第13話 勇者科へ戻る元天才勇者
波乱の勇選祭からひと月。異例となる普通科からの編入生二人が勇者科にやってくることになる。
「緊張するね!ロイド君!なんたって知り合い一人もいないもんね!」
「いや、俺は割と知り合いいるけど」
「そうだった!この男、元勇者科だった!裏切り者!」
「うるせーな。お前だって少しは知り合いいるだろ」
だがロイドたちが編入したのは勇者科Dクラス。勇者科の中でも最も成績の低い者たちのクラスだ。もちろんこのクラスから勇選祭に参加した生徒はいない。
「どっちみち知り合いいなかったね」
「そうだな」
普通科から編入してきた二人に対してDクラスの生徒たちの反応は辛辣なものだった。勇者科では最下位。唯一見下すことができる普通科が自分たちと同じところまでやって来た。はらわたが煮えくり返るほどの屈辱だった。
「マグレで勇選祭を勝ち進んだからって調子に乗るなよ!普通科のくせに!」
ロイドの前にDクラスの生徒たちが何人か立ちふさがる。
「勝ち進んだんじゃなくて、優勝したんだよ。めんどくさい言い方するな」
「ちっ!」
「まあまあ落ち着いて!」
ニニカが間に入る。
「この人たちは普通科であるボクらでも参加できた勇選祭に勇者科のくせに出られなかったことに心を痛めてるんだよ。だからロイド君も可哀そうなこの人たちをイジメないであげてよ」
「その辺で止めといてやれよ、ニニカ。むこうの怒りが立った今MAXになった」
「え?」
「いや、わざとだろ。お前」
「このクソアマ!!!!」
先頭にいた男がニニカに殴りかかってくる。だがその拳はロイドによって受け止められる。
「うちのが悪かったけど、それでも女に手をあげんじゃねーよ」
男はロイドに殴り飛ばされて気を失う。
「「「「ひっ!」」」」
取り巻きの連中も後退る。
「勇選祭を観戦してたならわかるはずだと思ってたんだがな。見て分からないなら体に叩きこんでやるぞ。カスども」
そう言ってロイドは前に歩き出す。
「そこまでだ!」
ここで待ったが入る。止めたのはDクラスの担任ブラッド・ドラキュール。死んだ魚のような目をした男だ。
「面倒なことをして俺の仕事を増やすな。俺は何が何でも定時に帰りたいんだ。最近は10日連続定時の10分前に帰っている」
そう言いながらヨレヨレの白衣を羽織ったブラッドはゆっくりと教壇の前に立つ。
「はぁ、普通科から勇者科への編入か。別に珍しいことをやってもいいが、俺のクラスでやらないで欲しかったな。めんどくさいのが一番嫌いなんだよ、俺は。だから今のはめんどくさいから見なかったことにする。全員何も言わずに席につけ」
ブラッド・ドラキュール、それなりに有名な勇者だ。魔力の属性は血。詳しい能力は知られていないが、剣の腕は一流。
それこそ学生時代は『剣聖』とライバルだったと言われている。なぜか全盛期に前線を退き教員になった。だがそのやる気のなさで現在は最底辺のDクラス担任に落ち着いている。
本当ならいつクビになってもおかしくないほどの勤務態度だが、現役時代の多大な功績のおかげでクビを免れているという訳だ。
「今日は新学期の顔合わせみたいなものだ。適当に済まして早く帰るぞ」
そんな感じでロイドたちの初日は始まる。だが最も騒ぎになっていたのはDクラスよりもAクラスの方だ。
序列1位で生徒会長だったセトは勇選祭での多くの危険行為で謹慎処分。生徒会長の座も降ろされ、序列は未定となっている。
繰り上げで生徒会長になったのはミユキだ。先に声がかかったのはゲイルだったが面倒だと言って拒否した。
序列も全員一段階繰り上げとなり、新たに五位に3年のユーゴ・エクリプスが入った。
ロイドとニニカの序列は保留となっている。
「なんで序列1位にも生徒会長にもならなかったの!」
帰ろうとしていたゲイルをミユキが呼び止める。
「はぁ?そんなのめんどくさいからに決まってるだろ」
「生徒会長はそうだとしても序列1位は!」
「お前ならもうとっくにわかってるだろう?この学園の序列なんてものには一切価値がないってことに。なぜならロイドが入ってない。いまだにあいつを序列1位にしないこの学園に俺は興味はない。俺の目的はガキの頃からずっと同じ。ロイド・ブレイブハートに勝つことだ。それだけだ」
「そうだったわね。そんなあなたの目から見て今のロイドはどうだった?」
「、、、強かった」
「え?」
「今のままじゃ敵わねぇ!だがなんてことはねぇ、ちょっと二年前に戻っただけ。ただそれだけだ。すぐに追いついてやるさ」
そう言ってゲイルは帰って行く。だがゲイルの顔には悔しさよりも喜びがあふれていた。
「ゲイルもおかえり」
ゲイルに聞こえない小さい声でミユキが呟く。さっきのゲイルの顔は昔よく見た顔だったから。次は絶対ロイドに勝つと叫んでいたときのあの顔だ。高等部に入ってからは一回も見たことがなかった。いつもつまらなそうな、それでいてイライラしているようなそんな顔をしていたから。
そしてもう一人帰って来てほしい人間にミユキは思いをはせる。
*
「勇者科初日には一人も友達が出来なかったじゃないか。ロイド君のせいで」
「なんで俺のせいなんだよ」
「ロイド君のせいでしょ!編入初日にヤンキー漫画みたいにな喧嘩しちゃってさ!」
「あれは向こうが吹っ掛けてきたんだろ」
