第12話 ロイドVSセト

「俺はロイドと戦わなきゃいけねーんだよ。さっさとくたばれ、モブ野郎」


―七の秘剣 炎天下―


凄まじい熱を帯びたゲイルが飛び上がってセトに斬りかかる。


「俺が体を手に入れたんだ。もうお前なんてどうでもいいよ」


―黒光魔法 断罪―


空から黒の光線が降り注ぎゲイルの全身を貫く。いつものゲイルなら避けられていたかもしれないが、セトに不意に刺された傷はかなり深かった。


「ゴハっ!」


ゲイルは血を吐きながら膝をつきそうになるがギリギリで踏ん張る。


『また決勝で戦おうぜ』


「俺はロイドと約束してんだよ。こんなところで負けるわけにいくかよ。それに俺はこのあとあのロイドに勝たなきゃいけねーんだ!」


ゲイルの炎は再び激しく燃え上がる。


「なんだこいつ。本当に人間かよ」


「種族なんて下らねぇなぁ。魔力なんて下らねぇよ。何もかも下らねぇ。ただ強いか弱いかだけだ。俺がロイドより強いかどうかだけだ!燃えろぉぉぉぉ!!!!」


―蒼炎―


ゲイルの炎が蒼く染まっていく。


「決着を着けようぜ」


「炎の色を変えたところで俺には効きやしねぇんだよ!お前こそさっさとくたばりやがれ!」


チリッ


「熱っ!何!?」


セトは自分の魔力で作った衣が焼かれていってることに驚きを表す。


「お前は燃やすって言ったはずだぜ」


「くそぉぉぉぉ!!!!」


―蒼炎の太刀 花炎(かえん)―


しかしゲイルの振り下ろした炎はセトに届く寸前で消えた。ゲイルは剣を振り下ろそうとした途中で立ったまま気を失っていた。


「は、ははは!ビビらせやがって!人間ごときが!気を失がってやがる!ゲハハハ!!!」


さっきまで冷や汗を垂らしていたセトだったものが高笑いをしていると、ゲイルの元へ一人の男が歩み寄ってきて彼の肩に手を置く。


「はっ!」


目を覚ましたゲイルは後ろを振り返る。そこにはロイドが立っていた。


「バトンタッチだ、ゲイル。ここからは俺がやる」


「くそ!お前とは絶対戦うぞ!」


「わかってる。邪魔が入った。仕切りなおしだ。次は全力で戦おう」


「俺が勝つからな!じゃあまああとは任せる。少し疲れた」


そう言ってゲイルはその場で完全に気を失う。


そして闘技場中央ではロイドとセトが向かい合っていた。


「お前誰だ?」


「ゲハハハ!セトに決まってるだろ!見ればわかるだろ!」


「そういうのいいから。お前は誰だ?」


「だから俺は―


「答えないなら殺すしかないな。ごめん、セト」


―二天流 玄武―


ロイドは一瞬でセトの首を切り飛ばす。その目はひどく冷たかった。


「クソ!」


ロイドは剣を鞘に納めて辛そうに後ろを振り返る。だがセトは死んではいなかった。


「ゲハハハ!悪魔は首を切られても死にませーん!」


セトの斬り飛ばされた首は引き寄せられてくっつく。


「、、、お前は何だ?」


「おお、今いい顔してるぜ!お前」


セトに取り付いた何かが楽しそうに笑う。


「セトの顔で汚ねぇ笑い方するんじゃねーよ」


