第8話 勇選祭始まる

翌日、今日も今日とて俺は裏山へと向かう。


「よし今日も頑張ろう!」


もちろんニニカも一緒に。


「勇選祭まであとひと月だからな~」


「おやおや?ロイド君なんかお疲れ気味?」


「うーん、なんか勇選祭に出られること決まったからちょっと気が抜けたかな」


「じゃあ今日は修行をお休みして遊びにでもいこーよ!」


「はぁ?勇選祭まであと一か月なんだぞ。遊んでる暇なんてないだろ」


「ほんとに?ちょっと遊ぶ暇ぐらいあるんじゃない?」


確かに今更焦っても仕方ないってのもある。


「、、、うーん、ないこともないか」


「じゃあ決まりだね!今日は2人でデートだ!」


今日のニニカはやたら元気だった。


「デートって何するんだよ?」


「まったく、そんなこともわかんないのかい?はぁ、君は本当にいつまで経ってもロイド君だよ」


「いや、俺はいつまで経ってもロイド君だよ」


「よし!今日のデートプランはボクに任せておきなよ!」


「めちゃめちゃ張り切ってんな、お前」


「で・え・と!だからね!」


ニニカの勢いに押されて俺は今日の鍛錬をさぼることにする。というか強くなれる可能性であるオドにのめり込んでいたが、なんとなく一旦落ち着いた。


勇選祭への出場が決まったから、


うん、久しぶりに無気力にダラダラ遊んでもいいかな。うん、なんか久しぶりにだらけたい気分だ。


「で、どこにいくんだよ?」


俺は素直にニニカの後ろをついていく。なんか今日はもう考えるのも怠い。


「まずはクソ野郎だったあの頃を思い出してもらうためにゲームセンターにやってきました」


気付くとニニカと学校帰りによく通っていたゲームセンターの前にいた。久しぶりだが相変わらずいつ潰れてもおかしくなさそうな店だ。もしかしたらもう潰れていてここに存在しているのはただのゲームセンターという概念なのかもしれない。


「くだらないことを難しそうに考えてないで早く行くよ!」


「心を読むなよ」


「読むだけ無駄な、くだらなすぎる心の中だったよ」


そこから俺たちは対戦ゲームを片っ端からやっていく。そしてやはりこの女はめちゃくちゃ強い。


「ふははは!ロイド君は今日も全敗なのかなぁ?」


ニヤニヤしながらニニカが挑発してくる。


「お前もしかして魔法とかでズルしてんじゃねーだろーな?」


「ちょっとそれは聞き捨てならないな!ボクは基本魔法をズルするためにしか使わないけど、ゲームでのズルに使ったことはないよ!」


「堂々と言うことかよ!」


その後俺たちはゲームセンターで遊びつくし、ニニカのデートプランセコンド、流行りのスイーツ店へと向かうことになる。ちなみにゲームは俺が全敗した。


「さて、次はここのケーキバイキングで糖尿病になるまで食べるよ!さあレッツインスリン治療生活!」


「なんて嫌な掛け声だよ」


「そんなこと言ってロイド君がスイーツに目がないことは調査済みだよ?」


「確かに甘いものは好きだけど、俺はどちらかというとアンコとかそういう硬派なお菓子が好きなんだよ。スイーツみたいな軟派なのは趣味じゃねー」


「いつまで君は硬派でいられるかな?」


俺は不本意ながらニニカの顔を立てて軟派なスイーツを食べてやることにする。


そして一時間後、俺の中で何かが変わっていた。


「うますぎる。止まらない。止めることができない。止まりたくない!」


スイーツに硬派も軟派もなかったのだ。そんなものに囚われていた自分を恥ずかしく思う。スイーツとはただひたすらに人を幸せにするために戦う勇者だったのだ。


「ふふふ、ロイド君もこれで完全にスイーツの底なし沼に堕ちたね」


「うまいうまいうまい!甘い甘い甘い!」


「チョロい」


たらふくケーキを食べた俺たちは、イームス一の観光地『イームス・アイ』にへ行く。ここはイームスの全て見渡せる、国で一番高い塔である。


夜になればイルミネーションで輝き、下から見ても十分綺麗だ。だが最上階まで登って見渡せば地上の明かりが星々のように見える。まるで星を見降ろすような不思議な感覚に浸ることができる。


「どうだい?」


自慢げにニニカが俺に感想を求めてくる。


「いつでも登れたのに最上階まで来たのは初めてだな」


「綺麗かな?」


すごく綺麗だ。


空の光を守るのは神にでもやらせとけばいい。勇者が守るのは地上の光だ。


「やる気出たよ」


「よし、それでいいのだよ!ロイド君」


ニニカは満面の笑みで俺の頭を撫でた。そしてそのあと少し寂しそうな顔をした。


「それでお前はどうしたいんだ?」


自然と口から出ていた。ニニカが本当にこの景色を綺麗だとは思っていない気がして。


「この地上の光を全部消し去りたいといったらどうする?」


ニニカは泣きそうな顔で笑いながら、縋りつくような目で俺を見る。


「お前がそうしたいならそうすればいい」


「そしたらボクを止めるかい?」


「さあな。それはその時に決める。確かにこの光を守るのが勇者だが、お前が染める暗闇がもっと綺麗だったなら、それはそれでいいかもしれないと思ってる俺もいる」


ニニカは驚いた顔で一瞬固まる。そしてすぐに笑いだした。


「ははは、君はやっぱり面白いね」


「俺的にはお前の方が面白いんだが」


「じゃあ、ロイド君。ボクが全部闇に染めたくなっても君だけは輝いていてよ。君が光っていてくれるならボクは安心して闇でいられる」


「じゃあ俺はずっと光のままでいるよ。そしていつかお前をも照らしてやれる強い光になる」


「うん、期待してる」


そう言ってニニカは闇とは程遠い、眩しい笑みを浮かべた。





そして遂に勇選祭の日が訪れる。


街の中央にある闘技場には多くの市民が観客として集まり、大会の開始を今か今かと待っていた。


この闘技場は滅多に使われることはない。国にとっての大きなイベントごとでのみ使用される国一番の巨大施設。つまり勇選祭とはこの国においてそこまで重要な行事であるということだ。


