第11話 セトVSゲイル
準決勝第二試合はセトVSゲイル。
両側から両者が闘技場に上がってくる。
「おい、メッキが剝がれかけてるな。どんな気分だ?生徒会長」
「くっ!序列一位の僕に向かって無礼だぞ!」
「バカなお前にももうわかるだろう。この学園の序列一位は俺だ。いや、ロイドがいるからな。今日決まる。少なくともお前ではない」
「皆ロイドロイド!!!いい加減黙れ!!!」
セトが光を纏いだす。
「もう飽きたよ。お前のそれ」
同時にゲイルも炎を纏っていく。
「君はいつまで経っても僕に対して上から目線だね。それがずっと気に食わなかったんだ」
「上から目線?俺が上なんだから当たり前だろ」
「序列1位は僕だぞ!」
「そりゃあそうだろ。俺が本気を出してなかったからな」
「ま、負け惜しみだ!」
「まあ、それでいい。この試合が終われば全てはっきりする」
「僕に楯突いたことを後悔することになるぞ!」
「しないからいい。そもそもお前なんてどうでもいい。ロイドが帰って来たんだ。お前に構ってる暇なんてないんだよ」
「ロイドロイドうるさい!僕はもうロイドを超えたんだよ!」
―光剣 エクスカリバー―
初っ端からセトは最強の攻撃を放つ。その剣の一振りで辺り一面を吹き飛ばした。だが土煙がはれたところには無傷で燃え上がっているゲイルが立っていた。
「なに!?」
「お前の魔力量は俺より遥かに上だ。それに光属性はレアで強い。だがそれだけだ。いくらピカピカの剣を振るってもその太刀筋は素人同然。俺やロイドが磨いてきた剣技とは程遠い。ただの大道芸だ」
「ふざけるな!最高量の魔力を持った僕が最強なんだ!」
再びセトは光を纏った剣を振り下ろす。
「お前は昔からそうだ。ロイドには勝てないと諦めて鍛錬もしない。そして身の丈に合わない魔力を得たら今度はそれに乗っかって偉そうにしてただけ。なあ、お前って生まれてきてから今日まで“何かしたか?”」
「黙れぇ!」
「俺はお前がずっと嫌いだったよ。なんでロイドみたいなすごい奴がお前を守っているのか理解できなかった」
「黙れ黙れ!」
「誰よりも自分を守ってくれた人間を、自分が力を持った瞬間にあっさりと見捨てる。お前は生きてて恥ずかしくねーのか?」
「殺す!」
―光剣 エクスカリバー 最終章―
セトの剣は更に光を帯びその刀身は天を貫くほどになった。
「死ね!」
そう言ってセトはその剣を振り下ろす。だがゲイルはまだ薄ら笑いを浮かべたままだ。
「弱虫セト。身の丈に合わない力を持つもんじゃねぇな」
―五の秘剣上 炎炎狒々―
―五の秘剣下 炎炎鬼気―
この世の終わりかと思うほどの炎が闘技場を埋め尽くす。無数の炎で出来た狒々と鬼たちが一斉にセトへと飛び掛かって行く。
その光景はまさに地獄そのものだった。誰もがゲイルの勝利を確信した。だが勝敗よりも皆セトが死んでしまうのではないかと背筋を冷やした。
「殺しはしねーよ」
そう言ってゲイルは自分の炎を消す。だがすでにそこには無残に焼き焦げたセトが気を失って倒れていた。それはとても痛々しい姿。観客もまさか序列一位のこんな姿を見るとは思っていなかっただろう。
「おい!回復系の魔法を使える奴をサッサと連れてこい!このまま放っておいたら本当に死ぬぞ!」
まさかの結果にフリーズしている周りの連中にゲイルは大声で指示を出す。
「回復班急げ!」
闘技場に向かって回復術士が走ってくる。
『しょ、勝者はゲイル・り―
―力を貸せ。いや、寄越せ。全部寄越せ!―
―よく言えました!ずっとその言葉が欲しかった!心からの言葉が!では契約は成立!おめでとう。お前は晴れて悪魔堕ちだ―
大火傷して倒れていたセトの身体を突然地面から這い出してきた無数の黒い手が抱きしめていく。そしてセトの身体は謎の手に完全に包み込まれる。
「はぁ、なんかおかしいと思ってたけど。お前、なんか厄介なのに憑りつかれてるみたいだな」
ゲイルは一度納めた炎を再び纏いだす。それもさっき以上の炎だ。
