第7話 セトに憑りつく影
「クソ!」
セトはテーブルを蹴り飛ばす。他の生徒会役員が驚くほどセトは荒れていた。いつもは沈着冷静な生徒会長がこんなに取り乱すなんて信じられなかった。
「セト、やめて!どうしたって言うの!」
ミユキは駆け寄るがセトに肩を掴まれる。
「ミユキ!なんであいつの『勇選祭』参加の許可を出した!」
「生徒会役員にはその権限があるわ。それに従っただけよ!」
「ふざけるな!」
セトはミユキの顔を叩こうとするがその手はゲイルによって止められる。
「おい、我が校最強?の生徒会長さん。何をそんなに焦ってるんだよ?」
「焦ってなんかない!」
「はぁ!?じゃあ正気で女を殴ろうとしたってことかよ」
ゲイルがセトを睨みつける。
「くっ!」
「やっと手に入れた王様の椅子をまたロイドにとられるのが怖くて怖くてしょうがないんだろ?だって一度も勝ったことがねーもんな?」
「お前だってロイドに勝ったことはないじゃないか!」
「その通りだよ。だが俺はお前と違って喜んでるよ。あいつに勝つチャンスが与えられたことに」
「魔力のないあいつに出来ることなんてない!」
「出来ることが見つかったから『勇選祭』に出てくる気になったんだろ?あいつは俺が唯一認めた本物の勇者だからな。お前とは違うんだよ、メッキの勇者様」
「ゲイル!!!」
セトは激昂して剣を抜く。
「おもしれじゃねーか。かかってこいよ。泣き虫セト」
「黙れ!!!」
二人の剣が交わろうとしたところでミユキが止めに入る。
「生徒同士の私闘は禁止されているわ。それを生徒会役員が行うなんてあってはいけない!」
「くっ!」
「なんだよ、しらけちまった。せっかく楽しくなりそうだったのによ」
セトとゲイルは渋々剣を鞘に納める。
「一つ言っとくぞ、セト。ずっとロイドの影に隠れて怯えていたお前と俺は違う。俺はずっとロイドに勝つために鍛錬してきた。お前の力が本物なら証明して見せろ」
ゲイルはセトにそう言い放って帰って行く。
「クソクソクソ!なんで今更あいつが出てくるんだ!俺が最強なんだ。あいつは選ばれなかったんだ。選ばれたのは俺なんだ」
「セト、どうしたって言うの?あなた最近おかしいわよ」
「うるさい!ミユキこそ何でロイドの肩を持つんだ!あいつは魔力もない落第者だ!本物の勇者は俺なんだよ!お前が愛するべきは俺なんだよ!」
パン!
ミユキはセトの頬を叩く。
「ロイドは私たちの友達でしょ!」
「、、、後悔させてやる。ミユキ、お前は俺の物になるんだ!」
「私は誰のものでもないわ!」
「ちっ!まだわかってないのか!それなら今度の大会でロイドを殺してわからせてやる」
「殺す!?あなた何を言ってるの?」
「『勇選祭』は命を賭けた真剣勝負だ。死人が出ても問題に問われない」
「それは不慮の事故の話でしょ!」
「不慮の事故になるさ。生徒会長である俺が何をしても」
「あなたそれ本気で言ってるの?」
「当たり前だろ。俺こそが真の勇者なんだから。お前もさっさと俺に従った方がいい」
「あなたに一体何があったの?」
「なにもないさ。しいて言うなら気づいただけだ。本物の勇者はロイドではなく自分だと」
「ロイドはあなたなんかに負けないわ!」
「貴様!口を慎め!今すぐ頭をいじって俺の奴隷にしてやってもいいんだぞ!」
セトから邪悪な魔力が噴き出す。
「二人とも落ち着け!」
止めに入ったのは前生徒会長で現生徒会書記であるエルグス・マナだ。
「邪魔をするな!」
「邪魔をしますよ、さすがに。会長、さすがにあなたの言動と行動は問題があると判断した」
「俺より弱いくせに!」
セトは剣に手をかける。
「人としての正しさに強いも弱いもない!今ここであなたが抜くのであれば命を賭けてでもあなたを否定する!」
エルグスもまた剣に手をかける。
「、、、くそ!」
セトは悔しそうに剣から手を放す。
前回の『勇選祭』でセトとエルグスは戦った。セトの圧倒的勝利に終わったが、セトは彼にどこか本気を見せていないような不気味さを感じていた。そんな男が命を賭けると言っている。ゆえにセトにはこれ以上強行することはできなかった。要するに恐れたのだ。
「でしたら話し合いはここまで!各々の意見は『勇選祭』で決着をつけることにしよう!」
エルグスのこの言葉で、今日の生徒会は解散することになった。
誰もいなくなった生徒会室。真っ暗になったそこに一人座っている男がいた。セトだ。
何かブツブツ言っている。
「もう少しで全部思い通りになるはずだったのに、どうして邪魔が入る」
―偽物の勇者のせいだろう―
「ロイドは本当に偽物の勇者なんだな」
―何度も言ってるだろう。お前こそが本物の勇者だ―
「それならどうしてミユキは俺の物にならない!」
―すぐにお前のものになるさ。ロイドを殺して最強を証明すれば―
「それで本当にミユキは手に入るのか?」
―そんなに手に入れたいなら俺が教えたやり方でさっさと頭をいじくってやればいいのに―
「それは最終手段だ」
―大して変わらんと思うが―
「ミユキには出来るだけ今のままでいて欲しい。そして俺を好いてほしいんだ」
―側が一緒なら中身なんてどうでもいいだろううに。人間の考えることは分からん―
「うるさい!いいから俺に力を貸せ!」
―もちろんいくらでも力を貸すぜ。お前が魔力をくれ続ける限り―
ククククク!
