第3話 知らない狂気

 幼い頃からずっと杏里紗の頃が好きだった。話すきっかけが欲しくて意地悪をしたりいたずらを仕掛けたりした。だが、それは逆効果でどんどん杏里紗との距離は開いていった。


 そんなある日、とある声が聞こえる様になった。


”なんで私だけこんなに意地悪されなきゃいけないの?加藤君になにかしたかな...?。正直近くに居たくないな...”


 杏里紗の声で聞こえる声。だが、本人の口は動いておらず声だけが直接脳内に聞こえる不思議な体験をした。その時は気のせいだろうと思い次の日またいつもの様に杏里紗へと近づいた


”今度はなにされるんだろう....。叩かれるとか?それとももう何かされた後とか?いやだな...怖いな...”


 また聞こえた声。杏里紗本人を見ても少し脅えた顔をしていて体を少し丸めこちらを見ている。その様子にどうしたものかと頭をかこうと手を上にあげればビクつき更にこわばらせ衝撃を待つかのような体制をしていた杏里紗。距離を縮ませるために仕掛けていたことが完全に裏目にでて近づくだけでも警戒される様になってしまい頭を抱えたくなった。

 そして、導き出した答えは、何やら聞こえて来る声を頼りに今までとは逆に杏里紗を助ける事に力を入れた。例えば、問題の答えに詰まって悩んでいたら偶然通りかかったふりをして


「そこ...この公式使えば解けるぞ」

「え...あ...うん」


 戸惑いながらも教えた公式を頼りに問題を解いて答えが出せた時、満面の笑みで”ありがとう”と言ってくれた。今までどれだけ気をひこうと努力したのに全部裏目に出ていたのが、たかが公式を一つ教えただけ今までにない反応が返って来た。

 幸か不幸かは分からないが、原因不明声のおかげで杏里紗にお礼を言ってもらえた。これを使わない手はない。

 そうと決めた俺は声を頼りに杏里紗が困っている時は事あるごとにさりげなく助けに入った。どんな小さな事でも。そのおかげで杏里紗も彼女の両親も認める程中の良い友達、頼りがいのある友人として地位を確立した頃にはなぜか聞こえる声は杏里紗が近くに居なくても聞こえる様になっていた。

 中学に上がり3年が経った頃、高校受験の話が出始めた。杏里紗が何処の学校に行こうと合わせられるように猛勉強し杏里紗が志望する高校に入れるように備え、担任と杏里紗が話しているのを聞いて担任に同じ高校の資料を貰い自身が安全圏に居ることを確認し、推薦で行けるかどうか確認を取った


「加藤、こんな所じゃなくてもっと上に行けるだろ」

「俺は、そこがいいです」


 なんてったって杏里紗も推薦で行く学校なのだから他の学校など眼中に入るわけもなく担任はいろいろな高校を進めてくるが全部断った。担任が杏里紗に”もう何とか言ってやってよ”なんて事を言ったが当の本人は頭に”?”を浮かべキョトンとした顔をしていた。



ーーーあぁ、可愛い...



 推薦で無事二人とも合格し高校のクラス発表で同じクラスになるという運命的な偶然により2年連続とてもいい距離感を持てた。その間、他の女子たちに声を掛けられることもあったが、当然興味がわくわけもなく相手にしていなかったが...


「おまえモテるのに何で彼女作んねぇだよ?」

「俺は一途なんだ」

「じゃあ早く告って来い」

「まだその時じゃない。もっとこう...俺なしじゃ生きられないくらいになってもらわないと」

「...怖ーよっ!つか、そんなんだとその子にフラれるぞ」

「どうしてだよ」

「初めての彼女とか不自由な思いさせて”あんたなんかきらい!!(裏声)”って言われるのがオチだろ」

「...」


 俺は杏里紗以外興味はないが、こいつのいう事も一理ある...。もし付き合う事になってもうまくリードできなくて嫌われてしまうこともある...

 

 それからは、どんな奴からの告白を断る事を辞める決め、彼女(練習)は未来の杏里紗との為に付き合っているだけだと割り切った。...はずなのに苦労して近づけた杏里紗との距離がなぜかどんどん遠くなって行った。


 どうしてこうなった...。将来フラれない為にしているのにそんな練習相手の所為で本命と疎遠になるなんてありえない...


