第9話 勇選祭。ロイドとセト

一方観客席ではこの準々決勝は外れ試合だというものが多かった。


「マグレでここまで来たらしいけど所詮普通科だろ?」

「ああ、ましてや相手はヒノモト国からの留学生だ」

「やる意味あんのか?この試合」

「しょーがねーだろ。逆にトイレ行きたかったからちょうどいいわ」

「俺も売店行ってこよーかな」


この試合に期待している観客など一人もいなかった。


「ちっ!」


「気になるの?ゲイル」


いや、数人はいた。周りの観客の声にイラついているゲイルにミユキが声をかける。


「あいつが本当に戻ってきたのか確かめに来ただけだ」


「ロイドは勝てると思う?」


「さあな。それを見に来たって言ってんだろ」


「そっか。じゃあ見守ろ」


「あいつは見守る必要なんかねーだろ」


「え?」


いつも不機嫌そうなゲイルが珍しく笑みを浮かべた。


そして二人とは離れたところでセトもまたロイドの試合をこっそりと眺めていた。





『それでは準々決勝第一試合、普通科2年ロイドVS留学生ジロウ・ササキ開始です!』


俺はオドを練りあげる。今の俺のオドは紅色。何とかこの色まで持ってこれた。そして剣にオドを纏わせる。


ジロウは魔力とオドを混ぜ合わせた緑色のオーラを練り上げて、刀に纏わせ居合の構えをとる。


オドはただ力をあげるだけだが、魔力は違う。魔力には属性があり、一人一つ扱える属性が決まっている。


バチバチバチ


どうやら見たところジロウの属性は雷のようだ。確か雷属性は速度に特化している。そしてそれがオドによって底上げされているのだろう。


―居合一の型 雷火―


雷を帯びた神速の一刀。魔力とオドによって強化された一撃だが、それだけではなく剣技も昔よりさらに洗練されていた。


「相当腕を上げてるな。受けるのでやっとだった」


「当たり前じゃ。わしはこの国に、あのロイドを倒しに来たんだからのう」


「気を引き締めないとな!」


「久しぶりの再戦。互いの全力を尽くそうぞ!」


―居合三の型 迅雷―


居合の構えをとったまま雷を帯びたジロウが凄まじいスピードで突っ込んでくる。受けるのがやっとの状態ではスピードに翻弄されてジリ貧だ。


俺は一旦ジロウから距離をとってもう一本剣を抜く。


「ほほう、その剣はやはり予備ではなかったか。二刀流か?昔は一刀だったはずじゃが」


「魔力がないことが分かっても諦めきれずにこっそり鍛錬をしていた。その中で1本じゃ足りないと思って身に着けた」


―二天流 玄武―


二本の剣は更なるオドを纏い一回り大きな大剣に、そしてオドで甲冑を作り出して身に纏う。


「オドでそんなことができるとは。器用な男じゃ」


「こうなった俺はかてーぜ」


「試してやる!」


―居合四の型 雷桜―


四方から斬撃が降り注いでくる。だが玄武を纏った俺を傷つけることはできない。


「なるほど。この守りを破るのは骨じゃのう」


「さあここからだ!」


再び俺たちはぶつかり合う。そしてこの戦いはここから一時間ほど続いた。


「はぁはぁはぁ、さすがロイド。短期間でここまでオドを使いこなすとは」


「まあニニカの魔法の力が大きいがな」


「はぁはぁはぁ、ではそろそろ勝負を決めよう。おそらく次の一撃が最後になる。ダラダラ続けるぐらいなら最後はわしの最強の一撃で決めたい。だからお主も全力で来てくれ」


「ああ、わかった」


「かたじけない」


「楽しかったぜ」


「わしもじゃ。ありがとう」


―居合終の型 紫電一閃―


―二天流 玄武 極一閃―


電光石火の剣技とオドを注ぎ込んだ剛の剣がぶつかり合う。この最後の一撃で試合は終わった。





「けっ!やっと帰って来やがったか。待たせ過ぎなんだよ」


ゲイルは試合を見届けてその場を去っていく。


「待たせ過ぎには同感ね」


ミユキはロイドを見ながら涙ぐむ。


『しょ、勝者はな、なんと普通科代表のロイド選手!!!』


ロイドの勝利に観客たちは困惑していた。誰もロイドが勝つとは思ってなかったから。もちろんゲイルとミユキを除いてだが。


「ちっ!」


そしてもう一人。だがそのもう一人であるセトの反応は2人とは逆だった。不快そうに舌打ちをして踵を返す。


そんな彼の背からはどす黒いオーラが立ち上っていた。





準々決勝二試合目、副会長、序列二位ミユキ・エリエスVS生徒会会計、序列五位リリㇺ・エポクリの試合が始まる。


この試合は一瞬で勝負がついた。というか会場が一瞬で氷に包まれた。ミユキの魔法属性は氷。その魔力量も相まって歴代最高の氷使いと言われている。その強さは序列五位でも一切相手にならないほどだ。


