第5話 帰って来たロイド
ジロウからオドを学んでから俺は学校へ行かず、ひたすらオドの訓練に励むこととなる。朝から晩まで毎日。寝る時間以外は全てこれに注いだ。
そして分かったこともある。オドと魔力の違いだ。オドの力10でやっと魔力1ってところ。そして射程がほとんどないに等しい。射程も広ければ汎用性も高い魔力とは大違いだ。だが魔力に勝っているところもある。ジロウの言った通り上限がない。鍛錬を積めばどこまででも大きくできるだろう。
ただしそれには相当な鍛錬を積まなくてはいけない。そしてそれがこの国でオドが教えられてない理由だろう。オドを鍛えるには途轍もない時間がかかる。魔力があればこんな効率の悪いことはしない。
だがそんなことはどうでもいい。俺はまた勇者を目指せる。それだけで十分だ。
「で、お前はなんで今日もいるんだよ」
「だってロイド君が学校来ないからつまんないんだもん。それに一応ロイド君もボクのお婿さん候補だしね」
「いつなったんだよ」
「そんなことより修行始めてそろそろ半年ぐらいになるけどどれぐらいになったの?本気のやつ見せてよ!」
「なんでいちいちお前に見せなきゃいけねーんだよ」
「君の欠席をごまかしてあげてるんだからそれぐらいはいいじゃん!」
「てかお前もほぼ毎日ここに来てるのになんで俺の欠席をなかったことに出来てるの?」
「ふっふっふ、コツがあるのだよ!」
そんなもんにコツなんてあんのかよ。
「はぁ、しょうがねーな。まだそこまでじゃねーぞ」
「それでもいいから見せてよ!」
「わかったよ」
俺は自然エネルギーを集めていく。
「おお!ジロウちゃんのは黄色だったけどロイド君のはオレンジですごそう!」
この半年でオドをそこそこ使えるようになってきた。
「驚いたぞ。まさか橙色のオドを纏うなんて」
「はぁはぁはぁ、なんだジロウもいたのかよ」
「久しぶりに様子を見に来たのじゃ」
ジロウはたまに学業の合間をぬって俺の様子を見に来てくれる。
「本当はわしもニニカのように毎日赴きたいのじゃが、これでもヒノモト国を背負った留学生。あまり授業を休むわけにはいかんのだ」
「で、どうだった?俺のオドは」
「驚いた。今までは訓練風景だけで本気のオドを見れてなかったが、まさか橙色にまで至っているとは。お主はやはりとんでもない」
「そうか?」
「当たり前じゃ。ヒノモトでも橙色のオドを扱える者は一握りだ。それをたった半年で。さすがロイドじゃ!もうわしと戦ってもいいのではないか!?」
「いや、まだだな。俺のやりたいことにまだ追いついていない。魔力を使うやつらに勝つには足りない」
「そ、そうか?わしとしてはもうかなり十分だと思うのじゃが」
「もう少し待てよ。お前と戦うんなら妥協はしたくない」
「お主そこまでわしのことを、、、。わかった。ならより鍛錬に励むがよい!」
ジロウは顔を赤くしながら言う。
「ああ、わかってるよ。じゃあ俺はこのまま鍛錬を続けるからお前は授業に戻ってろ」
俺が再び鍛錬を始めるとジロウはニニカと何かを話して学校に戻っていった。
*
「なあニニカよ。あやつはどんな訓練をしておるのじゃ?こんな短期間でここまでオドを高められた者など聞いたことない。もちろんロイドは最強に至る男だとは思っていたがそれにしても」
「ボクにはよくわからないけど、とりあえず寝る時間以外はずっと訓練してるみたいだよ」
「でもそれにしたって―
「ボクにはよくわからないよ?」
「そ、そうか。そういうことにしておこう」
*
留学生がやってきたころから校内でロイドを一切見かけなくなった。多分学校に来てもいない。でもミルちゃんに聞いた話では毎朝家は出ているらしい。むしろ以前よりも早起きをして。
