第10話 ロイドとミユキ
「はっ!」
控室でニニカは目を覚ます。そして死んでもおかしくない怪我がすっかり治っていることに驚く。
すぐに誰の仕業かわかった。本人が目の前にいたから。
「目が覚めたかよ」
「ロイド君、相当力を使ったんじゃない?」
「それがどうかしたか?」
ロイドは軽口をたたくが、かなりの疲労が見て取れた。
「バカだね。これからも試合があるのに、こんなに力を使って」
「大したことねーよ」
「、、、ふっ。ちょっとこっちに来なさい」
ちょいちょいとニニカはロイドを近くに呼ぶ。
「なんだよ」
ニニカは近づいてきたロイドの頬に手を当てて優しくキスをする。
「なっ!」
―闇魔法 深淵からの救い―
「ありがとね」
ロイドの身体からオドを使いすぎた疲労感が消えていた。
「お前」
「ボクはまた少し眠るよ。起きた時に負けてたら承知しないからね。ボクのファーストキスだったんだから」
そう言ってニニカは気を失うように再び眠りについた。
「安心して寝てろ」
ロイドは優しくニニカの頭を撫でる。
*
『準々決勝最終試合!生徒会副会長、序列三位ゲイル・リチャードVS生徒会書記、序列四位エルグス・マナ開始です』
「ゲイル!お前とも手合わせしてみたかった!全力で行くぞ!」
エルグスは巨漢の男。魔力の属性は土。セトの前の生徒会長である。前回の勇選祭では初戦でセトに負けて序列を大分落としてしまったが、彼こそが序列二位だと言う生徒は多い。
エルグスは土の鎧を纏い本人よりも何倍も大きなゴーレムのような姿になる。
「この姿は前回の勇選祭では見せなかった俺の本気の形態だ!初戦で下級生に対してして本気を出すのは気が引けたのでな!だが今は下級生といえど序列は上、手加減なしで行くぞ!」
そのままエルグスは土を纏った巨大な剣をゲイルに向かって振り下ろす。
ゲイルは避けることもせずにその剣を受ける。
だがゲイルに剣が届くことはなかった。その大剣はゲイルに当たる前に溶けていたから。
「ああ、悪い悪い。少し考え事してた」
いつの間にかゲイルは炎に覆われていて、その炎によってエルグスの剣は溶かされていたのだ。
「な、なんだと!?」
「先輩、悪いな。ロイドが帰ってきたんだ。あんたに構ってる暇なんてない」
―一の秘剣 鬼火―
ゲイルは炎に包まれた剣を一振りし、エルグスの土の鎧まで一瞬で燃やし尽くした。
『あ、圧倒的!勝者はゲイル・リチャード!』
ゲイルは魔力量では学園で第三位だが、剣技はロイドを抜かせば学園最強の男である。本気を出せば序列第3位に収まっている男ではない。逆に言えば本気を出さなくても序列第3位になっている男なのだ。
彼はロイドに勝つためだけに剣技を磨いてきた。そして魔力がないというだけでロイドの神業ともいえる剣技をあっさりと捨てたこの学園に対して嫌気がさしていた。だからこそ今となってはひたすら磨いた剣技を使うことも無くなっていたのだ。
だが剣の鍛錬を怠った日は一日もない。それはセトやミユキに勝つためではない。いつか帰ってくるロイドに勝つため。だからこそ彼は今やっと磨き抜いた剣技を使ったのだ。
その強さに観客は驚き、歓声を上げた。
ゲイルが闘技場から出て通路を歩いていると、そこにはロイドがいた。
「よう、ゲイル。随分強くなったじゃねーか」
「ちっ!お前に言われるとムカつくな」
「また決勝で戦おうぜ」
「当たり前だ!そして今回こそ俺が勝つ!」
「いーや、今回も俺が勝つ」
「言ってろ」
どこか二人とも楽しそうな顔を浮かべながら別れていく。
そしてゲイルは控室に戻るが、控室にはセトがいた。
「今まで力を隠していたのか?」
深刻な顔でセトがゲイルに向かって言う。
「隠す?使う気がなかっただけだ。てめーらみたいなの相手にな」
「僕は序列一位だぞ!」
座っていたセトは立ち上がる。
「ふっ、序列一位?くだらねぇ。俺が敵として認めてるのはロイド・ブレイブハートただ一人だ」
「誰もかれも、皆ロイドロイド!最強は僕なのに!」
セトは大声を出して取り乱すが、それをゲイルは冷めた目で見る。
「お前は最強でも何でもねーよ。それを次の試合で教えてやる」
「なっ!」
「ハッキリ言っておく。俺はお前より強い。そして今回は手を抜くこともしない。ロイドが帰ってきたからな」
「最強は―
「さっきの俺の試合を見てどっちが強いかわからなかったんならお前は本当のバカだ」
