第3話 元天才勇者の日常
昨日も夜更かしをしたから完全に寝坊だ。今日も昼から行こう。
俺の朝は遅い。というか昼だ。
家にある物を適当に食って俺は学校へと向かう。ウチの両親はかなり放任主義なので何も言われない。気を使われてるのかもしれないが。
学校に向かおうと思ってたが、なんかだるくなってきて途中で引き返してゲームセンターに向かう。
格闘ゲームコーナーの適当なところに座る。
―乱入あり―
「お、いいな!」
俺は正直そこまでゲームはうまくない。だが相手はもっと弱く俺の連勝が続いた。なのにこいつはずっと挑み続けてくる。
「ぐわぁ!お金が無くなってしまったのじゃ!」
向かい側から女の声が聞こえる。彼女は俺の前まで来て泣きそうになりながら俺を指さす。
「ゲームではここまでのようじゃの!だが実践では負けないぞ!また会おう!」
「はぁ?」
少女はダッシュで去っていった。小柄な女だったが、黒い髪に黒い目、そして腰には刀を差していた。おそらくヒノモト国の人間だろう。珍しいな。
まあいいや。腹も減って来たしそろそろ帰るか。俺は途中で肉まんを買って食べながら歩いてると見覚えのある女が家の前に立っていた。
「あっ!サボり男!」
「なんでお前がここにいるんだよ!」
ウザさの権化、ニニカである。
「今日は連絡事項を伝えに来たんだよ!君とクラスで話してるのはボクぐらいしかいないからね!このぼっちめ!」
「うるさい!家の前で騒ぐな!中に入れよ。茶ぐらいなら出すぞ」
「家に連れ込んでボクをどうするつもり!?」
「じゃあ別に入んなくていいよ」
「なに言ってんの!入るに決まってるよ!」
「入んのかよ!」
ニニカはまるで自分の家のように、出された茶菓子をバクバク食い続けた。
「、、、そろそろ連絡事項を言えよ」
「ふぐfぐむぐもぐ」
「飲み込んでからしゃべれよ。てかガッチガチの煎餅をよくそこまで口いっぱいに頬張れるな」
「ごくごくごく、ぷはぁ!」
「出された緑茶をそんなに一気に飲み干す奴初めて見たわ」
「アレが来るんだよ!」
「どれ?」
「留学生!」
「あ、そう」
「リアクション薄!なんでボクが煎餅を食べまくってるときの方がリアクション活き活きしてたの!?」
「アンケートとってみろよ。人んちで出された茶菓子を一気食いをする奴の方がレアだから」
「はいはい。それで今年はヒノモトの勇者学校との交換留学があるんだよ。あとお煎餅とお茶おかわりね」
「ああ、そういえばそんなのあったな。そして人の家で茶菓子をおかわりする奴も初めて見たわ」
「ボリボリ。とりあえずね、今回はすごい強い人が来るんだって。ボリボリ」
「普通科の俺たちには関係ないだろ」
「まあそうなんだけどね。暇だったし、小腹も空いてたから来てみたのだ」
「安定のウザさだな、お前」
「フハハハ!ボクからウザさを取ったらただの器しか残らないよ!」
「はいはい」
「とにかく明日は留学生が来るから休んじゃだめだよ!」
ウチの茶菓子を食べ尽くした無礼の権化は最後にそう言い残して帰って行った。
ヒノモト国は東の果てにある国だ。独特の文化を持ち、大きな国ではないが高い戦闘力を誇る勇者が多い国でもある。
ちなみにヒノモトでは勇者のことを『サムライ』とよぶ。片刃の剣である刀を使った戦い方も独特である。
俺も中等部の頃の大会で連中とは何度も戦った、と思う。まああんま覚えてないけど。
とにかく今の俺には関係ないな。
飯でも食おう。
そう思って部屋を出ると視線を感じた。右を見てみると隣の部屋の扉が少し開いていた。
「おい、ミル!何を見てんだ」
「お兄!さっきまで連れ込んでいた女の人は誰!」
「ただのウザいクラスメイトだよ!」
「嘘だ!不良だ!ケダモノだ!」
「ゴハっ!」
ダッシュで扉から出て来たミルのボディーブローがめり込む。
「お兄のバカ!」
ミルは1つ下の妹だ。小さい時から俺の後ろを着いて回っていた可愛いやつだったが、俺が勇者を諦めてからはずっとあんな感じ。まともに口もきいてくれない。妹にも呆れられてしまったみたいだ。
「おい!ミル!どこ行くんだ!?」
「お兄には関係ない!」
「夕飯は?」
「作っておいた!」
「お前は?」
「、、、友達とファミレスで食べてくる!」
「そっか。気を付けろよ」
「、、、うるさい!」
最近ミルが夕方ごろ外に出かけることが多くなった。まあミルも15歳、いろいろあるんだろう。こうやって大人になっていくんだな。まあ兄貴ウザいって感じも大人への階段を上ったってことなのかも。
だったら兄である俺はどっしり構えていよう。それにあいつは高等部勇者科1年。魔力もちゃんと持ってる。危ないことはないだろう。というかたぶん俺よりも強い。
はぁ、飯食お。
*
私にとってロイドとの出会いは鮮烈だった。脳裏に焼き付いて一生消えないほどに。
『大丈夫か?お前』
私の家はこの辺では一番裕福な家だった。だからこそ一人娘の私は身代金目的で誘拐された。彼は偶然私が攫われるところを見て追いかけてきたという。
『今助けてやるからな』
無理だ。私を攫ったのは銃火器を持った男たち十数人。5歳の子供が出る幕ではない。私は逃げてと叫んだ。だけど彼は振り返って笑った。
『俺は勇者になる男だぜ?悪に負けるかよ!』
そこからは圧倒的だった。まるで夢でも見てるかのようだった。彼は銃弾避け、時には切り裂き、そしてボロボロになりながら十数人の男たちを全員切り伏せたのだ。
『ほら勇者は負けなかったろ?』
『うん!』
『お前名前は?』
『、、、ミユキ』
『ミユキか!俺はロイド!よろしくな!』
その時の彼の笑顔を忘れたことはない。それから私にとって勇者とはロイドだった。ロイドだけが勇者だった。
「おまたせ!ミユキお姉ちゃん!」
「待ってないわよ、ミルちゃん」
昔を思い出しながらボーっとしてるとミルちゃんがやって来た。最近はミルちゃんに呼び出されてこのファミレスで会うことが多くなった。話の内容は兄であるロイドの愚痴だ。
「お兄のやつ、今日もダラダラして学校をさぼって!」
「やる気なくて!」
「カッコ悪くて!」
「それでそれで、、、」
そして最後には毎回堪えきれずに涙を流した。
彼女にとってもロイドは誰よりも勇者だったのだ。私の前でだけ泣けるならいくらでも私は胸を貸す。むしろ嬉しいぐらいだ。
「ぐすぐす、あ、そう言えば、今日お兄が女の子を部屋に連れ込んでたよ」
ん?
「はぁ!?」
「なんかただのクラスメイトとか言ってたけど、ドアの前で盗み聞きしてたら『ガッチガチの、、、、口いっぱいに頬張れ』とか『アレが来る』とか来ないとか言ってた」
グシャ愚者
「あのクソ勇者!!!」
気付くと手に持っていたグラスをビー玉にしていた。
「ちょっと怖いよ?ミユキお姉ちゃん」
「詳しく教えて。ミルちゃん」
「は、はい」
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