第6話 元カノ

 ストーカー男もとい羽瀬の件から2日後、答えを聞く時がやって来た。約束通りデートの計画を考え、部屋で支度をした。もちろん彼女にも出発する時間は伝えてある。そして、彼女には好きな服を着て欲しいとも伝えてある。もちろん来ている服によって違うデートプランを考えてある。心を躍らせながら彼女の支度が終わるのをリビングで待つ。


「はやっ!!ちょっと待ってあともう少し!!」

「気にすんな。走ると怪我するから慌てるなよ」


 バタバタと音を立てながら家の中を駆け回っているのを俺は椅子に腰かけながらスマホをいじるふりをして杏里紗を眺め待って居た。バタバタと準備している彼女はまるで小動物の様で可愛くていつまでも見ていられる。


「ごめん。お待たせ」

「ん。じゃあ、行こうか」


 ようやく準備を終えた彼女の姿を見るとスカートにブラウスを合わせたシンプルながらもデートと意識してくれているような恰好を選んでくれて彼女も楽しみにしてくれているのだと心が躍った。同時にやっと手に入ると嬉しくて仕方がなかった。


「そういえば、好きな服着てって言うからこんな格好なんだけど...大丈夫かな?ダメだったら着替えて来るんだけど...」

「何着てもいいって言っただろ?それに、せっかく可愛く着飾ってくれてるのに着替えるなんてもったいないだろ?」


 そんな事言われると思っていなかった杏里紗は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに少し俯いた。そんな姿も可愛くてしかたがないが今はまだその時ではない。平然を装い今日のプランを再度確認し、2人で家を出て目的地へと向かった。


「で、言われるがままついて行ってるけど...どこ行くの?」

「ん?駐車場」

「駐車場って...車買ったの?」

「レンタカーだよ」

「え?でも、レンタカーっていつ借りたの?」

「あー、昨日のうちにな...。まぁ別にいいだろ乗れよ」


 昨日の夜に借りて置いたフォレスターを近くのパーキングに停めて置いた。”いつの間に”と彼女はとても驚いていた。そんな彼女を乗せ予定通り目的地の水族館に向けハンドルを握った。もちろん都内にも電車で行ける所はあるが、駅から離れたところにも行きたかった為にあえて用意した。


「でも、高かったでしょ?」

「あ?別に化粧品とか美容院代よりは安い気にすんな」

「えー、半分は持つよ?交通費浮いたし...」

「いや、本当に気にしなくていい。それよりも大事な事があるからな」


 杏里紗の優しさに好きがつのり緩みそうになる顔を引き締め運転に集中する。それから1時間程車を走らせ目的の水族館に着き、スマートに駐車し事前に買ってあるチケットを使い入る。


「ありがとう。それにしてもすごいね!全部用意してあって」

「そりゃぁ、デートだからな。カッコつけさせろよ」

「カッコつけって...。...いつもカッコイイじゃない。頼りにもなるし」


 声を聞いているから頼りにされているのは分かっていたが、実際に照れた表情と共に直接聞くのは威力が違う。思わず顔が赤くなりそれを諭せない様に斜め上を向き彼女に悟られない様に熱を冷まそうとした


”珍しい...赤くなってるかわいい”


 せっかく見られない様にそっぽを向いたのに見られた。しかも、可愛いとまで思われてなさけない。でも、これで好感度が上がるなら別によくないか?


 聡はそんな事を考えながらスマホに入っているアプリを開き、自身に向く矢印を確認した。

      愛情

   俺 ←――― 杏里紗


愛情って恋情を超えてないか?というより恋人になるには一番遠い感情が芽生えている気がするが、この前聞こえた声を信じて今日を行動することに決めた。


「あれ?さとくん??」


 そんな呼び方をする奴は一人しか知らない為、無視しようと歩き出そうとしたが回り込んで顔を見て


「あー!!やっぱり、さとくんだ!!もー無視しないでよぉー」


 面倒なやつに声を掛けられ思わずため息がこぼれる。杏里紗も誰なのか分からず不安そうな顔をしている。


「はぁー。今デート中なんだけど?」

「あー。ごめんね?さとくんだと思ったらつい...」


”...私...邪魔かな...。別の所に行った方がいいかな...”


不安そうな声が聞こえ腹立たしさが芽生え目の前の女を睨んだ。そんな苛立ちが杏里紗には伝わった様で服の裾を少し引っ張って耳元で”向こうに行ってるね”と言って離れようとしたところを聡は腕を掴み引き止めた。


「悪いけど、俺。デートしてるからもう行くわ」

「え!!なんで?!私の事好きでしょ?!」

「いや別に。それよりちけぇし離れろ」


 このしつこい女は、安藤咲あんどうさき。杏里紗をスマートにエスコートするための踏み台にした女だ。こんなに面倒なやつなら付き合うことはなかったのだが、俺にしてみれば他の女なんてどうでもいいから断る事をしなかっただけ。どうにかしてこの状況を打破しない限り今日の予定は全部パーになってしまう。何か打開策はないかとアプリを開いてみると

       恋心

高橋杏里紗 ←――― 佐藤学人さとうまなと


杏里紗に新たな矢印が向いていてどこでこんな奴と関わりを持ったんだと苛立ち詳細を見ることが出来ないかと←の所を押すと矢印が動いた。


もしかしたら、これを使って厄介なやつを二人同時に追い払う事が出来るか?


そう考え試しに佐藤から杏里紗に向いている矢印を面倒な元カノ安藤へと移してみる。すると、矢印はそのまま安藤へと向き変わったが、


「ねぇ、いいでしょ?私も一緒に行っても」

「良くねぇし。ささっとどっか行け。俺は忙しい」


 現状はなにも変わらずうざいやつに付きまとわれていてせっかくのプランが台無しになってしまっていた。杏里紗には居心地の悪さを感じさせてしまっているのを申し訳なく思うが決して手を離す事なく水族館の中を進む。うるさい女の所為で周りからは少し冷ややかな眼差しで見られているが他人の不利を決め込み諦めるのを待って居ると一人の男が駆け寄って来た


「あの!!...安藤さんですよね?」

「...あんた、だれ?」

「ぼ!ぼぼ、僕。佐藤学人っていいます!連絡先教えてください!!」

「...。え...。」


 さっき移した矢印の効力が発揮されたのか面倒な二人がやり取りを始め注意が逸れた隙に別の場所に移動した。後ろから呼び止める声が聞こえるのを無視して


「悪かったな。俺のせいで...居心地悪かったろ...」

「あー、うん...まぁね。でも、あの人すごいしつこかったし聡のせいじゃないよ」


 やっと二人で水族館をまわることが出来て彼女の見たいところや欲しいものなどゆっくり見ることが出来た。トイレに行った隙にアプリを確認すると例の二人はうまくいった様でホッと胸を撫で下ろした事と新たな力が手に入ったと心の中でほくそ笑んだ。



 




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