「ぐっ!」
「まあ精々根性見せてみろ」
ゲイルはそう言って控室から出ていく。
「クソ!」
1人になったセトはテーブルを拳で思い切り叩く。
「クソ!クソ!クソ!」
―今のままじゃ勝てないな―
何度もテーブルを殴りつけていたセトの耳に再び闇から声が届く。
「なんでだ!僕は最強になったはずだ!」
―最強だよ?俺がいれば―
その言葉はセトを後ろから優しく抱きしめた。
「力を貸せ」
―その言葉を待ってたぜ。相棒―
闇は下卑た笑みを浮かべる。
*
準決勝第1試合。正直やりづらい相手だ。
『準決勝、ロイド・ブレイブハートVSミユキ・エリエス!開始です!』
ミユキは強い。剣の才は昔からあったし、魔力にも恵まれた。
そして俺の初恋の相手だ。
ミユキを誘拐犯から助けたあの日、あの瞬間に見せた笑顔に心を奪われた。ガキだったのもあって、この子が俺のお姫様なんだと思った。そして一生守り抜くと誓った。
「という訳で戦いたくないんだけど」
「なにがという訳なのよ?」
「まあそれは言えないんだけど」
「じゃあさっさと始めましょう」
「はぁ、お前って無駄にしっかりしてるからな。戦うしかないか。じゃあこれが一番手っ取り早いな」
「何ごちゃごちゃ言ってんのよ!」
―二天流 玄武―
―玄武岩 地―
地面にオドを纏わせた剣を叩きつける。そして俺が立っている場所以外のステージを全て消し飛ばす。
「はい、お前場外。俺の勝ち」
「え!?ちょっと待ちなさいよ!ロイド!」
『ミユキ選手、じょ、場外でロイド選手の勝利です』
「「「「「ブーブーブーブーブー」」」」」
学園一の人気女子を戦わないで負かした俺には会場中からブーイングが響いた。まあそれでいいんだけど。所詮何をしたって大して変わらない。
「闘技場こんなにしちゃってどうするつもりよ」
「しゃーねーだろ。俺はお前に剣を向けるわけにはいかねーんだから」
「本当に昔から私とだけはちゃんと戦ってくれないんだから」
ミユキはふくれた顔をする。そういえば昔よく見た顔だ。
「俺はお前を守る側だからな。戦うのは違う。本末転倒だ」
「私だって強くなったのに」
「なら俺はいつだってお前より強くなってお前を守るだけだ」
「、、、ロイドはいつもそうだよね」
「どうだ?俺はまたお前より強くなっただろ?」
膨れていたミユキだったが、諦めたように顔を元に戻し、今度は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「、、、おかえり、私の勇者」
「ああ、だだいま」
こうして準決勝第一試合は俺の勝利で幕を閉じた。
俺が派手に闘技場を破壊したことで、復旧のために準決勝第二試合までしばらくの休憩が挟まれた。その間に急遽ルールが追加されて、敵の場外目的の闘技場破壊は禁止された。
次の準決勝はセト対ゲイルだ。この2人の関係は俺もよくわからない。そもそも高等部に入るまでは接点がなかったから。
俺が魔力がなくて勇者候補から外れる前までセトは俺の後ろにずっと隠れていた。逆にゲイルは常に俺に向かってくる男だった。
そんな二人が生徒会に入って今はどんな関係なのか。まあ仲良くはないだろう。
大会の再開を控室で待っているとノックがした。ニニカは寝込んでるからこの部屋に来る人間はいないと思ってたんだが。ドアを開けるとそこにはミユキが立っていた。
「おお、ミユキか!なんだいきなり普通科の控室に」
「普通科かどうかなんてもうどうでもいいでしょ」
「まあどうでもいいけど。で、なんか用か?」
「ちょっと話したいことがあって。中に入っていい?」
控室という名前の倉庫へとミユキが入ってきて俺の前に座る。
「で、どうしたんだ?」
「、、、なんか嫌な予感がして」
「なにに?」
「次の試合」
「セトとゲイルか?」
「うん」
「セトには悪いが順当にいけばゲイルが勝つだろう。あいつが本気を出せばお前やセトじゃ勝てない」
「それは分かってる。でも最近のセトはおかしいの」
「そういえば前もそんなこと言ってたな」
「今のセトはきっとセトじゃない」
「どういうことだよ」
「わからないけど、アレは絶対セトじゃない!得体のしれない何かよ!だから助けて!勇者!」
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