第6話 女子会そして勇選祭

ロイドが眠りについた頃のミルの部屋では、


「ミユキお姉ちゃん!のんびりしてたら駄目だよ!」


「は、はい」


なぜかミユキは正座をさせられていた。


「ミユキお姉ちゃんはお兄とは一年位のブランクがあるんだから、その間にお兄の友達になったっていうニニカさんは強敵だよ!」


「や、やっぱりそう思う?」


「当たり前だよ!男なんて弱ってるときに優しくしてくれる女に弱いんだよ!」


「でも今更何をしていいのか、、、」


「そんな甘ったれたこと言ってる場合じゃないの!デートに誘って!」


「でも、いきなり、でも、、、」


「でもでも言わない!」


「は、はい!」


「これからはもっとライバルが増えてくるんだよ!」


「え!?そうなの?」


「そりゃそうでしょ!お兄がまた本気になったんだからすぐにまた最強の勇者になるよ!だってお兄だもん!ミルのお兄だもん!」


ミルは嬉しそうに涙目で笑う。


「そうだね」


それを見てミユキも涙が込み上げてきた。ずっと待っていたから。二人とも。ロイドが自分を諦めても彼女たちは一瞬たりともロイドを諦めたことはなかった。本人よりも信じていた。


彼女たちにとって勇者はロイドだけだったから。


「ミユキお姉ちゃん!今日はお兄のムカつくところとかっこいいところを言い合いっこしよ!」


「え?」


「今日は寝かせないよ!」


「うん」


目をキラキラさせているミルを見てミユキは優しい笑みを浮かべる。





早朝に起きて俺は今日も裏山へ向かう。


「なんでお前は俺より早く来てんだよ」


「だってそろそろ完成じゃん!そしたらお祝いじゃん?だから待ちきれなくて」


「オドに完成はねーよ。限界がないからな。でも確かにいっぱしに戦えるところまではもうすぐ行ける」


俺の感覚ではオドの色は赤までいってやっと魔力と渡り合える。そして俺のオドは徐々に赤に近づいてきてる。


でも普通ここまで早く伸ばせるものならオドはもっと普及しているだろう。


「お前のおかげでな」


「へ?」


「お前が俺の成長速度を早めてくれてるんだろ?」


「、、、バレちゃったか。早く強くなってもらいたくてやり過ぎちゃたかな」


いっけねぇみたいな感じでニニカは舌をだす。


「何をしたんだ?」


「ボクの魔法で君の経験値を増やしたんだよ。ざっと100倍ぐらいに」


ニニカの雰囲気が変わり、彼女の背中から黒い翼が現れる。


「お前もしかして」


「そうだよ、ボクは魔族だ」


「マジかよ。魔族は滅んだはずじゃ」


「ボクは唯一の生き残り。まあ学校の上層部は知っていることだよ。ボクは研究対象として生かされているんだ」


いつもヘラヘラしているニニカのこんな真剣な顔を見たのは初めてだった。


「お前は俺に何をさせたいんだ?」


「ねえ、ロイド君。ボクを縛り続ける全てを壊してって言ったらどうする?」





一月後、オドを最低限使えるまで取得した俺は久しぶりに学校に来ていた。


「でさぁ、ロイド君。どうやって勇者科に戻るの?」


「年に一度の校内最強を決める学内大会『勇選祭』がある。去年はセトが前生徒会長をたおして優勝し、そのまま生徒会長になった」


「でもそれって勇者科しか出場できないんじゃないの?」


「そう思われているが実は普通科も出場できる。まあ死ぬかもしれないから出場する奴はいないがな」


「マジ!?やったじゃん!」


「でもそれには生徒会役員の誰かからの推薦がいる」


「じゃあミユキちゃんに頼めばオッケーじゃん」


「ああ、もう頼んでる。今から正式な書類にサインしに行くところだ」


「そっかそっか。ということは君は普通科からいなくなってしまうってことだね。それはつまらないのでボクも勇者科に行くことにしました」


「はぁ?」


いきなりのニニカの言葉に間の抜けた声が出てしまった。


「ボクもその大会に出場するってこと」


「お前戦えるのか?というか誰に推薦してもらうつもりだ。推薦できるのは一人につき一人までだからミユキを頼るのは無理だぞ?」


「大丈夫大丈夫。その辺は心配ご無用。ボクは抜かりのない女なのだよ」


ニニカは謎のドヤ顔で恰好を付ける。


そんな感じで俺たちは2人一緒に生徒会室へと入っていく。


「じゃあロイド、ここにサインして」


「ああ、わかった」


俺たちの周りを生徒会の面々が取り囲んでいた。ゲイルはそっぽを向いていてセトは俺を睨みつけていた。だがそんな顔でも久しぶりにセトと目が合ったのが嬉しくて、気づくと俺は笑みを浮かべていた。


ギリッ!


