第5話 手紙の真相

足掻くと決めたものの実際に何をするかは考えてはいなかったので、とりあえずスマホのアプリを開き現状の確認をしようとすると杏里紗の元に新たな矢印が伸びていた。

        警告・心配

高橋 杏里紗 ←ーーーーーー 羽瀬はせ 稜平りょうへい


ーーー誰だコイツ。


 杏里沙からは矢印が出ていないということ羽瀬という男が一方的に知っているということになる。だから、彼女に聞いても俺と同じ反応しか返ってこないはず。それならこの羽瀬という男に矢印が伸びている奴からたどって行けばいい。と知り合いに片っ端から理由を付けて羽瀬の情報を聞いた。探すのに少し手間取ったがどんな奴か情報を取集することは出来た。

 その間、杏里紗は何もされることはなかったが、羽瀬から俺に新たな矢印が向いた。”危険人物”そう書いてあり心外だと思っていた時、不意に杏里紗の声が聞こえた。


”なにこの写真...そんな奴から離れてってなに?聡の顔にバツ印があるって事は相談したら危険だよね...。それよりバイト行かなきゃ!!時間ヤバい!!”


 どんな写真かは分からないが俺が写ったものが少なからず一枚あって顔にバツ印が刻まれているらしい。なにせ声しか聞こえないから写真が何枚入っていたのかや手紙の詳しい内容などは把握できない歯がゆさにイライラする。

 杏里紗が帰って来ないと送られて来た現物の確認は出来ないが、さっき聞いて様子を聞く限り俺に相談はしないだろう。アプリのおかげで送って来た犯人のめぼしはついているが、あえて俺は手を出さない。彼女が怖い思いをするのを事前に防ぎすぎたせいで彼氏を作ると言い出したのだろう。だから、いかに俺が防いでいたのかを思い知らせるいい機会だと思った。丁度、2週間という考える期間にタイミングよく仕掛けて来た贈り物を利用しない手はない。


ーーー勝手に吊り橋効果のタイミングを作ってくれたのは感謝しないとな


 心でほくそ笑みながらバイトに向かう。杏里紗とは職場が違うから家に帰るまで表情を覗う事は出来ないが、聞こえた声の感じでは脅えているに違いない。早く帰って仕事終わりの彼女を出迎えてやりたいのに、こんな日に限ってなかなか退勤できなかった。


”どうしよう...聡がいないだけで心細い...”


 想定外の事態に少し駆け足で帰宅していたら、彼女の不安な声が聞こえ足を思わず足を止めた。初めて自身を必要とする声に嬉しすぎて足が止まった。とは言え早く帰らないといけない事には変わりがないから走って帰る。家を開けたら杏里紗がいるのに息を切らしていたら恰好悪いと思い扉の前で呼吸を整えてから鍵を開け玄関を開くと家の中は真っ暗で電気をつけるとすぐ近くに彼女が座っていて少し驚いた


「ただいま...どうした?そんなところに座って」

「ん...おかえり...」

「飯食った?」

「まだ...」

「じゃあ、簡単なもん作るからちょっと待ってろ」


 家の電気がついていない所を見ると帰って来てから何もしていないだろうと思ったから聞くと案の定飯も食ってないと言うからキッチンへ向かうと”さすが幼馴染”や”恐怖で腰が抜けた”などいつもより恐怖と安堵が混ざり合ったような声が聞こえ好感度を上げる絶好のチャンスと思うと同時に手紙を渡して来た男に苛立った。

 とりあえず家では俺がいるという安心感を持って欲しくて優しく”お待たせできた。一緒に食べよう”と手を引いてリビングまで連れて行こうと手を取ると冬でもないのに手が冷えていた。玄関近くの廊下に座って恐怖に脅え体を冷やした所為だと思うが、俺以外の事で頭を悩ませているのはどうも気に食わない。事態は把握しているから気づかれない様に解決することも出来るが、本人からはっきり聞きたいし頼られたいから話題を振った