不思議に思って早朝にロイドの家の前で待ち伏せて後を追ってみた。だけどある場所まで行くといつも見失ってしまう。
私はこれでも勇者学園次席だ。人を見失うなんてことはない。ロイドならできるかもしれないけど、ロイドがやっているなら家を出てから少しは追いかけられるのがおかしい。
きっと別の人間の仕業だ。真っ先に思い付くのは留学生であるジロウ・ササキ。だからジロウの動きも監視していたが、最近は大人しく授業を受けている。初日に生徒会長に見せた態度とは裏腹にだ。
だけど彼女は絶対なにかを知っている。
「ジロウさん」
「なんじゃ、副会長様ではないか。なにかようか?」
「あなた初日にロイドの元へ行ったでしょ。それからずっとロイドは学校に来ていない。何があったの?」
「、、、何もないが?腑抜けていたから絶縁を言い渡しただけじゃ。もしかしてそれにショックを受けて不登校に、、、いや、無理か。そなたにはこんな嘘は通用せんか」
ジロウはミユキの目を見て適当な嘘でごまかすことを諦めた。
「当たり前よ。ロイドは最強の勇者なんだから」
「わしも同感じゃ。もう少し待っておれ。そなたの勇者が帰ってくるぞ」
ジロウは楽しそうに笑みを浮かべた。
「ちょっ!それってどういう―
「すぐにわかる。やっぱりロイドはお前が信じた通りの男だったとだけ言っておく」
「偉そうなこと言わないで!誰よりもロイドを信じてきたのは私だ!私が誰よりもロイドのことを知っている!」
「ではそなたもライバルじゃのう」
そう言ってジロウは去っていった。
*
今日も鍛錬を終えて帰路につくと家の前にミユキが立っていた。
「お前何してんだよ!もう夜だぞ!」
「どうしてもロイドに話があって待ってた」
「バカやろう!何時間待ってたんだ!今冬だぞ!いいからウチに入れ!」
焦ってミユキを部屋に入れ暖房をつける。
「お前ミルと仲いいんだから家の中で待ってたらよかったじゃねーか」
「そう言えばそうね。思いつかなかったわ」
いつものミユキらしくない雰囲気だった。
「どうしたんだよ、いったい。もう一年以上口きいてないのに」
「なんで学校に来ないの!?」
急にミユキが声を荒げる。
「、、、行ってもあんまり意味ないだろ」
「嘘よ。学校に来ないで何してるの?」
「適当に遊び歩いてるだけだよ」
「それも嘘。私は知ってる」
「何を知ってるんだよ」
ミユキはいきなり俺の手を掴む。
「この剣ダコ。ロイドはずっと剣を振り続けてる!」
「ただの運動だよ。昔の癖だ」
「違う!ロイドは勇者を諦めてない!絶対にあきらめない!」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「だってずっとずっと見て来たもの!あなたが私を助けてくれた日からずっとずっと!」
「、、、」
「教えて!ロイドは今何をしてるの?」
「、、、」
「お願い、お願い」
ミユキが泣きながら声を絞り出す。ミユキの涙を見たのなんて誘拐犯から救った時以来だ。もう駄目だ。カッコつけたかったけど、好きな子のこんな顔を見せられたら、どうしようもない。
「まだ完成してないけど、俺は強くなる方法を見つけた。俺はもう一度勇者になる」
「え?本当に?」
キョトンとした顔でミユキが聞き返してくる。
「ああ、本当だ」
「本当に本当!?」
「本当に本当だよ」
少し黙った後ミユキは手で顔を覆った。
「、、、よかった。本当によかった」
「心配かけて悪かったな」
「、、、バカ。バカバカバカ!」
ミユキは俺の胸をポカポカと叩いた。
「悪い」
「忘れないでよぉ。私にとっての勇者はロイドだけなんだよぉ」
「わかってる。悪かった。もう少し待っててくれ」
泣きじゃくるミユキを俺は抱きしめる。
「待ってる」
ミユキも俺を抱き返してくれた。
コンコン!