「いーやあれはもう2ターンぐらい会話の余地があったね」
「2ターン会話したって結局ああなる」
「そうかもしれないけどさぁ~。あの時君と一緒にいたから、今日ボク誰に話しかけても逃げられちゃったんだよ」
「それはお前自身が怖がられてるんじゃねーの?皆勇選祭は見てたんだろうからお前が悪魔を使役したところも見てたろ」
「げげっ!ボクそれで避けられてるの!?」
「そりゃそうだろ。悪魔を従えてる奴なんて気味悪い奴ランキング一位だろ」
「ぬぐぐ、それだって君のせいじゃないか!」
「、、、それは感謝してるよ」
バツが悪そうにロイドが言う。
「あ、そ、そういう意味ではなくてですね。お粗末様です」
ニニカも焦って返事をする。
「ああ」
2人がそっぽを向いて沈黙を迎えた時、ちゃんとその沈黙を破る者が現れる。
「ロイド―!」
後ろからジロウがロイドに抱き着いてくる。
「おお!ジロウ、どうしたんだよ」
「今日勇者科で会えると思っておったのに!クラスが違うとは!不貞腐れて帰っていた所にお主を見つけたのじゃ!」
ジロウはロイドに頬をくっつけてすりすりしている。
「ちょ、ちょっとジロウちゃん!それはスキンシップが過ぎるんじゃないかな!」
慌ててニニカが二人を引き剥がそうとする。
「何をするんじゃ!ニニカ!このぐらいヒノモトでは日常茶飯事じゃ!」
「嘘だ!ヒノモトは未婚の男女の接触には厳しいはずだよ!」
「ふふふ!だが好敵手とのスキンシップは推奨されているのだ!それが互いの成長につながるからのう!」
「なに?その謎理論!とにかく男女なんだから過度のスキンシップはNGだよ!」
「何を言う!好敵手に性別など関係ないわ!」
そんなやり取りを繰り返しながらニニカとジロウがワチャワチャしていると後ろから今度はミユキが現れる。
「相変わらずモテモテね」
「嫌味かよ?」
「いえ、本音よ。死ねばいいのに」
「本音が過ぎるだろ!」
「それでどうだったのよ。勇者科初日は?」
「それがね、ミユキちゃん!ロイド君がいきなりクラスの連中を殴り飛ばしちゃってボクらぼっちだよ!」
「もう何してんのよ!あんたはいっつもカッとなったら止まらないんだから!」
「お前も文句言ってくるのかよ」
「でもそうゆうとこが好きなんだけど」
ミユキがボソッと本音をこぼす。
「ん?なんか言ったか?」
「な、何も言ってないわよ!」
焦ったミユキが大声を出す。だが抜け目なくしっかり聞いていたものが一人。
「ボクは聞こえたよ!ニヤニヤ」
「ちょっと、ニニカ!今のは忘れて!」
「フォーティシックスの4段アイスで手をうとう!」
「くっ!わかったわ!」
「わしを置き去りにするでない!ところでロイド、わしと一緒にヒノモト国に来る気はないか?」
ジロウが突然すごいことを言う。
「「ええ!?」」
もちろんニニカとミユキは驚きの声を上げる。
「この国では魔力がないだけでお主の力をちゃんと評価する者はおらん。しかしヒノモトならお主のオドがどれだけすごいかを皆が分かる!わしの国で勇者になれば誰も文句を言うものはいない」
突然ではあったがどうやらジロウは真剣なようだった。
「確かにそれはいいかもな」
「そうじゃろ!」
ジロウは嬉しそうに答える。
「「ええ!?」」
そしてニニカとミユキは繰り返す。
「でもごめんな。俺はこの国から離れるわけにはいかない。一度勇者を諦めて分かったが、俺は世界中を救いたいわけじゃない。俺の周りにいる人間たちを守りたいんだ。だから俺はここを離れねぇよ」
「「ほっ」」
今度は二人一緒に胸を撫でおろす。この2人かなり息が合ってる。
「そうか。お主らしいのう。ならば今日のところ退くとしよう。だが諦めたわけではないぞ。わしとお主が二人いれば世界を獲ったようなもんじゃからな!かかか!」
「そうかよ。じゃあ一人で世界を獲れるようになってからもう一回誘いに来い」
挑発的な笑みを浮かべてロイドが言う。
「言うてくれるわい」
ジロウもどこか楽しそうに笑う。
「ただお前に助けが必要になった時には、国なんか関係なく俺はお前の元に駆け付けるぞ」
「、、、本当か?」
ジロウは驚いたような顔で聞き返す。
「俺がライバルに嘘をつくかよ」
「そ、そうか。そうかそうか!かかか!その言葉だけで十分じゃ!ありがとう」
ジロウの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「おい、お前どうした?」
「なんでもないわい!そろそろ夕食の時間じゃ!ここで失礼するぞ!」
焦ったようにジロウは帰って行く。
「何かありそうだね」
「何かありそうね」
「なんだお前らいきなり」
ロイドの両サイドでニニカとミユキが頷いていた。やはりこの二人は気が合うようだ。
「だってあの顔は何かある顔だよ?」
「私もそう思うわ」
「お前ら急に意気投合してんじゃねーよ」
「そりゃあボクたちだって、ねえ」
「うん」
「なんだよ気持ち悪りーな。さっさと帰るぞ」
「ちょっとちょっとロイド君!何か思うことはないのかい!?」
「そうよ、ロイド!何か感じるところはあるでしょ!」
「ああ、うるせぇ。腹減ったから帰る」
「「ロイド(君)!!!」」
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