「で、何があった?」

「...何かあった...というか...その...」

「例の異能力関係か?」

「そうじゃないと思う...」

「じゃあ、どうした?気になるやつでもできたか?」

「ううん、出来てない...あのね!......その...変わったこと最近なかった?」

「変わったことぉ?...別にない気がするが...」

「...そっか...なら、大丈夫」


 俺が思っていた方向とはだいぶ違う方に話が進み思わず言いよどんでしまった。杏里紗も俺といる所を写真に撮られているから俺に危害が加えられるのではないかと心配してあえて言わない選択をしてくれた...心配してくれるのは嬉しいが、そうじゃない。頼って欲しいんだ...。

 そんな事を知らない彼女は”八方ふさがり”などと考えている。俺は全て知っているのに...。これはもう無理やりにでも約束させるしかない


「...はぁ。言いたくないなら無理には聞かない。でも、本当にヤバくなったり相談する気になったりしたら俺に言え、いいな」

「でも...「「いいな!」」...はい」


 俺を心配してくれてるのは彼女の優しさは知っているがそんな事より自分が我慢すればいいと考え、俺を頼らないのは良くない。強引にでも約束をさせないと絶対に隠そうとするのは目に見えているからこそ無理やり頷かせたが、納得した顔はしていなかったからおそらくはなにも言わずにどうにかしようとするだろう。


ーーーそれなら、俺は能力を最大限生かして杏里紗が俺を頼るまで手出ししないだけだ


 そうは思っても手紙を送りつけて来た奴が行動を起こしてくれないと始まらない。だから、俺は杏里紗といる時間を増やした。怪しまれない様に理由を付けて。バイト先は前に聞いて覚えているし、帰る時間などは彼女の声を聞けばわかるからそう苦労はせずに男への当てつけが出来た。

 そうして何日か過ぎたあたりで、男の心情と行動に変化が出た。俺への敵対心と彼女に直接交渉するという変化だ。そして、事ある毎に彼女が一人になりそうな時に歩み寄ってくるような素振りを見せることが多くなったのを確認し


ーーーそろそろ頃合いか


「悪い、今日一緒に帰れそうにない」

「うん...大丈夫。頑張って!」

「おう。お前も早く帰れよ」

「いつもまっすぐ帰ってますー」


 見るからに”不安です”と顔に書いてあるが、耐えれば終わるなんて甘い考えをしているから痛い目をみるんだ。最初から頼ればそんな思いしないで済んだのに選択を間違えた彼女がいけない。


ーーーここ数日ずっと離れずに居たから、俺が離れた瞬間好奇と思い接触をはかろうとするに違いない。そうすれば彼女は恐怖し俺に助けを求め、そこで助けに行けば俺は晴れてヒーローになれる。完璧な計画


 今日の予定では、彼女はバイトが入っていた筈、それが終わるまで俺は大学の図書館で自習と課題を進め頃合いを見て大学を出た。バイト終わりの彼女を狙うなら自宅近くにある大きな公園で接触してくる可能性が高い。なぜなら、昼間は子供や主婦達が集まって話しているが暗くなると途端に人気が無くなる送り主からしたら絶好のポイント。だから、俺は自宅に向かう公園内の最短経路から少し外れて、人影が確認できる場所に隠れ彼女が通るのを待った。しばらくすると、小走りで公園を抜けようとする影とその後ろからその倍くらいの速度で迫る影を見つけ今いる所から大回りし2人が入ってきた公園の入り口に向かった。彼女の悲鳴が聞こえるが、今はまだ手出ししては行けないあくまで送り主に恐怖し助けを求める様にならなければ意味がない


 2人が入って来た入口にたどり着いた辺りで男女の言い合いをする声が聞こえて来た。詳しい内容までは聞こえないが、あれだけ大きな声を出せているなら命に別状はないだろうとゆっくり歩いて近くの木影に向かう。


”もー!!!なんなの?!?!聡から離れろってなに?!なんで、こんな奴に言われなきゃいけないの?...運よく聡が帰って来たりしてくれないかな...腕掴んできて気持ち悪し、聡助けて...”