ーーー俺と杏里紗の邪魔をする奴なんて排除すればいい


「悪いけど。もうおまえ用済み。金輪際俺に近づくな」

「はぁ?!用済みってどういう事よ!!!」

「悪いけどおまえは本気じゃないって事」

「はぁ?!あんた何様のつもり!!馬鹿にしてんの?!!」


 女は甲高い声で相手を責めるが、彼女であったはずの女が激怒しているにもかかわらず聡は淡々と別れ話をする。もはや、別れ話というより女が一人熱くなり激情しているような状況に冷たく言い放つ


「別に分からなくて構わない。じゃあな」


 未だ甲高い声でギャーギャーと言っている元カノと呼べるかも分からない女に背を向け聡は去って行きその足で杏里紗の元へ向かい


「その...この後ゲーセンでもいかないか?」

「あ~。...ほら、彼女さんに悪いし...ね?」


 まだ彼女がいると勘違いしている可愛いやつにどうやって誤解を解こうか迷っていると...


”幼馴染だからってあまり仲良くしてるとよくないし...それに、聡モテるから近くにいるとすごい陰口言われるから嫌だな~”


 高校に上がり中学とは違う距離感になっていたのは感じていた。でも、それは成長するにつれて必然なのだと思っていたから対処してこなかった。現に今の今までこんなに明確な理由は聞こえては来なかったから

 俺はまた重大な事を見逃していたらしい。敵は杏里紗を狙う男だけだと思っていたが顔も覚えたくないような女も同様に敵になっていた。


ーーー可愛い杏里紗に陰口を言うような奴は誰だ?こんな事なら練習彼女なんて作るんじゃなかった


「...彼女はさっき別れて来た。だから、心配することはない」

「...え?...でも、私と一緒に居る所見られたら困るでしょ?」


”うそ...。聡は優しいから私に心配させない様にしてくれてるだけだよね...あの彼女さんが別れるとも思えないし...”


 俺が別れたと言っても本気で信じていない杏里紗に証拠を見せようにも直接会って別れを言って来たから目に見えるものは何もない


「本当だ。ついさっき別れて来た。直接言って来たから信じてくれとしか言えないけど...」

「...う~ん。......わかった...でも、今度から彼女出来たら教えて?邪魔したくないから」

「あ~ぁ...あぁ(もう杏里紗以外を彼女にする気は無いけどな)」


”聡の事は好きだけど聡を好きな女の人怖いからなぁ~。あまり目立ちたくない...”


 杏里紗が急に離れて行った理由がはっきりして嫌われたわけではなかったのは良かった。俺を気に掛ける声はずっと聞こえていたから嫌われていない自信はあったのに全然近寄って来ないからなにか不満があるのかと思っていたがそうではなかったと安堵したと同時に俺の周りによって来る女の所為で疎遠になった事に憤りを感じた。


ーーー男なら牽制することも簡単だが、俺に好意を寄せる女なんてどうしたらいいんだ...。脅して変な噂を杏里紗に言われても困るし...どうしたものか...


「て、事でどうしたらいい」

「なにが”って事で”、だ。お前の考えがさっぱりわからん...」


 俺の友達に相談しようと投げかけたが脳内で考えただけで内容を口にはしていなかった為友人は言っている事が分からなかったらしい。だから、経緯を説明して意見を貰うことにした


「あ~。なるほど...このモテ男嫌味か!!!」

「俺は一人だけに好かれればいいんだよ。他はいらないだけだ」

「はー⤴⤴!!さすが!!モテる人はいう事が違いますね、ホントに!!」

「で、思いつくのかつかないのか。どっちだ?」

「あー、あれだ...お前あまり笑わないから笑顔で振り返ってやれ」


 言われた事を即実践するために今教室にいる女子に笑顔で振り返るとキャーっという奇声に似た甲高い声が響いて


「ほら、喜んだ」

「おいっ!!俺は興味をなくさせろって言ってんだよ!!誰が喜ばせろっ言ったよ?!」

「さぁ~な。俺は知らねぇよ。逆になんでそんなに好かれてんのか知りたいぐらいだ。こんな不愛想で一人の人にヤンデレてるやつのどこがいいのか聞きてぇよ」


 なんの助言もせずに去って行く友達に薄情な奴と心の中で吐き捨て未だ奇声を上げるうるさい女子どもを一睨みして黙らせ教室を出た


”なんか聡機嫌悪いみたいだなぁ~。クラスで何かあったのかな?イライラして睨むなんて珍しい...”


 ついさっきの出来事なのにもう既に杏里紗に伝わっているなんて女子の情報網は本当に凄いと思うし、逆に変な事をしたら一瞬で伝わってしまうことも立証されて頭を抱えたくなった。


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