第2話
どれほどの時間を揺蕩ったのだろうか?
意識や思考力があるのは何故なのか?もしかして自分は死んではいないのだろうか?
「考えてもしょうがないか…三途の川もなければ閻魔様とかにも出会えそうな感じではないな…」
意識の中で自分に語りかけ無限ループに陥りそうな思考を放棄する。
ただ一つ現状でわかる事は何かに包まれるてる感覚が安心感を与えてくれる。
莉斗はその安心感に意識を委ね心地良さの
「おぎゃーおぎゃー」
「お嬢様、無事元気にお生まれになられました」
どこか気品のある老齢な女性の声が聞こえてくる。
「あらあら、やっと会えましたわ。どれほどこの時を待ち望んだ事かしら」
凛とした透き通る声の持ち主の女性がそう言って微笑み、老齢な女性から今産まれたばかりであろう我が子をその腕に抱きかかえる。
何かに包まれていた感覚が感触に変わる。産まれたばかりで目はまだ良く見えないが、2人の会話の内容と自分の体の感覚からして自分はきっと転生したのだろう。
何故そう思えるのか?
前世、病室で暇を持て余してる自分に麗奈がよく本を持ってきてくれたのだ。
「これなら堅苦しくないし気軽に読めるよ?」
そう言って本を渡してくれたのはいわゆるラノベというやつだ。
いくつかのラノベを読んでみたのだが、
まぁ、大抵はトラックに轢かれたり、暴漢から女の子を助けて代わりに刺されたり…
その後、神の前に呼ばれてチートと呼ばれるスキルをもらったりして違う世界に転生する流れの物語が多かった。
「自分は特に誰かを助けたり神の前に呼ばれてもいないんだけどな…」
など色々と考えに浸っていたのだが産まれたばかりのこの体ではすぐ眠気に襲われて思考を放棄するしかなかった。
あれから3年の月日が流れたと思う。何故思うかって?この世界にはカレンダーなるものを見た事がないし、曜日という概念もないみたいだ。もしかしたら僕がまだ小さくて教えられてない月日の数え方があるのかもしれないが、誕生日にお祝いをする習慣はあるらしい。
それが今日、3回目のお祝いなので多分3年?と考えているのである。ちなみに3歳児が自分の事をオレとか言ったら可愛げがないと思い僕にしているのである。まぁ、肉体年齢に精神年齢が引っ張られるのもあると思いたい…
「坊っちゃま、おはようございます」
そう声をかけてくれたのは、この屋敷のメイド長のエミリー
肩まである赤い髪を後ろで一つに束ね皺ひとつないメイド服に身を包んでいる。切長な目に髪色と同じ赤い瞳、鼻筋はスッとしていて柔らかそうな唇。誰が見ても美人さんだ。
「おはようエミリー、今日は母様ではないのですね」
「はい、今日は坊っちゃまのご生誕の日ですのでアウリーゼ様はそれはもう朝から張り切っておりますょ、ふふっ。」
エミリーが言ったアウリーゼ様とは僕の母親のことである。子供の僕から見ても母様は絶世の美女と言っても間違いない位に美人で…過保護だ。お風呂はもちろん食事の世話もなんでもメイドにはやらさずに自分の手でやってしまう。夜一緒に寝付くまで離れず隙あれば常にムギュッと抱き上げられてしまう始末である。
前世で母親の記憶が余りない僕には過保護であろうがその温かさは嫌いになれない。
「はぁー、母様は相変わらずなのですね」
着替えの為、ベットから這い出てトテトテと用意のしてある服の所まで行こうとするが、急に後ろからエミリーに抱き上げられてしまう。
「エミリー?」
「やっと、やっとです。たった1日とはいえ坊っちゃまのお世話ができるのは!いつもアウリーゼ様がやってしまわれてなかなか手が出せなかったのですよ!ぐふふふ」
そう言いながら抱き上げた僕の首筋に顔を近づけて深呼吸を始める。
「まずは坊っちゃま成分の補給からです♪」
エミリーお前もか…などと思いながらも3歳児の僕には振り解く事も出来ずにされるがままに蹂躙される。
「朝から疲れた…」
着せ替え人形のようにいじられてようやく解放された。
「坊っちゃま朝食にいたしましょう」
「うん」
部屋の扉を開けて食堂に向かおうとする僕をまたもや後ろから抱き上げるエミリー
「えっと、歩けるよ?」
「存じております。しかしこれは私の心の安寧の為に必要な事なのです」
自信満々にそう言われると
「そ、そっか」
としか返せない。お腹は空いてるから無駄な抵抗はしない方がよさそうだ。
パルテノン風の屋敷の廊下をエミリーに抱っこされて歩いてると数人のメイドとすれ違う。その視線は僕にはかなり恥ずかしいがエミリーは
「フフン!」
と聞こえてきそうな位のドヤ顔だ。
ポンコツの片鱗を見せているエミリーの横顔を眺めて数秒、食堂の扉に到着して抱っこから解放される。
エミリーが両扉を押し開き中に通してくれる。
食堂の中は20人くらいが使える大理石のテーブルに趣味のよい燭台や絵画などが飾られている。成金でも質素でもない良いセンスを感じる。その食堂のテーブルの奥の席にゆったりとキトン風の服を着た母様がこちらを見て微笑んでいる。
僕は以前から感じていた疑問などを3歳になったこの日に母様に聴きたいと思っていた。
それ以前は聞きたくても口が回らず未発達で上手く喋れないってのもあったけどね。まずは先制パンチだ。
トテトテと歩いて母様の側に行き満面の笑みを浮かべて(ニコッ)挨拶をする。
「おはようございます、真理亜母さん」
「おはようリトちゃん」
「………」
「………」
やっぱりだ。髪と瞳の色と胸の大きさこそ違えど僅かに記憶に残ってる母の顔と雰囲気の面影が似ていた。他にも似ている所作はかなりあるがそれよりも僕のことをリトって呼んだ。
エミリーが僕のことを坊ちゃまと呼ぶので、「僕には名がないの?」
と以前聞いたことがある。
エミリーによるとこの世界では5歳になってから名を与えられるらしい。なのでエミリーも他のメイド達も僕のことを坊ちゃまって呼ぶ。
母様からは私の息子、他の人からはアウリーゼの息子と呼ばれるからだ。
なのに確かにいま母様はリトって呼んだ。
「ふふふ、楽しい朝食になりそうですね母様?それとも以前の名前の真理亜母さんと呼びましょうか?」
幼児に許されるウルウルの瞳で見上げる必殺技をくり出す。
「はぁ〜、こんなに早くバレるとは思ってもいませんでした。地球に居た頃の名前で呼ばれてつい反射的に息子の名前を言ってしまったわ。本当は5歳の命名の日に打ち明けようと思ったのですけれど、しょうがありません」
そう言いながら僕を抱き上げ膝の上に乗せる。
「先に朝食にしましょう。リト、話はその後でね。ちなみに胸の大きさは変わってませんからね!」
ありゃ、思考が読まれていたみたい?まぁこの後色々と話が聞けそうなので朝食にする事にした。
いつもとは違った美味しい朝食の始まりだ。
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