 言い合いをしている二人付近の影が濃くなっている木の陰に身を潜めていると杏里紗から俺に助けを求める声が聞こえ、”おい。そこで何してる”と声を掛けた。俺を見た瞬間表情が緩みこちらに来ようとするがなかなか来ないし男もなにも言わない


「おい、聞いてるだろ?なにしてた」

「あのね!「「杏里紗...怖かったろ。こっちおいで」」」


 硬直している二人にしびれを切らした俺は杏里紗にこちらに来るように優しく声を掛けるが彼女は俺に駆け寄ろうとするのにそれを男が阻止しているのが見て取れた。だから俺が歩みを進めて彼女の元に向かおうとすると


「高橋さんに近づくな!!」

「幼馴染に近づいて何が悪い?むしろ、お前の方が離れろストーカー」

「俺はストーカーじゃない!ストーカーはお前の方だ!」


 俺をストーカーだというこの男は彼女と俺の間に入り妨害してくる。なかなか助けを求めなかった彼女と状況が分かっていない男の両方に苛立ちどうしてやろうかと一歩一歩足を進めると男も杏里紗の手を掴み後ずさりする。必死に状況を変えようと抵抗しているのが見て取れるが女が男の力に勝てるわけもなく引きずられ


「杏里紗の手を放せ」

「おまえみたいな危険な奴に高橋さんは渡せない!」


 このまま押し問答を続けるのもいいが、彼女の手首に痣が出来てしまいそうだ。だから、彼女を明るい所に残し男を連れ離れたところで話し合いをする事にした。


「で、俺を危険だという理由はなんだ?それになぜ必要に手紙を渡した」

「これを見ろ!!」


 男が出して来たのは、一冊のアルバム。それは俺が失くした杏里紗専用のアルバムだった。


「なんでお前がそれを持ってる?」

「拾ったんだ。これを見てお前が危険な事に気が付いた」

「拾ったにしてもどうして俺のだと思った」

「これはお前が落としていったものだ!悪いとは思ったが、中を見てお前の異常性に気が付いて高橋さんに教えなければならないと」

「ふ...ふはははっ。あー、お前やっぱ馬鹿だわ。なんであんな手紙でちまちま渡してんだよ。直接、持っていけばいいじゃねぇか」

「そんなことをしたら僕が撮ったと思われるじゃないか!」


 確かに一冊失くしていたが、探したりしたら怪しまれるし俺の部屋にも他にもまだ何冊もあるから痛くもかゆくもないのは事実。そして、拾った奴がバカで良かった。頭の回る奴なら影からあのアルバムを俺に返すところを彼女に見させ証明するだろう


「本当にお前がバカで良かった」

「はぁ?!どういうことだよ!!!」

「写真を渡したのまでは良かったが、その中に俺と杏里紗二人が写る写真を入れたのは間違いだったな。あれで余計にお前が撮ったと錯覚が起きた」

「...。」

「そのおかげで俺は信用されてお前はストーカーになった訳だ。感謝してるぞ...これでやっと手に入るんだからな」


 自分がして来たことがすべて裏目に出た事実を知り男は絶句した。代わりに俺は、事を上手く運べた事が嬉しくて自然と顔が笑ってしまう。


「あ、アルバムは別に返さなくていい。記念に持っとけよ、ストーカーさん」


 返す言葉もなくなった男はアルバムを持って呆然と立ち尽くしうなだれた。その肩をポンと叩きじゃあなと言って足取り軽く彼女が待つ場所に向かう。後ろで敗北した男が悔しそうに声を上げるがそんな事は知った事ではない。