「序列二位は伊達じゃないね!」


ニニカがまたもや後ろから話しかけてくる。


「ミユキの魔力量はセトに次ぐ学園二位だ。しかも属性は氷。剣を振るうまでもなく勝利するだろう」


「大丈夫なの?次は君が戦うんだよ?」


「お前こそ大丈夫なのかよ?お前が当たるのはこの学園最強の男だぞ」


「まあ頑張ってみるよ」


「気を付けろよ」


「案外優しいじゃないか!まあ目的はすでに達成してるからねぇ。無理せず健康第一で戦ってくるよ!」


そう言ってニニカはその辺の売店に行くかのような軽いノリで闘技場に向かって駆けて行った。





『準々決勝最終試合、生徒会長、序列一位セト・ハーティアVS普通科ニニカ開始です!』


「君がロイドと親しくしている普通科の生徒かい?」


「君がロイド君に対して劣等感たっぷりの生徒会長君かな?」


「、、、黙れよ。普通科の分際で」


「これは失礼。でも君はその普通科に負けるんだよ?」


「ははは!まさか僕に勝つつもりなのか?」


「ボクじゃないよ?君を倒すのはロイド君だ!」


「、、、あいつは魔力のない出来損ないだ」


「魔力はなくてもロイド君は君に勝つよ」


「、、、どいつもこいつもロイド、ロイドうるさいんだよ!」


セトから大量の魔力が吹き上がる。そしてその魔力は光り輝いていた。セトの魔法属性は光。


光属性は攻撃だけでなく回復も出来る万能の魔法だ。


「眩し!」


「光魔法に勝てる魔法など存在しない」


「まあボクは勝つつもりはないんだけど。ただ光魔法に勝てる魔法も存在していることぐらいは教えて退場しようかな」


ニニカからも青黒い魔力が立ち上る。


「そんな色の魔力なんて見たことないぞ!」


ニニカの魔法は闇属性。魔族とともに失われたとされている属性だ。


「そりゃ見たことがないものなんてたくさんあるでしょ。とはいってもこれ以上色を濃くしてしまうのはまずいからここまでなんだけどね~。もっと見たことないもの見せられなくてごめんね」


「何を言っている!?」


「サッサッとかかって来なってことだよ。ちょうどいいところで負けてあげるからさ」


「ふざけるな!」


―光剣 エクスカリバー―


セトの剣は眩しいほどに光り輝き、次の瞬間にはニニカを真っ二つにしていた。


人死にが出たことに、さすがの観客たちも言葉を失う。


「大会中の不慮の事故は認められている」


セトは悪びれもせず言い放つ。


「そうみたいだね。でも安心してよ。まだ不慮の事故は起きてないから」


セトの背後からニニカの声が聞こえる。そしてさっき切り伏せたはずのニニカの死体は黒い霧になって消えてゆく。


「なんだこれは」


怒りの形相でセトが背後のニニカへと振り返る。


「君の光属性は自分を高めることに特化した魔力だ。でもボクのは逆なんだよ。ボクの魔力はボクではなくボク以外に作用する。ボクは弱いままだけど、誰かを強くしたり弱くしたりできる。君は嫌いだから弱くしてみたよ」


「僕を弱くしただと?嘘をつくな!」


「あ、さっきのは幻覚を見せてからかっただけだった。弱くなるのはこれからこれから♪」


「ぐっ!」


突然セトはその場で片膝をつく。


「君にかかる重力を10倍にしてみたよ。どう?動けないでしょ?」


「くそがぁぁぁ!!!」


セトの魔力はその光を何倍にも増し、会場中を光で包み込んだ。


「はぁ、まあやっぱこうなるよね」


光が止んだころには胸元をざっくりと斬られて倒れているニニカとそれを見下ろしながら立ち尽くしているセトがいた。


勝負は完全に決まっていたがセトは止まらなかった。ニニカの前まで歩いて行って剣を振りかぶる。


「死ね」


ガキン!


突如ニニカの前に飛び降りてきた男がセトの剣を受け止める。ロイド・ブレイブハートである。


ロイドはセトの剣を受けた反対の手でニニカの傷口にオドを流し込む。


これは『二天流 朱雀』


朱雀はオドを外側ではなく人間の内側に全振りしたのがものだ。つまり肉体の回復力を異常なまでに底上げする。自分も他人も。再生という域にまで。


「おい!ロイド!まだ試合中だぞ!」


突然割って入られたセトが大声を上げる。


「黙れ」


「うっ!」


セトとは対照的にロイドは呟くように言った。だが気圧されたのはセトの方だった。


「し、失格にするぞ!」


「なんでただの大会でここまで傷を負わせる必要があった?」


「試合中の乱入は違反行為だぞ!」


「いいから答えろよ。聞いてるのは俺だ」


「僕がやったことは違反行為じゃない!不慮の事故は認められている!」


「不慮じゃねーだろ、これは。もう意識を失ってるニニカに剣を振り下ろそうとした」


「その女は僕をバカにし過ぎたんだ!だから少し手加減を忘れた!これは不慮の事故だし、その女の自業自得ともいえる!」


「そうか。じゃあこのあとの試合で俺はお前を不慮の事故で殺すが、それでいいんだな?」


「くっ!そもそも試合中に乱入したんだ!お前は失格だよ!」


「試合は終わってた。誰が見ても明らかだ。暴走したのはお前だろ」


「生徒会長の僕が言えばお前なんか失格にするのは簡単なんだよ!」


「俺がそんなに怖いかよ、セト」


ロイドは寂しそうな顔でセトを見る。


「こ、殺してやる!」


セトは剣を振りかぶるが突如左右から首元に剣を付きつけられる。副会長である二人だ。


「セト、やり過ぎよ」


「おい、これ以上ダセー事すんじゃねーよ」


「お前ら!」


「準々決勝第3試合はこれで終わりよ!」


ミユキの一声でこの試合は終わりを迎える。

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