第2話 普通科の元天才勇者

「ロイド君!起きて!もう授業終わったよ!」


「ん?もうそんな時間か」


「そんな時間かじゃないよ!今日も全部授業寝てたよ!そろそろ本当に先生に怒られるよ!」


「怒られねーよ。俺に期待してる奴なんて誰もいないんだから」


「またそんなこと言って!」


何のやる気もなく過ごす日々はあっという間に俺を2年生にしていた。セトとミユキとは自然と疎遠になった。互いにその方がいいと思ったんだろう。聞こえてくるのはセトとミユキの活躍だ。


セトはメキメキと力を上げ、勇者学園の記録をドンドン塗り替えていっているようだ。そこまでではないにせよ、ミユキも例年ならトップだったといわれるような活躍ぶりらしい。


二人は2年生にして生徒会長と副会長の座についており、みんなの憧れの的だ。またよく二人でいるため付き合っているんじゃないかと女子たちが楽しそうに噂している。


「あそこ見てよ!セトさんとミユキさんだよ!ロイド君!すごいよねぇ!二人とも君の幼馴染なんだよね!」


「まあそうだよ」


「でもなんでロイド君だけ普通科なの?」


「勇者になれる才能がないからな」


デリカシーのないことを楽しそうに言ってくるこの女はニ二カ。クラスメートだ。何かと俺に構ってくる女だ。


「でも聞いたよ?中等部の頃は天才って呼ばれてたんでしょ?」


「じゃあその後も聞かなかったか?魔力がなくて落ちこぼれた偽物の天才だったって」


「そうなの?でも勇者になりたかったんでしょ?」


「なりたくてもなれないもんはあるんだよ」


「そうかなあ。じゃあ今は何になりたいの?ちなみにボクは立派なお嫁さん!」


「なりたいものなんて特にないな。卒業したら適当に働くさ」


「おいおい!そんな無気力さじゃ、ボクのお婿さん候補にはなれないよ?」


「別になりたくねぇよ」


「もう、照れちゃって~」


「つーかついてくんなよ!」


「どこ行くのさ!」


「、、、ゲーセン」


「まっすぐ帰らないといけないんだよ~。不良だ~。ボクも行くー!」


「来るのかよ!」


俺たち不良は勇者たちに背を向けて下校していく。





二二カとじゃれ合いながらダラダラと帰って行くロイドの背中をミユキは睨みつけていた。


「どうしたの?ミユキ」


そんな彼女に気付きセトが声をかける。そしてすぐに彼女の視線の先に気付く。


「ああ、ロイドか。もうそっとしておいてあげなよ。それに僕たち生徒会はそれどころじゃないだろ?」


「わかってるわよ」


この学校の生徒会は勇者科の全学年含めた成績上位者によって編成される。つまり実力順だ。


そして今年勇者学園始まって以来初めて、3人の2年生が生徒会入りを果たした。しかもその三人が上位3位までを独占したのだ。




生徒会長

セト・ハーティア 勇者科2年 序列一位

副会長

ミユキ・エリエス 勇者科2年 序列二位

副会長

ゲイル・リチャード 勇者科2年 序列三位

書記

エルグス・マナ 勇者科3年 序列四位

会計

リリㇺ・エポクリ 勇者科3年 序列五位

庶務

リング・ホルス 普通科3年 序列なし




「では来月に迫っている『ヒノモト国との交換留学』について話し合いたいと思います。これは今年から始まる新たな試みで、我が校から1年の首席、ヒノモトからは2年首席、期間は一年間です」


「はぁ、だったらそれでいいだろ。何を話し合うってんだ」


机の上に両足をのっけて不機嫌そうにゲイルが言う。


「ゲイル、少し黙って」


「ちっ!」


ミユキにたしなめられてゲイルは舌打ちをする。


「この交換留学は生徒会でしっかりと仕切らなくてはいけません。特に今年の留学生は『巌流』ジロウ・ササキです」


「ジロウだと!」


つまらなそうにしていたゲイルが急に声を荒げる。


「そう、ゲイルは中等部の頃に戦ったことがあるんだよね」


「ああ、いけ好かない奴だ」


「だがその強さは本物だったはず」


資料を見ながらセトは話を続ける。


「戦績は互角だ。毎回どちらかが決勝でロイドと戦った」


「ではロイド君にも手伝ってもらってはどうかな?」


唯一の普通科である庶務のリングがニコニコしながら提案する。笑顔が顔に張り付いたような読めない男だ。庶務だけは普通科の首席が就くことになっている。普通科を蔑ろにしないためという意味でだが、体裁に過ぎない。現に蔑ろなのだから。


「ロイドに手伝わせたって意味なんかねーよ」


「なんでだい?」


「あいつはきっとジロウのことなど全く覚えてねーからだよ」


「え?」


「あいつにとったらビリも二位も誤差でしかなかっただろうからな。それほどにあいつは圧倒的だった」


そう言ってゲイルは少し寂しそうな顔をした。


「そうだったんだ。それは無知でごめん。なにせ普通科なものでね」


リングは笑顔を崩さずにゲイルに詫びた。そこに気持ちは籠っておらず、どちらかと言えば茶化しているようにも聞こえた。


「ちっ!」


ゲイルはリングが嫌いだった。下手に出ているように見せて心の底では全てをバカにしているその態度がだ。だが反論する気にもなれなかった。価値観が違う。口で何を言っても意味はない。ボコボコにぶん殴ったとしてもきっとこの気持ちの悪い笑顔のままで『やっぱり勇者科の人は強いね』とでも言うんだろう。


だからゲイルは最低限しかリングと関わることをしない。今日もここまでだ。これ以上関わっても殺したくなるだけだとわかっているから。


「それではみなさん。各々の役割分担を決めたいと思います」


セトの言葉で会議は進んでいく。つまらない会議だ。ゲイルのいう通り。一斉送信でメールを送ればそれで済むだけの話。


生徒会の会議は手段ではなく、目的だ。ああ、くだらない。


「ではこれで決定ということで。今日の会議はここまでにします。ありがとうございます」


セトは皆が立ってもまだ不機嫌そうに座っているゲイルの元へ行き肩に手を置く。


「よろしく頼むよ、ゲイル」


バシッ!


だがセトはその手を弾かれる。


「俺に触るんじゃねぇ。言っとくが俺はお前を認めちゃいねーってことを忘れんな!もしロイドが、、、ちっ!」


そう言ってゲイルは帰って行った。


「もし、か、、、。もしなんてないんだよ」


ゲイルの背中を見送りながらセトはそう呟いた。





生徒会が大事な会議をして、更に会長と副会長が揉めているその頃。


「うお!負けた!」


「ボクに勝つなんて100年早いのだよ!フハハハ!」


「もう一回だ!」


「望むところ!」


ロイドはニニカと割と楽しそうに格ゲーで遊んでいた。

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