ノックがした後、入っていいとも言ってないのに扉が開いた。
「話は全部聞かせてもらったよ!」
「聞かせてもらうなよ」
扉を開けたのはもちろんミルだ。
「よかったよぉ!!!」
ミルも泣きながら抱き着いてきた。
「二人とも悪かった」
「ほんとだよ!お兄のばかぁ!」
「バカ」
その日久しぶりに3人で夕飯を食べた。ウチは両親が仕事で世界中を動き回ってるので夕飯はミルが作ってくれる。あまり口をきいてくれなかった時期もご飯は作ってくれていた。そのご飯をこの3人で一緒に食べられるのは本当に嬉しかった。
「もう!お兄がカッコ悪くなっちゃってほんとムカついてたんだから!でも昔のかっこいいお兄に戻ってきた!ぐすっ」
「もう泣くなよ、ミル。それにまだこれからだ」
「大丈夫!お兄なら大丈夫!だってウチのお兄が世界一かっこいいんだもん!」
いままでの分を取り返すかのようにミルは俺にくっついて離れなかった。
「ロイドが元に戻ってくれたのは嬉しいんだけど、一つ聞いておかなきゃいけないことがあるの」
何かを思い出したかのように、突如ミユキの目の色が変わる。
「え、なに?」
なんか怖い。
「家に連れ込んでやらしいことしてたっていう女の子は誰なの?」
「はぁ?」
「そうだった!お兄!あの女は誰なのさ!」
俺はここから小一時間二人の追及を受け、そしてミルの早とちりを指摘し、二人の誤解をやっとの思いで解いた。
「部屋でいかがわしいことをしていたってのは誤解だってわかったわ。でもその子っていつも一緒に帰ってる子よね?」
「まあそうだけど」
「つ、付き合ってるの?」
「つ、付き合ってねーよ!ニニカはただの友達だ!」
「怪しい!ロイドが学校に来なくなったと同時にニニカさんも学校を休んでるんだけど!巧妙に隠されていたけどね」
「そうなの!?ミユキお姉ちゃん!」
「生徒会の力を限界以上に使って調べたから間違いないわ!」
「限界以上使うなよ」
「いいから本当のことを言いなさい」
「はぁ、あいつは暇つぶしに俺の鍛錬を見に来てるだけだよ」
「ずるい!私も行きたい!」
「ミルも行くー!」
「お前らは勇者科なんだからそう簡単に授業を休めないだろ」
「「むむむ」」
「特にミユキなんて生徒会の仕事もあるだろうが」
「むむむ」
二人は少し不貞腐れたような顔をする。うーん、話を変えた方がいいな。
「どうなんだ?生徒会ではうまくやれてるのか?」
「、、、特に問題はないんだけど。ただ最近セトの様子がおかしいのよ」
「セトが?」
「態度が高圧的になってきているというか。それにロイドの話をすると不機嫌になる」
「今は生徒会長だ。ストレスが溜まってるんだろ。支えてやれよ」
「まあ、そのつもりだけど。なんか最近はセトがセトじゃないみたいで、、、」
「俺が戻れば大丈夫だ」
「、、、うん、そうだよね」
まだ不安そうではあったが自分に言い聞かせるようにミユキは笑って見せた。
「そしたら昔みたいにセトお兄ちゃんも入れて4人でご飯食べよ!」
「それはいいな」
色々と話し終えた後、ミユキは帰ろうとしたがミルに強引に引き留められて泊っていくことになった。
「お兄!ここからはガールズタイムだから邪魔しないでね!」
ミルはそう言ってミユキを自分の部屋へと連れて行った。
「わかったよ。じゃあおやすみ、ミユキ」
「うん、おやすみ。ロイド」
ミユキは俯きながらそう言った。
「お兄!ウチには!?」
「おやすみ、ミル」
「ミルのこと愛してる?」
恥ずかしそうにミルがそう言った。そう言えば昔は寝る前にいつも聞いてきた。なつかしい。
「ああ、愛してるよ」
「えへへ、ミルも!おやすみ!」
そのまま俺は自分の部屋で眠りにつく。久しぶりにいい夢が見られそうだ。
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