「用が済んだのならさっさと出て行ってくれ!生徒会室にただの普通科が入るなんてありえないんだ!」


それがどうやら怒りを買ったようだ。


「はいはい、わかったよ」


「ちょっと待って!ボクの用がまだ済んでないよ!」


「はぁ?お前はただ付いてきただけだろ?」


「言ったでしょ。ボクも勇者科に行くって。リング!」


「はっ!」


生徒会役員唯一の普通科学生、庶務のリングがニニカの前に来て『勇選祭』参加推薦用紙を差し出す。


「なに!?聞いてないぞ!リング!」


「はい、言ってませんから」


声を荒げるセトとは対照的にリングは涼しい顔で答える。


「ニニカ様、これが私からの推薦状です。サインをお願いします」


「様はやめてよ」


「失礼しました。ニニカさん」


「ニニカちゃんでいいのに」


ニニカはさらさらと書類にサインを書き、にっこり笑う。


「これで普通科からはボクたち二人が出場だね」


こうして手続きを済ませた俺たちは生徒会室を後にする。


「お前リング庶務と知り合いだったのか?」


「知り合いというか彼は魔王崇拝者でね、ボクのことまで崇拝してるんだ。何でも言うこと聞いてくれるから便利なんだよ!ボクとロイド君の欠席をごまかしてくれていたのも彼だよ!」


「マジか、それはありがたいな。てか魔王崇拝者なんて知られたらヤバいんじゃねーのか?」


「うん、間違いなく投獄されるね。それでもこの国にはある一定数の魔王崇拝者がいるんだよ。上層部にもね」


「どうしてそんな」


「魔王、そして魔族、更に魔物。もっと言えば魔力。そこにはいまだ解き明かされてない謎があるんだ。そしてそれを解き明かし利用しようと思う人間たちは沢山いる。数百年前からね。そしてそんな人たちの末端には魔族を崇拝している人たちもいるんだよ」


「でもお前がなんで魔族だってわかってんだ?」


「言ったじゃん。上層部にもボクを崇拝してる連中がいるって」


「てかお前研究対象なのにこんな勝手なことしていいのか?」


「ボクには割と自由が認められているんだよ」


「そうなのか。ん?ていうかお前戦えるのか?」


「愚問だね。ボクにかかれば魔王だって敬語で焼きそばパン買いに行くよ!」


「、、、強いってことでいいのか?」


「あ、うん。まあ魔力量ならあの生徒会長を遥かに凌ぐよ」


「マジかよ」


「マジマジ。だからもしかしたら優勝しちゃうかもね~」


「まあ優勝しなくても普通科で3勝したものがいれば勇者科に編入できる」


「3勝ねぇ」


「つまりベスト8まで行けばいいってことだ」


「でも優勝を目指すんでしょ?」


「当たり前だろ。俺は負けるのが嫌いなんだ」


「ははは!じゃあ決勝戦はボクとの対決になるかもね!」


「そうなったら面白いな。でもいいのか?お前は魔族であることを隠しながら生きていたかったんじゃないのか?」


「ボクは楽しく生きたいだけだよ。隠れるのが楽しいなら隠れるし、もっと楽しいことが見つかれば隠れるのなんてやめる。ボクにとっては君と一緒にいるのが今のところ一番楽しいんだ!」


「そんなこと言ってすぐ負けんじゃねーぞ」


「思いっきりこっちのセリフだよね!」


俺とニニカは笑い合った。


「そう言えばジロウちゃんも参加するの?」


「ああ、それも交換留学の目的のひとつだからな」


とか言ってると張本人がやって来た。


「ロイド!学内大会に出るというのは本当か!?」


「ああ、やっとお前と戦えるな」


「もちろんじゃ。わしと当たるまで負けるんじゃないぞ!」


「俺は誰にも負けねーよ。お前にもな」


ジロウは一瞬嬉しそうな顔をして声を上げる。


「望むところじゃ!」

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