セトを包んでいた黒い腕がゆっくりとほどけていく。そしてそこに立っていたのはセトだったなにか。
黒い角、黒い翼、黒いオーラを持った得体のしれないもの。
「ちっ!めんどくせーことになってんじゃねーよ!」
最大火力で身構えたゲイルだったが、気づくと目の前にセトが立っていた。そしてセトの剣が腹を突き抜いていた。
「はぁ?」
「ゲハハハ!感謝するぜ!お前のおかげでセトの身体が完全に俺の物になった!」
「ああ、そうか。あいつはお前に操られてたんだな。それなら、ごはっ!はぁはぁはぁ、少しは納得いくな。ごはっ!」
*
俺は生まれた時から何でもできた。何をしても一番になれた。そして才能があると言われて勇者学校に入学した。でも大してやる気もなかった。別に勇者になりたいわけじゃなかったから。
それでも俺はどうせ一番だと思っていた。信じて疑わなかった。だが俺はここで初めて二番になる。あいつがいたからだ。
歴代最高の勇者になると期待されている男。初めて戦ったときは一瞬しか記憶がない。すぐに叩きのめされて気を失ったからだ。
2回目でやっと顔をしっかり見られた。
3回目でやっと話が出来た。
『お前、結構強いな』
『うるせぇ!』
毎回何もできずにやられる俺をバカにしてると思った。
『ゲイル、俺は勇者になったらきっとお前と一緒に戦うことになると思うんだ!』
『誰がお前なんかと一緒に戦うか!』
嬉しかった。
『俺は勇者になったらこの世界から魔物を全てなくそうと思ってる!お前も一緒に来るよな!』
『うるせぇ!勝手にやれ!』
別になりたくもなかった勇者が俺の目標になった。こいつと一緒に戦えるのは俺だけだと思ったから。
ひたすらあいつの背中を追い続けた。
これだけは絶対認めたくなかったが、俺はきっと憧れていた。
あいつは絶対に勝つから。どんなにすごい奴が相手でも俺はあいつの勝利を疑ったことはない。あいつに勝てるやつがいるとしたら俺だけだ。
ほら見ろ。あいつは魔力なんかなくってもやっぱり強かった。あの日あいつを無能だと見限ったクソども!目ん玉かっぽじってみろ!あれが俺たちが憧れた最強の勇者ロイド・ブレイブハートだ。
そして俺こそがあいつと並び立つ男、ゲイル・リチャードだ。
「そ、そうだ。俺はゲイル・リチャード。俺はロイドの横で戦う勇者だ!」
血を吐きながらも必死にゲイルは剣を構える。そして一度収まりかけた炎が再び燃え上がる。
*
僕は子供の時からロイドの戦いを見て来た。そしてロイドが負けたことは一度もない。僕にはそれが自分のことかのように誇らしかった。だが毎回圧勝するうちにロイドは退屈そうな顔をするようになった。
『ロイド!どうしたの?』
『ん?いや、何でもねーよ。ただ少し退屈だなと思って』
『待ってて、ロイド!僕がすぐに追いつくから!』
『そうか。楽しみにしてるよ』
ロイドと並び立つのは幼馴染の僕だけだ。そう思って鍛錬を重ねた。だがそんなときにあの男が現れた。ゲイル・リチャードだ。
ロイドはゲイルと戦うときだけは楽しそうな顔をしていた。それがどうしてなのかはわからなかった。でも他の人たちと違ったのは、ゲイルだけは負けた後いつも悔しそうな顔で『次は絶対に勝つ』と叫び続けていたこと。
ロイドの強さに皆が、僕でさえも諦めてしまう中でゲイルだけは勝つことを諦めていなかった。
だからゲイルが次は勝つと叫ぶとロイドはいつも楽しそうに笑った。
僕には絶対に見せてくれない顔だ。
悔しかった。その顔は僕に見せてほしかったから。
それからの僕はロイドのライバルになることを諦めて、ロイドの友達でい続けるために生きた。
―何も考えるな。今のお前はロイドより強い―
そ、そうだ!今の僕はあの頃とは違う。今の僕はロイドのライバルなんかに憧れていない。僕の方がもうロイドより強いのだから。
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