第2話 事は突然に...

 昨日言われたことを思い出し、自分の生活にどれだけ聡が関わっていたのかを思い知らされ離れる事を選択したくないが、気持ちの持ち方がわからなくてすぐに付き合うことも考えられなかった。


 最大限悩みながら二週間過ごすはずだったが、そうはいかなくなってしまう事件が起きた。ことの発端は、校内ロッカーに入っていた一通の封筒。宛名は書いておらず中身も分からなかったので封を開け取り出すと4枚ほどの写真と”そんな奴から離れて”という内容の手紙が入っていた。


「なに...これ...」


 写真の多くは杏里沙が友達と一緒にいる所が多かったがどれも視線が合っておらず盗撮されたものそして、一枚は聡とスーパーで買い物している二人の写真に大きバツ印が聡の顔に赤ペンで描かれていた。最近能力者のニュースを見たばかりで最悪の展開が頭をよぎるが、バイトに行く時間が迫っていて急いで手紙と写真をリュックにしまいバイト先に向かった。本当は近くに誰かいれば少しの時間でも相談も出来たかもしれないのにバイトの時間が迫っているがために誰にも相談できずモヤモヤしたまま移動した。


 バイト中誰が送って来たのかとかいつ撮られたのかとか色々考えたけえれど思いあたる人物などいる筈もなく、バイト先にくる男性がそうなんじゃないかと勘ぐりいつも以上に疲れて家に帰った。


「ただいまー」


 暗い部屋から返事が返って来ない。いつもは特別気になる事はないのだが今日は、家に聡がいないだけで途端に恐怖感が押し寄せて来て廊下から動けずにいると玄関の方から鍵が開く音がして扉が空いた


「ただいま...どうした?そんなところに座って」

「ん...おかえり...」

「飯食った?」

「まだ...」

「じゃあ、簡単なもん作るからちょっと待ってろ」


  鍵が空いた一瞬、聡ではなかったらどうしようと考えた。扉が開いたらどこかに逃げなきゃとも考えたのに恐怖で足がすくんで腰が抜け床に座り込んでしまった。でも、扉を開け入って来たのは聡で安心して声にもならなかった。

 そんなことを知らない聡は不審そうにこちらを見たが何も気がずに料理をしに行ってくれた。まだ何も言ってないのに察してくるなんてさすが幼馴染。こういう時本当に心強い。


「お待たせできた。一緒に食べよう」


 作りに行くと言ってから30分もしないうちにオムライスを作ってテーブルに並べていまだ廊下の床に座る杏里沙を呼びに来て手を差し伸べテーブルまでエスコートした


「で、何があった?」

「...何かあった...というか...その...」

「例の異能力関係か?」

「そうじゃないと思う...」

「じゃあ、どうした?気になるやつでもできたか?」

「ううん、出来てない...あのね!......その...変わったこと最近なかった?」

「変わったことぉ?...別にない気がするが...」

「...そっか...なら、大丈夫」


 そう言いよどむと聡もそれ以上なにか言ってくることはなかった。ただ、聡と一緒にいる所を撮られている以上巻き込むわけには行かないと考えたが、警察に相談しに行っても実害があるまで意味がないことも事実でどうしようもなく八方ふさがりな現実にどうしたらいいか決めかねていた


「...はぁ。言いたくないなら無理には聞かない。でも、本当にヤバくなったり相談する気になったりしたら俺に言え、いいな」

「でも...「「いいな!」」...はい」


 無理には聞いてはこなかったが、どうしてもという時は頼るようにと約束をさせられたが頼る気は正直なかった。相手が聡に敵意を持っているからには遠ざけなければいけない......のに


 ”杏里沙スーパー行くだろ?一緒に行こう”や”お疲れ様。俺も終わったから一緒に帰ろう”など避けようにも全部先回りされ、避ける所か前よりも一緒にいるようになった。ただ、校内にいるときは友達と一緒に居るからそれを邪魔するようなことはなく、放課後やバイト終わりなど一人になるときは必ずと言っていいほど聡は共に行動するようになった。


