁはぁ、まさか俺が燃やされる日が来るなんてな」
ベヒモスの目の前には焼き焦げたゲイルが立っていた。確かに後ろの仲間を守ったのはリリㇺだが、そもそもベヒモスが吐き出した炎のほとんどを受け止めたのはゲイルだった。
ベヒモスが炎を吐き出した瞬間に、ゲイルもまたありったけの炎を噴き出してぶつけた。出来るだけ後ろに被害が出ないようにしたのだ。
「ゲイル、ありがとう。助かったわ」
「ちげーよ。あいつの炎とぶつかってみたかっただけだ」
「そういうことにしておいてあげる。でもこのままじゃまずいわよ」
「そうだな。限界を超えねーとな」
傷だらけの顔でゲイルは笑った。
「そうよね。あんたもこういう時笑うのよね。あのバカと同じく」
「俺はそのバカを超えなきゃいけねーからな。こんなところで死んでるわけにはいかねーんだよ!」
ゲイルが全力で燃え出す。
だがミユキはそんな戦況を冷静に分析する。
『見た感じあのサイの魔物の魔力はゲイルと同じ火属性。だったらゲイルとは相性が悪い。同じ属性の場合は単純に魔力量が多い方が勝つけど、どう見てもあのサイの魔力の方が多い。というか膨大だ。だから相性的に有利な私が頑張らないと』
―永久凍土―
ミユキは初っ端から全開でベヒモスを凍らせていく。
「失せろ、デカブツ」
そして凍ったベヒモスの上から燃え上がったゲイルが剣を振り下ろす。
『ごあああああ!!!!』
しかし内側から氷を打ち破りベヒモスは再び炎のブレスをまき散らす。
「やっぱり全然効かねーな。さてどうすっかな」
「ゲイル、あんたさっきからずっと丸焦げじゃない!」
「こんなもん何ともない。お前はとりあえず炎が広がらないように辺りを凍らせまくっとけ」
「私に命令しないで!それに私の方がこいつとは相性いいわ。あんたこそ下がってなさいよ!」
「冗談言うなよ。こいつは俺が仕留める」
「はぁ、バカには何を言っても無駄ね」
「わかってるじゃねーか」
呆れるミユキをよそにゲイルは獰猛な笑みを浮かべる。
『うごああああ!!!』
炎のブレスがミユキとゲイルに襲い掛かる。
「それはもう見飽きたぜ。ミユキこのブレスは頼んだ!」
そう言ってゲイルはブレスを避けて飛び上がっていく。
「ちょっと!!!本当に勝手なんだから。でもまあさすがに私もこれはもう見飽きたわ」
遂にミユキは腰のレイピアを抜き迫りくるブレスに向ける。
―鳴いて、氷姫―
切っ先からブレスと同等レベルの冷気が噴き出す。
その一撃はベヒモスのブレスを相殺する。
ミユキの後ろには白装束に身を包んだ一回り大きな女性が立っていた。その身体は氷でできていて、凄まじい魔力を放っていた。これはミユキに宿っている精霊『氷姫』である。
精霊とは魔力の多い人間の傍で稀に生まれる魔力体だ。氷姫はミユキが魔力に目覚めたと同時に生まれたものだ。普段はミユキのレイピアに宿り、鞘の中で眠っている。
ミユキでもまだ氷姫の力を使いこなせてはいない。そして氷姫は気まぐれで寝坊助だ。いつでも発現させられるわけではない。更に発現させられたとしても微妙な力加減はできず、ベタ踏みしかできない。
だが今この瞬間はベタ踏みでいい。
まさか自分のブレスが相殺されるとは思っていなかったベヒモスは驚いたような表情を見せる。そしてその瞬間をゲイルは見逃さない。
ゲイルは切っ先のその一点のみに全ての炎を集束させる。そしてそれをベヒモスの眉間に突き立てる。
『うがあああ!!!』
ベヒモスは血を噴き出しながら叫び声をあげる。
「やっと一発入ったな」
一旦距離をとろうとベヒモスの頭部から飛び降りたゲイルだったが、
ドゴーン!
ゲイルでも避けられないスピードで振るわれたベヒモスの尻尾によって地面に叩きつけられる。
「ごはっ!」
「ゲイル!!!」
急に雰囲気の変わったベヒモスを見ると目の色が文字通り変わっていた。緑から赤へ。
それを見て皆が理解した。さっきまではただじゃれてただけだったんだと。そして今やっとベヒモスは本気になったのだと。
「はぁはぁはぁ、ブチ切れやがった。ちょっと眉間を焼いてやっただけなのに。短気な奴だぜ」
血を吐きながらもなんとかゲイルは立ち上がる。だが更に追い打ちをかけるようにベヒモスはゲイルを踏みつぶそうとする。
―氷縛―
ベヒモスが一瞬氷の茨に拘束された隙にゲイルはその場から離れる。
「悪い。助かった」
「てか嘘でしょ。あの巨体であんなに早く動くの?」
「ああ、らしいな。動きがトロいから口から火吐いてるのかと思ったけど、ただめんどくさかっただけみたいだ」
「でも尻尾や足は速く動かせても身体全体の移動速度はそこまで速くないはずだわ」
「まああんだけでかけりゃな。あれで俺たちより足速かったら気持ち悪すぎるだろ」
「とにかく全校生徒が安全圏まで逃げられるまでもう少し時間がかかるわ。耐えないと」
「ああ、でもあの速度で攻撃してくるんだ間合いには入らない方がいいな。遠距離攻撃でかく乱するしかない。あんまり得意じゃねーけど」
「遠距離攻撃なら私の方が得意だわ。とにかく凍らせていくから、あんたは隙を見てダメージを入れて行って」
「ああ」
「でも無理はしないで!」
「わかってるよ」
2人が作戦を立てているとベヒモスは再び口を開く。
「またブレスが来るわ!」
「ああ!」
ただ今回のは今までのとは違った。ベヒモスの開いた口の中で炎が凝縮されていく。
『ごああああ!!!』
そこから放たれたのは超高濃度の熱光線。さっきまでのまき散らすような炎とは違い、完全にミユキとゲイルを消すためだけに放たれた一筋。
二人の目の前に突然の死が現れる。急な出番に準備ができてなかった走馬灯が焦りだすほどに、あまりにも突然の死。
避けることは不可能。受けることも不可能。
何も考えられなかった。走馬灯も間に合わなかったようで流れない。ただただ確信した。身体が、脳が、魂が、その全てが、確定された死を。
一瞬浮かんだのは一人の男の顔。
―二天流 玄武 零 断絶―
ベヒモスが放った熱光線は十字に斬りさかれる。
「生きてるか?」
ミユキとゲイルの目の前にはさっき一瞬浮かんだ男の背中があった。
ロイド・ブレイブハートである。
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