「ロイド君!聞いてはいたけど、本当にすごい人だね!そわそわしちゃうよ!」


「てかお前ずっと俺の鍛錬についてたろ。それはありがたかったんだけど、お前自身は大丈夫なのか?」


「舐めないでくれたまえ、ロイド君。魔族なんて生まれながらのチート。更に訓練するなんて周りがかわいそうだよ」


「ならいいけど。ただ俺と当たっても手を抜くなよ」


「君こそ好きな女の子相手に本気を出せないとかやめてよ?」


「誰のことだよ!」


「ボクのことだよ!」


俺たちは普通科参加選手として狭苦しい控室で待たされていた。多分ここは控室ではなく倉庫だろう。


「もうそろそろ開会式だ。行くぞ」


「ニニカちゃん初お披露目だね!国中がボクの虜になるのは必然!それでも手を抜かないニニカちゃんに一同愕然!オーバーキルだ!」


やたらとテンションの高いニニカと一緒に俺は会場に入っていく。


「「「「「おおおおお!!!!!」」」」


選手が入場してきて観客のテンションが爆上がりする。まあ普通科からの出場選手なんて見てるやつはいない。彼らが見てるのは勇者科の代表たち。特に生徒会役員たちだ。


セトが入場した時に観客たちは最高の盛り上がりを見せる。それもそうだろう。過去数百年さかのぼってもここまでの勇者はいないと言われている男だ。


まあセトだけでなくミユキやゲイル、そして他の生徒会の面々への声援もすごかった。




開会式は珍しく姿を現した学長の挨拶から始まり、お偉い方の挨拶、そして最後はセトの選手宣誓で幕を閉じた。ちなみに教頭は出番がなくてしょぼんとしていた。


俺とニニカは隅の方で目立たないように開会式をやり過ごし足早に控え室という名の倉庫へと戻る。


「ボクら空気だったね」


「普通科が勇選祭に出るなんてここ数十年なかったことだからな。いないものとされてるんだろ」


「だったらワクワクするね!」


「何がだ?」


「だっていないとされているロイド君が優勝しちゃうんでしょ?」


ニコニコしながらニニカが言ってくる。


「ああ、そうだな。みんな度肝をぬかすぜ。想像しただけでニヤケてくる」


「でしょでしょ!」


「それで、お前はどうなんだよ?優勝する気はないのか?」


「ボクは勇者科に入れればいいだけなんだけど。そーだねー、せっかくだから優勝も狙ってみちゃおうかな。そしたらロイド君とも戦うことになるね」


「手加減しねーぞ?」


「えー、手加減してよー」


「手加減なんかしたら俺が負けるだろ」


俺が負けるという言葉を出したことにニニカは驚いていた。


「ふ、ふふふ、よくわかってるじゃない。ボクは強いぞー」


「知ってるよ。きっと俺よりもな」


「、、、ふっふっふっ!よくわかったね。まあ時と場合によるけど」


ニニカはそう言ってはぐらかした。


勇選祭はトーナメント形式で行われる。生徒会役員がシードであとの残りはくじ引きで決められる。


俺とニニカは反対側のブロック。


優勝するためには生徒会五の連中に勝たなくてはいけない。ニニカが本気を出せば話は変わってくると思うが、ニニカが本気を出すとは思えない。理由はわからないがまあそうだろう。


「ボクが本気を出さないんじゃないかって思てない?」


「ちっ!お前はエスパーか!」


「誤解があるようだから言っておくけどボクは本気を出さないんじゃなくて、どちらかというと出せないが近いからね」


「どういう意味だよ?」


「そこはまだ内緒にしておくよ」


「あっそ」


ニニカにはまだまだ言えないことがいっぱいあるんだろう。


「もっと興味を持ちなよ!」


「だって言いたくないんだろ?」


「必死さが伝われば教えてあげてもいいよ」


「なんでこれから大会が始まるのにそんなことに必死にならなきゃいけねーんだよ」


「じゃあそれはこれから必死になってもらうとして、あっさり負けたりしないでよ」


「、、、ははは、俺が負けるかよ」


「頑張りたまえよ!」


ここからはざっくりとダイジェストで行こうと思う。そもそも勇者科と言っても今の俺に一般生が勝てるわけない。


生徒会役員やジロウ、ニニカも順調に勝ち進んだ。


そしてあっという間に準々決勝。ここからが本番だな。というか生徒会の事ばかり考えていて忘れていた。生徒会役員なんかよりも手強い異国の勇者を。


「ロイド、早くも願いが叶ってわしは嬉しいぞ」


「ああ、ここまでこれたのはお前のおかげでもある。約束を果たすよ」


「じゃあ本気で来い!今日こそわしが勝つぞ!」


「昔からお前とゲイルに手加減しとことはねぇよ。それに今の俺じゃ本気を出さないでお前に勝つなんて無理だろ」


「そ、そうか!」


ジロウは嬉しそうに笑った。


俺も笑う。ここからが本当の戦い。


「さあ、楽しい楽しい殺し合いの時間だ」

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