「そういえばさ、バイト先よくわかったね」

「前に駅前だって教えてくれただろ。忘れたのか?」

「そうだっけ?」


 そう言われても言った記憶がなくて、ただ自分が覚えてないだけかと聡の記憶力はすごいなと感心した。しかし、変な手紙が届いてからずっとバイト終わりに聡がいて、バイトがない日は大学から二人で帰った。シフトをあわせたわけでもないのに二人のシフトことごとく被った偶然はすごく心強かった。


「そういえば、バイト大丈夫なの?」

「時間減らしたけど問題ない」

「それって私のせい?」

「いや、元々就活とレポートで忙しいから減らしてるだけ」

「じゃあ、先に帰ってなよ。私待ってる時間がもったいないじゃん」

「待ってたいからいいんだよ。気晴らしだよ、気晴らし」


 ロッカーには相変わらず写真と手紙が入っていた。最初よりも聡と一緒に写っているものが多くなり、手紙の内容も”はやくそんな奴から離れろ”や”早く気づいて”など言葉がどんどん変わって来ていたある日


「悪い、今日一緒に帰れそうにない」

「うん...大丈夫。頑張って!」

「おう。お前も早く帰れよ」

「いつもまっすぐ帰ってますー」


 ここ一週間程聡と帰っていたから心強かったが一人になってまた不安が襲ってくる帰り道。後ろから足音が聞こえる。人通りの多い道をなるべく選んで帰るけど、どうしても家に帰るには人通りの少ない公園を通らなきゃいけなくて走って通り過ぎようとするが後ろから合わせたように走ってくる音がする。


「...ッ」


 夜23時あたりは暗く所々家の電気がついている所はあるがほとんど消えていてほとんど街灯だけがあたりを照らしている暗い道。足音以外に聞こえるものは無く余計に不安を煽られる

 ヤバい、足音が近くなって来たと感じながら急いで帰宅しようと急ぐがあともう少しで自宅マンションが見えてくると言う所で腕を掴まれてしまった


「きゃー!!!」

「ちょっっっと、待ってください。僕の話を聞いてください」


 掴まれた手を振り払おうと腕を振り必死に抵抗しながら相手の顔を見ると同じ大学何度か見た事のある男だった。だが、名前も知らず校内ですれ違った記憶しかない彼に呼び止められ腕を掴まれる筋合いはなかった


「離して!!」

「逃げないと約束してくれるなら離します」

「逃げるに決まってるでしょ!!離して!!」

「お願いです!危害は絶対に加えません」



 静かな公園に二人の声だけが響いた。恐怖から心拍数があがり、声も自然と声が大きくなるが、なにをされるか分からない恐怖に離して貰えるならと頷いた。男は、興奮状態の杏里紗の腕を渋々離し、矢継ぎ早に話を始めた


「手紙にも書きましたが、あの男は危険です。早く逃げてください」

「あの男って誰?!もしかして聡のこと?それだったらあなたの方がよっぽど危険じゃない!!こんなことして」

「別に僕と付き合って欲しいとかそんな事は言いません。早くアイツから逃げてください」

「逃げるってなにから?!」

「だから!!高橋さんのいつもそばにいる男からです!!」


 この男はなぜか聡から離れろとしきりに言って来る事に杏里紗は意味が分からず恐怖し逃げようとするが逃げるそぶりをすると男が近づいて手を伸ばしてくるのでその場から動けずにいた。


「おい。そこで何してる」


 大声で言い合いをしていたせいで人が近づいてきたことに気が付かなった。近所迷惑になっていたのだと思い杏里紗は謝ろうと顔を相手に向けた。しかし、そこに居たのは激怒した聡だった。


「おい、聞いてるだろ?なにしてた」

「あのね!「「杏里紗...怖かったろ。こっちおいで」」」


 男に向けた殺意を消し、杏里紗にはいつものように話掛ける聡に駆け寄りたい気持ちもあるが、また先ほどの様に捕まることを避けたくて足がすくんでいるとゆったりとした歩調で聡が近づいて来た。