「悪い。待たせたな、なにもなかった?」

「うん、大丈夫だったけど...さっきの人はなんだったの?」

「あー、話付けてきたから大丈夫。それでも、もしまだ手紙とか入ってたら俺に言ってもう一回話し合いしてくるから」

「うん...。ありがとう...ホントいつも聡はタイミングいいよね」

「...好きな奴が危険な時は助けたいだろ」


 一応なにも聞こえなかったから何もないとは思うが確認するとやっぱりなにも無かったと言うから安心した。それに、彼女は男の事は言うことは何一つ信じておらず逆に俺の事は以前よりも信頼した。そのことが嬉しくて顔が熱くなる。本当にアイツには感謝しないとな


「ねぇ、聡」

「あ?」

「まだ2週間経ってないけどあの時の返事していい?」

「...いや...ちょっと待って...。一回デートしてからにして」

「え?でも...」

「終わった後でもう一言うから答えを聞かせて」


 答えは知ってる。だが、今返事をもらうのは俺のプライドが許さなかった。彼女が嬉しいや楽しいなどの感情で言ってくれているなら喜んで受け入れるが、今は恐怖から解放された安堵や安心感など一時的に思っていることも多い。なにより、あの男のアシストを受けたようなタイミングではなくちゃんとしたデートで楽しませてから改めて答えを聞きたい


「おまえ今”かわいい”とか思ったろ」

「なんでわかったの?!言ってないのに!」

「前にも言ったろ?顔に全部出てんだよ」


 声も聞こえたが、顔にもそう書いてあるのだから仕方がない。本人はポーカーフェイスと思っているが、全然隠せていない。それに可愛いのはお前だろとそっぽを向き彼女の頭を撫で家路についた


「で、なんで言わなかった?何かあったら言えって言ったよな?」

「...だって、...例の異能力者だったら危ないもん」

「だとしてもだ!異能力だって言っても力が強くなるもんじゃねぇ!」

「わかんないでしょ?!もしかしたら、出来る人もいるかもしれないじゃない!!」

「わかってないのはお前だ、ばか!」

「バカってなによ!!聡の事が心配だから言えなかったんじゃない!!」


 今回言わなかった事を再び聞くと異能力の事なんて全然わかっていないのに俺を心配している。もし仮に力が強くなるような奴がいるならそれはDVをするようなやつだ。この異能力は拗らせた男が強く願った事が反映される。だから、俺は声が聞こえるし人間関係がわかる様になった。でも、それを知らない彼女からしたらそう考えるのが普通なのかも知れない。

 不安と安堵が一気に押し寄せて来たのか泣き出した。慰めながらも早く頼ればこんな事にはならなかったといい、抱きしめながら背中を一定のリズムでトントンと叩いた。


「ごめんね...迷惑かけて...ッヒ...」

「迷惑なわけないだろ。それより俺は悲しいんだよ...頼りにされなかった事が」

「...だってッ......ッ...ニュースになってたッ...人はみんな刺されたり...傷つけられたりしてたんだもんッ!」

「だから、言わなかったのか...」

「うん...」

「...そっか、ありがとな。でも、俺は俺が怪我するより杏里紗が傷つくことの方が嫌だよ」


 泣いている奴に強く言えるわけもなく優しく諭すように話しかけると安心して力が抜けたのか杏里紗の力が抜け咄嗟に体を掴みゆっくりと怪我をしない様に床に二人で座った。あまりに号泣する彼女を見て落ち着かせるためにも飲み物を取りに行こうとしたが


「いかないで」

「そんなに泣くと脱水症状起こすぞ」

「いいから!もう少しこうしてて」

「はいはい」


 服をギュッと掴まれてはどうしようも出来ない。もうなるようになれと好きにしろと言ってもうどうにでもなれと背中をトントンと叩いていると寝息が聞こえ彼女は寝てしまった。このままここに居ても体を冷やすしいい事はない。だから、彼女を持ち上げ俺の部屋に連れて行った。さすがに寝ている間に部屋に入るのは申し訳ない。それに床で寝かせるなんてもってのほかと俺のベットに寝かせる。本当は寝かせて出て行こうと思ったが、未だに服を掴まれていて離れる事が出来ないのでそのまま俺も寝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る