―二天流 玄武 乱閃―


その瞬間セトはロイドによって細切れにされた。


だがセトの身体は再び元に戻っていく。


「俺を斬るのは無理だぜ。ゲハハハ!」


「そう言う奴って本当は無理じゃねーんだよ」


―二天流 玄武 乱閃―


ロイドは再びセトを細切れにするが、今回もまた彼の身体は元に戻っていく。だが今回、ロイドは戻っていく身体を真剣に見ていた。そして―


「見えた」


―二天流 玄武 一閃―


ロイドは身体が再生していく瞬間に一瞬漏れ出した黒い影を切り裂く。


「ぐあああああ!!!」


するとセトの身体からいかにも悪魔といったフォルムの黒い男が分離される。


「お前、どうやって俺とセトの繋がりを斬った?」


「言う必要あんのか?それ」


「人間ごときが俺の質問に意見するな!」


「全てが自分に都合よく進むと思うなよ。お前は何者でもねーぞ?」


「舐めるなぁぁぁ!!!!」


「逆に初めて会った奴を敬えって方が無理だろ。死ねよ」


―二天流 玄武 十六閃―


「ぎゃあああ!!!」


「質問に答えないなら殺すだけだ。意味がないし、お前は見ているだけで気分が悪い」


ロイドは再び二刀を構える。


「ちょ、ちょっと待て!話す!話すからちょっと待て!俺の話は聞いておいた方がいいぜ!」


「そうなんだ。でももういいよ。お前イラつくし、本当のこと言うかもわからねーし。めんどくせーから殺す」


「なっ!なんだその理論!」


「うるせーな。クソは死ねっていう単純な理論だよ」


―二天流 玄武 三十二閃―


ロイドが斬り刻んだ一片から地を這いながら逃げていくものがあった。


それをロイドは踏みつける。


「ぐっ!」


「おい、何逃げようとしてんだよ」


ロイドは足に力を込める。


「やめろ!それ以上されたら消えちまう!」


「なに言ってんだ?お前。初めから消すつもりだよ、クソ野郎」


「ひっ!」


そんなロイドの後ろから一人の少女が近寄ってくる。ニニカだ。


「ロイド君、あとはボクに任せて」


ニニカは身体を引きずりながらロイドの傍までくる。


「引っ込んでろ」


「君はこれ以上やっちゃいけない」


「こいつは殺さなきゃいけない。俺の親友を弄んだんだ」


「でもその親友は死んでない」


「じゃあこいつを許せってのか?」


「そうじゃない。ボクに任せてって言ってるの」


「、、、」


「ボクを信じられない?」


「、、、大丈夫なのか?」


「お安い御用だね」


ニニカはまだ傷が癒えていないのに満面の笑みで親指を立てる。


「ふぅ、そうか。じゃあ頼んだ」


「頼まれました」


そう言ってニニカは悪魔の前まで歩いていく。そしてゆっくりその頬に触れる。


―闇魔法 禁章 従属契約―


さっきまでロイドに踏みつけられていた小さな悪魔の首に首輪が現れる。


「名は?」


その首輪に繋がっている鎖を引っ張りながらニニカが尋ねる。


「名など教えるものか!人間ごときが調子に乗るな!」


「君はバカなんだね」


「なっ!」


ぐっ!