「高橋さんに近づくな!!」

「幼馴染に近づいて何が悪い?むしろ、お前の方が離れろストーカー」

「俺はストーカーじゃない!ストーカーはお前の方だ!」


 笑顔を貼り付けて徐々に歩いてくる聡に恐怖した男は、杏里紗の手を掴み後ずさりする。杏里紗は手を払おうともがくが力の差は歴然で振り払うことが出来ず男から逃げることが出来ずにいた


「杏里紗の手を放せ」

「おまえみたいな危険な奴に高橋さんは渡せない!」


 抵抗する杏里紗をしり目に聡から守る様に前に出る男に


「おまえちょっと来い、杏里紗はここで待ってろ」


 そう言い残し杏里紗を置いて二人は離れて行った。待ってろと言われた手前帰るわけにはいかずその場で待とうと暫くスマホをいじっていると聡だけが走って帰って来た


「悪い。待たせたな、なにもなかった?」

「うん、大丈夫だったけど...さっきの人はなんだったの?」

「あー、話付けてきたから大丈夫。それでも、もしまだ手紙とか入ってたら俺に言ってもう一回話し合いしてくるから」

「うん...。ありがとう...ホントいつも聡はタイミングいいよね」

「...好きな奴が危険な時は助けたいだろ」


 顔をそらし暗闇でもわかる程耳が赤くなる聡を見てどう接したらいいかなんて事を考え悩んでいるのがおかしくなって


「ねぇ、聡」

「あ?」

「まだ2週間経ってないけどあの時の返事していい?」

「...いや...ちょっと待って...。一回デートしてからにして」

「え?でも...」

「終わった後でもう一言うから答えを聞かせて」


 杏里紗の中ではもう決まっているからもう揺らぐ事はないがけど、その気持ちを知らない聡からしたら不安なのだろうと杏里紗は内心可愛いなと思ったが言ってしまうと機嫌をそこねてしまうから何とか顔にも出さない様にしたつもりだったが...


「おまえ今”かわいい”とか思ったろ」

「なんでわかったの?!言ってないのに!」

「前にも言ったろ?顔に全部出てんだよ」


 ポーカーフェイスをしていたはずなのに聡に気づかれてしまい拗ねた顔をしたが、可愛がるように頭を撫で帰ろうと杏里紗の手を取り二人で家に帰った。家に着いて玄関を開け鍵を閉めると同時に


「で、なんで言わなかった?何かあったら言えって言ったよな?」

「...だって、...例の異能力者だったら危ないもん」

「だとしてもだ!異能力だって言っても力が強くなるもんじゃねぇ!」

「わかんないでしょ?!もしかしたら、出来る人もいるかもしれないじゃない!!」

「わかってないのはお前だ、ばか!」

「バカってなによ!!聡の事が心配だから言えなかったんじゃない!!」


 安心したのと聡になにもなくてよかったという安堵が重なって涙が出てきてバカと言い返しながら号泣してしまい聡を困らせてしまうから耐えようとした


「ほら、だから頼れって言ったのに」


 ため息交じりで言われながらも優しく抱きしめられ、まるで”安心しろ”というかの様に背中を鼓動と同じ速さでトントンと叩かれた


「ごめんね...迷惑かけて...ッヒ...」

「迷惑なわけないだろ。それより俺は悲しいんだよ...頼りにされなかった事が」

「...だってッ......ッ...ニュースになってたッ...人はみんな刺されたり...傷つけられたりしてたんだもんッ!」

「だから、言わなかったのか...」

「うん...」

「...そっか、ありがとな。でも、俺は俺が怪我するより杏里紗が傷つくことの方が嫌だよ」


 力が抜け崩れ落ちそうになったが、聡がギュッと抱きとめゆっくり床に座った。号泣する杏里紗に飲み物を持ってこようと体を離して立ち上がろうとする聡それをギュッと服を掴み


「いかないで」

「そんなに泣くと脱水症状起こすぞ」

「いいから!もう少しこうしてて」

「はいはい」


 ギュッと抱き着く杏里紗に呆れながらも優しいく好きにしろという聡にそのまま泣きつかれて腕の中で眠りに落ちた

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