第14話 魔物の大量発生
俺をヒノモト国へ誘った日から、ジロウは学校を休みがちになった。
そんな時だった。
「南西部で魔物の異常発生が観測された。国軍が対処に当たっているが、その数は相当なもので、この学園にも応援要請が来た!だがしかし君たちの仕事は前線で魔物を倒すことではない。国軍が取りこぼした魔物が街に入らないように排除することだ!それにあたって5人一組のチームを組んで行動してもらう!今回の作戦においては命の危機を感じた時には撤退が許されている。決して無理をしないように!」
急遽朝早く校庭に集められた勇者科の生徒たちの前で教頭が現状を伝える。
Dクラスの前には眠そうなブラッドが怠そうに立っていた。
「さっさと5人ずつで組を作れ」
俺とニニカはもちろんあぶれ、同じくあぶれた3人とチームを組むことになる。
「チーム組めたなら行くぞ。まあ適当にやれよ」
「先生!今回は緊急事態なんですよ!そんな適当でいいわけないでしょう!」
委員長ぽい奴がブラッドの態度に痺れを切らして意見する。
「はぁ、じゃあ適当にじゃなく思いっきりやれ」
「そうじゃなくて今回は魔物が攻めてきてるんですよ!」
「だからだよ。こんな機会は滅多にない。思いっきりやってみろ」
「教師としてそれは無責任ではないですか!?」
「いや責任はとるよ。思いっきりやってみろ。ダメだったら俺が魔物を皆殺しにしてやるから」
この言葉に生徒たちは息をのむ。いつも開いてるか開いてないかわからなかったブラッドの目がかっぴらき、その赤い瞳が光ったからだ。
やる気のない先生だということは分かっている。だがあの剣聖のライバルだった勇者ということもみんな知っている。だからこそその言葉には説得力があった。
そしてそれはDクラスの生徒たちに安心感を与えた。正直皆緊張していたのだ。皆が初の魔物との戦いになるのだから。だから口答えもしてしまったんだろう。だがブラッドの言葉で彼らの緊張は若干和らいだ。
A、B、C、Dで配置は分けられた。Dクラスは東の端。一番魔物が来なさそうなところ。要するに残飯処理班だ。
「ボクらの出番はなさそうだね」
「まあ国軍が動いてるんだ。俺たち学生ほとんどが出番ないだろ。もしものもしものために呼ばれてるにすぎねーよ」
「そりゃそーか」
暢気に話していた俺とニニカの元に同じ班の生徒がやってくる。
「君たちって元普通科で勇選祭を勝ち進んだ人たちだよね!」
「ああ、そうだけど、それがどうした?」
はぁ、またいちゃもんをつけるめんどくさい奴か。
「いや、おちょくる気とかはないんだ!単純に君たちの試合に感動したんだ!僕はギリギリで勇者科にいるだけで普通科の人たちと大して変わらない。必死で勇者科にしがみついているってだけなんだよ。でも君たちは普通科でありながら勇者科を次々と倒して行った。僕は涙が出たよ。そして自分を恥ずかしく思ったんだ」
「なんだ、お前いきなりめちゃめちゃしゃべるな」
「あ、ごめん!」
「ロイド君!そんな言い方はないよ!ボクらを褒めてくれてるんだから!ありがとうね!モブ君!」
「お前の方が酷いだろ」
「ボクの名前はモブ・スーケ。覚えてくれてて嬉しいよ」
「マジかよ!」
「マジかよ!!!」
俺よりニニカの方が驚いていた。
「やっぱお前知らなかったんじゃねーかよ!」
「まあまあまあ、何も間違いはなかったんだからいいじゃないか!よろしくね、モブ君!」
「よろしく、ニニカさん!」
「はぁ、よろしくな。モブ」
「よろしく、ロイド君!、、、やっぱり僕のことは覚えてないか」
「ん?何か言ったか?」
「いや、なんでもないよ」
残りの二人は俺たちに話しかけることもなく端でつまらなそうな顔をしている。きっとこの二人はなれ合う気はないんだろう。
でもまあそれでもよかった。どうせここに魔物は来ないんだから。もしものために自分たちが配置されていることを皆が分かっていた。
だからこそ無理に仲良くする必要も大してないしてない。そのはずだったから。
ドゴーン!!!
