第13話

 何その手柄はご主人様に譲りますみたいな感じを醸し出してススッーと後ろに下がるエミリーさん。


「はぁ〜」


 先程構築した魔法をもう一度練り直す。

木の枝を天にかざし円を描く、いやね、こんな動作要らないんだろうけど何となく魔法使ってますよー的な憧れ?みたいな感じです。

カッコいい詠唱でもいいんですけど言葉のセンスがないのは自分でもわかってるので…はい…


「氷結のアイスニードル


無数の氷の針が上空から降りかかる。

さっきは氷の槍にしようとしたんだけど、ちょっと待てよと。

多分、槍だと飛散して色々とグロな光景になるよね…


「〒$#°*〆¥§!!」


均等に割り振られた無数のアイスニードルは盗賊達の頭や肩、首など体中を的確に貫いていく。氷なのに鎧などものともしない。


「あれ?」


 僕としては氷の針が貫いて致命傷を与えるつもりだったのだけど…


「流石はリト様。醜い奴らでも氷の彫刻になってしまえば多少は見れる様になるものですね。それに全て凍らせてしまえば臭いも気にならないと」


いえそこまで考えてません、偶然です。

目の前には剣を構えたり、弓を絞ったり、様々な格好をした元盗賊達が氷の彫刻となって広がっている。


「ならば後はムシケラ共を砕いてしまいましょう」


 いつの間にそれ出したの?大きなハンマーを両手で握って駆け出しそうなエミリー。


「いや!そこで砕いちゃダメだから!溶け出したら結局グロいから!」


 僕は慌てて彫刻となった盗賊達の足元に土魔法で10メートル位の穴を開ける。自由落下になった彫刻達は底まで落ちるとドンと音と共にバラバラに砕け散る。

すかさずまた土魔法で開いた穴を埋め戻して…


「なるほど臭いものには蓋をしろですね」


なんか微妙に上手いこと言ってやがる。

まぁ、とりあえず盗賊達は片付いたしいいよね?本当なら生きたまま捉えて背後関係とか色々聞き出すんだろうけどそこまでは面倒だしね。

服に付いた埃をパンパンと手で払い放置していた女性2人に歩み寄る。


「もう大丈夫ですよ」


最大限の幼女スマイル…幼女じゃない。

最大限のスマイルで2人に話しかける。


「|〆#§♭£⊆€…」


 うん、やっぱり何を言ってるのか理解できない。僕が困惑していると背後に控えていたエミリーが一歩進んで僕に告げる。


「僭越ながらリト様は異世界言語スキルを取得されてない様なので取得をお勧めします」


「異世界言語スキル?」


「はい、本来なら外界から転生または転移した人族などに女神から与えられる一般的なスキルなのですが…リト様の場合与えられるより与える側の立場なので容易に取得できると思われます」


あー、ラノベとかで言葉に困るからとかなんやかんやで最初に貰うやつだね。でも自分でスキル取得ってどうやるの?ラノベにそこまでは書いてなかったな〜

異世界言語の事を考えているとポン!と頭の中にメッセージが浮かび上がる。


(異世界言語を取得しますか? Y/N)


 目の前にメッセージボードが突然浮かび上がってビックリするみたいな話とかは読んだことあるけど確かにビックリする。ちょっと体がビクッとしたのは内緒で取り敢えずYESと頭で念じる。


(異世界言語を取得しました)


……これで終わり?特段に変わったことはないけど?

物は試しもう一度2人に話しかけてみる。


「えっと、もう大丈夫ですよ?」


すると獣人の娘がビックリした顔をしながら返事を返す。


「危ない所を助けて頂きありがとうございます…」


うん、いきなり言葉が通じるのは僕もビックリするね。


「どういたしまして?それより着替えはありますか?」


 そのね、獣人の方を見るのも初めてだけどバスタオル一枚って裸体よりなんかエッチなのよね。


「はい、馬車の中に着替えが入っております…」


 僕の見た目は幼女だからかあまり気にしてはいない様だけど中身はオッサンですよ。一瞬麗奈に怒られそうな気もしたけど…


「うん、エミリー手伝ってあげて?」


「かしこまりました」


綺麗な所作でお辞儀し2人を伴って馬車に向かうエミリー。

その間に…土魔法でかまどを作り収納魔法から薪を出して火をつける。とりあえずこういう時は温かいものを口にして落ち着かせるのが定番だよね?


「ふふーん、こういう事もあろうかと思って荷物を分けておいて正解だったな」


 次に2個ほどの玉葱を簡易で作ったまな板の上でスライスして、薪に火が回ったであろうかまどに鍋を置いて少量のオリーブオイルで色が付くまで玉葱を炒めていく。

色が付いたら水を入れてコンソメの素をぶち込む。元の世界の調味料便利すぎ。こっちの世界でこの味作るのはきっと大変だものね。


 煮込むまでの間にパンを切り分け串に刺して焚き火の近くで軽く炙る。鍋の方は塩胡椒で味付けしたら炙ったパンを入れて…ちゃちゃっとコンソメスープの完成!

 収納魔法からテーブルと椅子を取りだす。なんでもかんでも入れといて正解だったなと思いながらスープをマグカップに取り分ける頃着替えを終えた2人とエミリーが馬車から出てきた。


「とりあえず温かいものでも飲んで落ち着きましょ?」


2人をテーブルへと招く。


「その前に、この度死を覚悟した危機的状況から助けて頂きありがとうございます。私、グレトエンデ王国のシューレスト辺境伯レリク・ジムテリアの妻、グレース・ジムテリアでございます」


「私、辺境伯様に仕える侍女のミミカと申します。夫共々命を助けて頂き感謝の念が絶えません」


2人揃って綺麗なお辞儀を披露する。


「それに…」


 頭を上げた2人は次にエミリーに向き合い突然膝をつき手を胸の前で組み頭を垂れる。

いわゆる祈りのポーズだ。


「「女神様が遣わされたに感謝の意を」」


「ふへっ?」


僕は今日1番の間抜けな声を出してしまった。

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