第5話
区のモデル校だけあって、修学旅行も少し変わっている。行き先は広島、神戸、大阪、京都なのだが、宿泊場所だけ決まっていて、行動内容は生徒の自由だ。中学生に自由行動なんてさせたら、問題が起きない方がおかしいと思うけれど、うちの学校はいままで特に問題もなくやってきたみたいだ。
実際、自由行動といっても、それはかなり管理された自由で、班長は目的地に着いたら逐一先生に携帯で連絡しなければならない。さらに事前に、行動の過程を計画書として提出しなければならない。班長の責任が重いので、班を決める際にはかなり先生の意向が働く。班長に二瓶さん、サエコ、僕の生徒会のメンバーが全員顔をそろえたことからもよく分かる。当初、僕は片山や半田と組んで、しかも他の人に班長をやってもらおうと思っていたが、甘すぎる考えだった。
極秘裏に担任の先生に呼ばれて、班長をやって欲しいと言われた。一般的に、班長は班のメンバーが決まってから決めるものだ。そう先生に言ったら、班のメンバーもきまっているという。手回しがいいや。なぜか僕は、他人の面倒見がよいと先生に思われているらしい。一応生徒会役員だから、暴挙にでる心配も少ないのだろう。僕の班には問題児が詰め込まれていた。問題児たちはあまり友達がいないので、自然に売れ残るメンバーなのだが、先生が先手をうって僕を班長にして、マークしたいようだった。
まあ、僕は頼まれると断れない性格なのだ。もう早川しかいないの、と先生に青い顔をして言われたら、できる範囲でやってみますと答えてしまった。担任は女の先生で、極度の心配性だけど、不安な気持ちはよく分かる。問題児を分散させるよりも、一箇所に集めておいたほうが効率的だという考えも笑える。そもそも僕は、修学旅行は楽しみというよりも、面倒くさい行事ぐらいにしか思っていないので、逆に楽しみができた。それと、問題児として集められた生徒のなかに、なぜか半田もいたので気が楽になった。
どこまで操作されていたのかがよく分からなかったけれど、みごとに問題児が売れ残り、計画通りに班が形成された。僕は半田を捕まえておくだけでよかった。区のモデル校というのも、先生にとってみたらプレッシャーだろう。しかし先生方も、生徒を操作するスペシャリストが集まっているのかもしれない。まんまと僕は乗せられた可能性も十二分にある。でもその分、修学旅行に限らず、生徒が自由に動ける気風があるので、ありがたいと思ったほうがいいだろう。
班長会議があって、合計十二班の班長が集まった。二瓶さんとサエコがいる。ちなみに2人とも僕と別のクラスだ。サエコは僕を無視したが、二瓶さんが手を振ってくれる。さすがに大人だ。大人すぎて浮いている。僕が手を振り帰したら、みんなに大注目されてしまった。平和な学校といっても、思春期だから、男女仲良くというわけにはいかない。しかし、修学旅行の班は、男女混合で組まれるので、みんな期待しているはずなのだ。僕はまったく期待していないが。だいたい班のメンバーがすごい。
サエコが僕の班のメンバー表を見て、爆笑していた。ひどい面子をよくもそろえたと思ったのだろう。確かにそれには反論の余地がない。僕の班のメンバーは男子4人女子3人の大所帯で、7人の班は僕の班だけだから目立つ。あからさまに問題児を集めましたということになっている。
3年B組第6班。男子は僕と半田、そしてモリモリ、哲学。モリモリは本名は森田だが、モリモリとしか思えない。すぐに逆切れするデブの乱暴者だ。ひどい言い様だけど、ほんとうだから仕方がない。彼はとても攻撃的だが、なぜか僕だけに敬語で話してくる。なんでだろう。逆に怖い。「哲学」は木田哲夫というのだけれど、別に哲学者ではない。ただ、いつも暗い顔をして、深刻に考え事をしているように見える。ただそう見えるというだけで、哲学と呼ばれている。ひどい話だ。
女子は最強の双子と、幽霊。最強の双子はお嬢様で美人だが、いつも2人でいて他人を寄せ付けない。2年で転校してきたときに、わざわざ2人を別のクラスにしたのに、いつも2人で世界を形成している。基本的に無害だけれど、比ゆ的な意味で日本語があまり通じない。幽霊は影のあだ名で、決して本人に言ってはいけない。体が弱くて学校をしょっちゅう休んでいる。年齢は2歳年上だ。僕らが入学する前にすでにこの学校の生徒だった。言っちゃいけないけど、幽霊と呼ばれている意味もなんとなく分かる。すごい色白で背が高い。モデルさんみたいだ。赤い絵の具を使って自殺未遂を自演したことがある。
こうやって見てみると、僕と半田以外は全員転校生だ。しかも、うちの学校に来ても問題が解消されていない人ばかりだ。ほんとうに大丈夫か心配になってきた。男子は半田とも相性が悪くはないと思うが、問題は女子だ。想像がつかない。
2泊3日の行動内容は、本当は班のメンバーで相談して決めるのだけれど、このメンバーだと埒が明かないので、僕が独断で決めた。「先生にいつの間にか流れで決められてしまった」感じを強調した。「実はそんなに自由は無かった」という嘘の事実を展開した。罪悪感は残るけれど、こういうずるい作業は比較的得意だ。問題児たちは、少し文句や要望を言ったけれど、僕は「分かる分かる」と言いながら、ほとんどスルーした。我ながらひどい班長だ。問題児が問題を起こさないというのが、一番の目的だが、僕としては、この班で楽しい時間を過ごすには、彼らをあまり自由にさせないというのが大切だと思った。そういう行動内容にもした。ひどいけど仕方がないし、これでも相当大変な旅行になると思った。実際大変だった。
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