突如地鳴りと衝撃が周囲を駆け巡った。
焦って地鳴りがした方角を見ると、そこには山のように巨大なサイの魔物がいた。
「おい、ニニカ。あんなのいたか?」
「いなかったね」
「どこから現れたんだ!?」
「わかんないよ!何もないところから突然現れたとしか、、、」
「そんなことがあり得るのか?」
「ボクみたいに使い魔として使役してるなら可能かもしれないけど、、、」
「けど、どうしたんだ?」
「そもそもボク以外に魔族はいないはずなんだよ!」
「そっか闇属性は魔族だけが持っている魔力だったな」
「それに万が一、億が一、魔族の生き残りがいたとしても、あれだけ巨大な魔物を使い魔として出し入れできるなんて、それこそ魔王クラスだよ!」
「もしかして魔王が復活したってことか?」
「、、、いやそれはない。それはないけど、強力な魔族が復活したのかもしれない。でもそれもあまり信じられないから。どうなってるのかボクにもわからないよ!」
ニニカが取り乱しているところなんて初めて見たな。
「まあわからないことを考えてもしょうがない。それより確実にわかっていることに対処した方がいい」
「もしかして―
「そのデカブツを倒す!」
「で、でも山ぐらいあるよ!?」
「わかってる。でも関係ない。あそこには―
「はっ!そっか。あの方角にはAクラスがいる」
「ああ、国軍のすぐ後ろに控えているミユキたちが危険だ。お前はここで待っててくれ」
「お断りだ!」
「はぁ!?」
「友達のピンチに逃げ隠れてたんじゃ、女が廃るよ!!!」
ニニカが前に出る。
「危ないぞ?」
「ボクがいない方が危ないぞ?」
「、、、確かにそうかもな」
「君はボクが守るよ」
ニニカは真剣な目で俺を見る。
「なら俺はお前を守る」
『ぶおおおおお!!!!』
魔物の雄たけびがここまで響いてくる。
「う、うそ」
「あり得ない」
「あんなのどうしろって言うんだよ」
膝から崩れ落ちるもの、呆然とするもの。誰もが確信したのだ。これはもう人がどうこうできるものじゃないと。
「二人とも!どこかに行くのかい?」
突然の化物襲来で慌てふためく生徒たちの中、モブが話しかけてくる。
「ああ、あのデカブツを倒しに行く」
驚きつつも覚悟を決めたような顔でモブが話し出す。
「ロイド君、あの巨大なサイの魔物なんだけど、、、」
「知ってるのか?」
「いや、でもやっぱりありえない」
「いいから話せ!」
「あの魔物。古い文献で読んだ古代神話に現れる神獣ベヒモスの特徴と全く一緒なんだ!」
「神話に神獣か。強敵だな」
「ロイド君!神獣だよ!強敵なんてもんじゃないよ!」
「それでも行く。俺から大切なものを奪うなら、俺は神だって殺す」
「ぷくく!勇者のセリフとは思えないね!でもボクも賛成。魔族にとって神なんて信仰対象でも何でもないからね」
笑って茶化しながらも、ニニカはベヒモスを睨みつける。
「とりあえず急ぐぞ!あんなデカブツなら前線なんてあっという間に潰される!」
「ちょっと待って!二人とも!今は一刻を争うんだよね!」
モブは何か覚悟を決めたかのような目で俺たちを見る。
「そりゃ一刻も早くあの場所に向かいたいが?」
「じゃあ僕の魔法が役に立つと思う」
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