第27話 犯人の狙い

 矢島冬夜



 体育祭まで残り約1週間。

 学校中が盛り上がりを見せる中、依然としてストーカーの犯人は捕まっていない。ただ俺と裕樹が行動を起こしたことによって、西宮への被害は着実に無くなっていた。


「ありがとう、冬夜。色々としてくれてたんでしょ?」


「え、いや。別に何もしてないけど」


「染野くんから聞いてるし、嘘言っても無駄だよ」


 笑顔の西宮にそう言われたが、結局のところ問題の根本的な解決には至っていない。何か新しい策を講じなければ、また西宮の日常は崩れ去ってしまうだろう。


「やじさーん、これからリレーの練習だって!」


 教室で西宮と話をしているところに、裕樹がクラスメイトの小林春香を連れて現れた。小林さんはレクリエーションの準備を手伝ってくれて、気さくで話しやすい人だと記憶している。

 ここ最近、西宮たちと一緒に居るところを見かけないが、修学旅行では一緒の班だったので西宮と仲は良かったはずだ。


「うん、わかった。小林さんも一緒にやるの?」


「そうだよー。私、美優の前に走るんだ。だから美優、よろしくね!」 


「うん! よろしく、春香」


「そんじゃあ、行きますか!」


 俺たちは裕樹の一言でグラウンドに向かうことにする。その道中、裕樹は西宮と小林さんに気付かれないよう、俺の横に並んである質問をしてきた。


「やじさん、あれなんか意味あんの? 一応変更したけど、まだ2人には話してないんでしょ?」


「ああ、うんまぁね」


「…何、企んでんの?」


 裕樹の反応は当然のものだ。俺は裕樹にやって欲しいことだけを伝えて、その理由に関しては何も話していない。これは別に裕樹を信用していないとかではなく、その理由は誰にも知られない方が良いと思ったからだ。それでも、犯人がわかったことくらいは裕樹に伝えてもいいだろうか。


「うんまぁ、とりあえず犯人はわかった」


「え?」


「でも、少しだけ気になることがあるから…今は言えない」


「そっか。うん…なら仕方ない」


 あっさりと引き下がった裕樹は笑顔だった。やっぱりこいつはいい奴だと、俺は改めて実感する。本当に良き友人を持ったものだ。


「…ありがとう」


 俺は心からの感謝と謝罪を込めて裕樹に頭を下げた。








 3日前のこと。



 白江の尾行を始めて今日で5日目になった。状況は全くと言って良いほど進展せず、既に硬直状態を迎えている。


 西宮に修学旅行で何があったのか、俺はその真相についてずっと知りたいと思っていた。西宮本人に聞けば早いのだが、彼女の反応から察するに、あまり気分の良い話ではないのだろう。


 そこで俺は、何かを知ってるであろう白江に直接話を聞くことにした。もちろん、リスクがあるのはわかっている。白江がストーカーの犯人だった場合、今以上に尻尾を出さなくなるかもしれない。でも西宮の友人としてあの日に何があったのかを聞くこと自体は、別に変な行動では無いはずだ。


 そんな風に思っていた時、俺の携帯が震えて着信音が鳴る。慌てて画面を確認すると、その相手はひむだった。


「もしもし、どうした?」


 俺は白江から目を離さないようにして電話に出る。しかし、この電話で知る事実は驚きの連続だった。


「ようまめ。早速だがサッカー部員から新情報だ。修学旅行の日、白江は西宮に告ったらしい」


「は? え、どういうことだ?」


「しかも…その告白を促したのは、小林春香だと言いふらしていたそうだ」


 展開が早過ぎて俺の頭が上手く処理できていないが、俺が知りたかった情報はひむが調べてくれていたらしい。ただ、それよりも気になるのは…。


「小林が白江に告白させたってことか?」


「ま、そういうことになってるな。でもまめ、もう一つ新情報があるぞ。でもそれは私からより…」


「日村さん、私から話すわ。代わってもらえないかしら?」


 電話越しに聞こえた声…間違いない、恵美の声だ。とは言え、今回の件について恵美は何も知らないはず。もし知っているとするならば、それを話したのは十中八九ひむだろう。

 やってしまった…そう言えば、ひむに口止めするのを忘れていた気がする。


「もしもし冬夜、聞こえる?」


「あ、ああ…聞こえてる」


「そう。それじゃあ言っておくけど、美優がストーカー被害を受けてたこと、知ってたわよ。まぁ、白江が告ったことは知らなかったけど」


「え? な、なんで…」


「よく聞きなさい。二学期が始まってすぐ白江が春香に言ってたのよ、美優がストーカーされてるから守ってくれって。大事おおごとにすると犯人を捕まえられないから、こっそり守ってやれとも言ってたわ。私もそれには納得したから、今まで黙ってたんだけど…」


「おい、それって…」


 それを聞いた俺は疑念を感じずにはいられなかった。白江と小林を中心に、大きな嘘が渦巻いている。その嘘をついた人物こそが、今回の事件の犯人なのだろう。

 ただ俺は、この時点でなんとなく犯人の目星がついていた。


「なぁ恵美…今、白江が春香に言ってたって言ったよな?」


「ええ」


「その話をしていた時、その場に恵美も居たのか?」


「居たわよ。でも、気になったから2人の後を付けて、たまたま聞いただけよ。2人は気付いてないと思うわ」


「そうか。それじゃあ…あと一つだけ。二学期が始まってから、小林は西宮の後を付けてたんじゃないか? もちろん、西宮を守るために」


「そうね。白江にそう言われ…た……から。ねぇ冬夜、もしかして」


 どうやら恵美も気付いたらしい。

 この事件の犯人は間違いなく白江健だ。しかし、その狙いがまだいまいちピンと来ていない。西宮が狙いなら、こんな回りくどいことをしなくても良い筈なのだ。


「多分…俺たちが追っていたストーカーの正体は小林だろうな。本人にそのつもりはないんだろうけど、白江に嵌められたってところか」


「最っ低……何が目的なの」


「まさかとは思うが……西宮よりも小林が狙われてるんじゃないか?」


 もし仮に俺の推測通りなら、その可能性は十分にある。それを確認するためにも、俺たちが一度白江の策略に嵌る必要があるかもしれない。

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