生徒会室に闇から漏れ出す笑い声が低く響いていた。
*
『勇選祭』の出場申し込みを終えた俺たちはそのままの流れでウチで夕飯を食っていた。
「お兄!いきなり女の子二人連れてくるなんて風紀が乱れすぎだよ!」
「ボクはニニカだよ。妹ちゃんよろしく~」
「この前来てた痴女」
「痴女はひどくない?」
「わしはヒノモト国からの留学生、ジロウ・ササキじゃ。ロイドとは中等部の頃からよく戦ったなかだ」
「あ!お兄の応援に行ったときにみたことある!」
「まあ二人とも俺の友人だ。ミルも仲良くしてくれ」
「お兄がそう言うなら、、、」
この日の晩御飯は肉と野菜たっぷりのお鍋だ。大人数で食べるにはもってこい。そしてやはり俺の妹が作る飯は天下一品だ。
「今日もすげぇおいしいな!」
「もう、お兄ったら!他の人もいる前でそんな愛の告白を!」
「いやおいしいって言っただけなんだけど」
「うんうん、結局、要するに、意訳すると愛してるってことだもんね!」
「どんな意訳の仕方してんの?」
「ええ!!??お兄、ミルのこと愛してないの!!??」
ルリが目に涙を溜めて上目遣いで俺を見てくる。
「、、、愛してるに決まってんだろ!」
「ミルも!」
ミルが食事中にもかかわらず抱き着いてくる。
「ロイド君と妹ちゃんは仲がいいね!」
「ははは!ロイドはシスコンなんじゃな!」
ニニカとジロウが楽しそうに笑っている。なんかイラっとする言い方だったが、まあ放っておこう。
そんな時にチャイムが鳴った。
「あ、ミユキお姉ちゃんが来たのかも!さっき呼んどいたんだ!」
そう言ってミルは元気よく立ち上がり玄関へ駆けていく。
うん、我が妹ながらすげぇことするな。この状況で更に人を増やす?現段階でもまだバタついてる状態なのに。ミル、恐ろしい子。
案の定、ギスギスした食卓が始まった。
「ねえ、ロイド。私にも紹介してよ」
「うん、こっちはジロウ」
「それは知ってる」
「えっとこっちはニニカ」
「あなたがニニカさんね。私はミユキ。よろしくね」
「よろしくね!ボクがロイド君の彼女、ニニカだよ!」
「はぁ!?なに言ってんだ!お前」
「か、か、か、彼女!!??」
「冗談冗談!でも彼女と言っても過言ではない!ロイド君の修行に毎日朝から晩までついているし。というか毎日一緒にいる時点で同棲と言っても過言ではない!」
「過言だろ!てかお前の過言ぶりすげーな!」
「ど、ど、ど、同棲!!??」
「それでお前は真に受け過ぎだ!」
「ロイド説明して!」
「お兄!説明して!」
「お前らどれだけ疑うことを知らねーんだよ」
誤解が生まれつつもだんだんと4人は打ち解けていった。
「ふふーん!ミユキさん!ボクはロイド君がどこまで成長したか知ってますよ!
」
「なっ!」
「それはわしも知っておるぞ」
「くっ!私だって、、、。そう言えば私がロイドの後を追うのを妨害していたのはあなたね!ニニカ」
「バレたようだね!そうだよ、ボクが魔法を使って邪魔していたのさ!」
「やめるのじゃ2人共。食卓の場で喧嘩するではない」
「それで、結局世界で一番愛してるのは妹のお兄は、勇選祭に出ることになったんだよね」
「変な対抗意識出すなよ。まあそうだ。勇選祭で優勝して俺はもう一度勇者科に戻る」
「お兄!」
「ロイド!」
「わしと戦うまで負けるでないぞ」
「ボクも一緒に勇者科行くよ!」
この日はなんやかんやで楽しく飯を食った。
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