ニニカは鎖を更に引き寄せる。


「君の選択肢は二つ。あそこの恐いお兄さんにこのまま跡形もなく消されるか、この優しいお姉さんの奴隷になるかだよ。さっさと選んで」


ニニカは普段の彼女からは考えられないほどの冷たい目で悪魔を見下ろす。その気迫に悪魔は完全に気圧される。そしてゆっくりと口を開いた。


「、、、め、メフィストです」


「はい、契約成立」


「ぐがあああ!」


首輪がメフィストの首に浸みこんでいく。


「君は今日からボクの使い魔だよ!」


「くそがあああ!」


「言葉遣いが下品だね。先輩たちに直してもらって来て!」


ニニカがそう言うとメフィストは突如現れた闇の穴へと吸い込まれていく。そしてニニカはフラッとその場に倒れそうになる。


「ニニカ!」


そんなニニカをロイドが抱きとめる。


「おい!お前、大丈夫なのか!」


「大丈夫大丈夫?」


「疑問形じゃねーかよ。無理すんな」


「でもボクが来なかったら、、、」


「お前が来なくてもあんな奴―


「殺しちゃったでしょ?」


ニニカは優しく笑いながらロイドの頬に手を伸ばす。


「殺さなくていいなら、出来るだけ殺さない方がいいから。それが悪魔であっても」


ニニカの手は震えていた。


「、、、ありがとな」


「ふふふ、礼には及ばんよ」


「お前には敵わねーよ」


二人は目を見合わせて笑い合う。


「でもロイド君、戦いは終わってないみたいだよ。早く終わらせて来ちゃいなさいよ」


「そうだな」


ロイドはゆっくりとニニカを地面に降ろし、振り返る。そこにはセトが立っていた。


「おい、久しぶりだな。セト」


「ああ、久しぶりだね。ロイド」


フラフラしながらもセトは剣を構えていた。


「正気を取り戻したみたいだな」


「そうだね」


「じゃあどうする?ここで試合を終えるか?」


「いや、試合はまだ終わらせない。この試合は僕が勝って終わる」


「ん?まだ目が覚めてないのか?」


「目はずっと覚めてたよ。それでも僕がロイドに抱いていた劣等感をメフィストに利用された。だからあれもきっと僕なんだ」


「そうかよ」


「ロイドはいつもそうだね。僕なんか眼中にないって顔で僕に言葉を返すんだ」


「、、、そうかよ」


「ふざけるな!お前はいつもそうだ!自分が最強だって疑わない!やっと僕の方が強くなれたと思ったのに!やっと僕がロイドを守れるようになれたと思ったのに!」


セトは涙を流しながら叫ぶ。


「お前は強いよ」


「でもロイドもまた強くなった!」


「だが昔ほどじゃない。俺がヤバくなったら助けてくれよ、セト」


「結局弱虫の僕には無理だよ」


「無理じゃねーよ。お前はいつだって俺を助けてくれてたぜ」


「嘘だ!僕は君に助けられてばっかりだった!」


「お前はいつでも俺の味方だった。それがどれほど心強かったか」


「僕じゃなくてもよかったはずだよ!君に憧れる人間なんて沢山いる!」




『俺の傍にいるとお前まで化物呼ばわりされるぞ』


『そんなのどうだっていいよ。僕は知ってるもん。ロイドは誰よりも優しいって』




「そんなもん知らねーよ。俺にとってはお前だったんだ。お前が呼んでくれたら何処にでも行ける気がした。お前が助けを求めるならお前の敵を全て殺してやろうと思った。お前が泣いていたら俺は時間を超えてその理由を壊してやろうと思えた。お前は俺にとって今でも親友だよ」


「、、、グス、、、僕にとってだって親友だよ。いや親友以上だ」


「俺も一緒だ。じゃあそろそろ終わらそうか」


「そうだね。手加減はなしだよ?」


「そんな余裕あるかよ」


「じゃあ」


「ああ、そうだな」



―光剣 エクスカリバー 最終章―


―二天流 玄武 終の型―



光の剣がロイドを襲う。しかしその剣はロイドの一閃によって搔き消されセトは吹き飛ばされる。


しかしそれでもセトはギリギリ意識を保っていた。


「はぁはぁはぁ、僕は負けない!ロイド!僕を置いて行かないで!」


泣きながらも地を這いながらセトはロイドに迫ってくる。


「いつ俺がお前を置いて行ったよ」


「だってロイドはきっと僕を置いて先に行ってしまうはずだから!」


「じゃあ走って来いよ」


「え?」


「待っててやるから走ってこい」


「そんなこと、、、そんなこと!!!、、、僕は君の傍にいてもいいのかい?」


泣き顔でセトはロイドを見上げる。


「俺の背中にずっと着いて来てたのは誰だよ。お前だろ。俺が背中を預けられるのはお前だけなんだぞ?」


「ロイド、、、」


「どうする?」


「、、、決着をつけよう」


涙をぬぐったセトは立ち上がる。


「いい顔するようになったじゃねーか」


「僕が勝つからね!」


「お前、俺が負けるとこ見たことあんのかよ」


「、、、グス、、、ないよ」


泣きながら振り下ろしたセトの一撃を軽くさばき、ロイドはセトの腹を剣ではなく剣を握った拳で殴り飛ばす。



―おかえり、僕の勇者―



そのまま気を失ったセトは幸せそうな顔をしていた。


この瞬間に勇選祭は終わった。


優勝者はロイド・ブレイブハート。異例の普通科生徒の優勝に世間は大騒ぎだ。だがそれは称賛の声ではなく、困惑によるものだった。

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