どうやら新しい人生のやり直しは神生になるようです。
@umikurage
第1話プロローグ
「莉斗、たとえ離れていても母さんは何時でもあなたの事を見守っているからね。心配いらないわ、終わりは始まりよ?」
一瞬の夢を見た。唯一覚えている母さんとの会話と優しい瞳。
「懐かしいな…」
そんな呟きと共にゆっくりと重い瞼を開く。そこはいつもの見慣れた天井と、病院特有の消毒液の微かなの匂い。チラリと時計に視線を向ければ午後4時半を指している。重くなった身体をなんとか起こしてリモコンでTVをつける、観たい番組がある訳でもないがなんとなく画面から流れてくる音で寂しさを紛らわせながら今日一日の思った事を日記帳にかきためる。
俺こと天川 莉斗は普通に高校、大学を経てさしたる障害もなく父親方の親戚にあたる会社にコネで就職した訳だが、入社して仕事も覚え始めた半年位経ったある日、帰宅途中に眩暈を覚えて倒れた所を病院に運ばれた。
最初の頃は慣れない社会生活で気付かず疲労が溜まってたのかな?なんて思い気をつけねばと考えながら、最初は1日で退院できたのだが…
今では身体を起こすのもキツい程動けなくなっている。医者いわく
「色々と検査した結果、今の医療では原因がわかりませんが…経過観察からみて日々身体が弱っていることは確かです」
それが父と病室で受けた医者の回答だった。
「色々と少しずつお薬を試して何が効くのか様子を見ましょう」
「先生よろしくお願いします」
そう言って父は先生に軽く頭を下げる。
「今日の所はこれで失礼しますね、莉斗さんもこれから一緒に頑張っていきましょう」
先生は安心させるようにニカッと笑顔を向ける。
「はい、頑張ります」
その返答を聞いた先生は一つ頷いてから病室を後にした。
病室で父と2人気まずい雰囲気が少し流れた後、俺が話しかける
「仕事忙しいのに迷惑かけてごめん」
「何謝ってるんだ、息子に遠慮されると寂しいぞ」
そう言いながらバンバンと俺の肩を笑いながら叩いてくる。
いやいや、その細マッチョな身体で叩かれるとなかなかにくるものがある。
しかし、このイケオジ親父殿はいったいどんな仕事しているのだろう。あちこち飛び回ってるみたいだがスーツ姿など見たこともない。一度仕事の内容を聞いたことがあるのだが、
「世界の為になる仕事をしてる」
と、なんとも曖昧で荘厳な言葉で躱されてしまった事がある。
「まぁあれだ、病院代とかは気にするな。しかし、俺もこれから色々とやらなきゃいけない事があってだなぁ〜着替えとか細かい事はどうしたもんか?」
「それなら麗奈がやってくれると思うけどアイツも仕事とかで忙しいかもな」
医者と父を交えてそんな会話をしたのはたった1ヶ月前だ。
海月麗奈は幼稚園こそ別々だったが小学校からの付き合いがあるいわゆる幼馴染だ。
俺の母親は自分が小さい頃に亡くなったと記憶しているし、父親は仕事でちょいちょい家を空けることがあった。そんな時は近くの親戚やら祖父母の家に預けられると思うものだが、父方も母方も祖父母は居ないと聞いている。なので俺がまだ小さい頃は家族付き合いがあった麗奈の家に預けられる事が多かった。なんでもウチの母親と麗奈の母親は中学の頃からの親友だったらしい。そんな俺を麗奈の家族は温かくいつも受け入れてくれた。
まぁ家族みたいに育った俺達は中学生の思春期にラノベ展開のように拗ねらせて…とはならずに中学3年になった12月のクリスマス。
麗奈に連れられて行ったマリンタワーの展望台で2人海を眺めていたら唐突に紙袋を突き付けて
「これからもずっと一緒にいてくださいっ」
今まで見たことも無いくらい顔と耳を真っ赤にさせて見上げてくる麗奈をみて思わず吹き出しそうになるのを堪え、大きく一つ息を吐き出して、
「麗奈の事、好きです。これからもずっと一緒に居て隣で笑っていて欲しい。後、先に告白させてごめんな」
あれ?なんかこれって告白だけどお互い付き合う前にプロポーズしてるみたいじゃない?
なんて事を考え出したら自分も顔が徐々に熱くなっていくのを感じる。
麗奈の方をチラリと見やれば、お互いの言葉に俺の思考を読み取ったのか
「あへぇ…」
と気の抜けた言葉が漏れ出す
「いやそこはなんか返事をくれるかリアクションして欲しい所なんだけど…さすがに「あへぇ」って…」
「麗奈さんやー聞いてます?おーい、麗奈?」
一旦お互い落ち着こう。
熱を持った麗奈の手を取って外に出る。ベンチに座らせて冷たい潮風に少しあたったらどうやらこちらの世界に意識が戻ってきたようだ。
「さっきのは夢?」
麗奈はまだ現実との境を彷徨ってるのか?物理的に中からも冷やさないとダメならこの寒空の中ソフトクリームでも食べさせるかな?
冬空の中アイスは遠慮したいけど俺的には炬燵の中ならアリなんだよなーと余計なこと考える。
「それよりプレゼントの中身観てもいいかな?」
「う、うん、初めてにしては上手に出来たと思う」
上手に出来たと言う事は手作りの何かだな?
紙袋を丁寧に開けて中に手を入れる。柔らかい何かを手に掴みそっと紙袋から引き上げる。
「おぉ!」
「どうかな?莉斗って青系好きでしょ?」
「めっちゃ暖かそう!色合いも落ち着いた感じだしこれなら高校入っても使えそう。麗奈ありがとう。マフラー大丈夫にするよ」
さっそくマフラーを巻いてみる
「うん、やっぱり莉斗には青系が似合うね」
「長さも丁度いいし、何よりも暖かい」
もう一度麗奈に向き合いありがとうと礼を言う。
自分の事のように喜んでくれてる麗奈をみて思わず抱きしめたくなるのを我慢しながら、コートのポケットに手を入れて用意していた物を掴む。
流石にクリスマスに誘われればなんとなく察するものだ。寝る前にネットで吟味して探し出した物を購入していたのである。
「これは俺からのクリスマスプレゼント」
ポケットから出した包装された箱を麗奈の手に握らせる。
まさか用意されてるとは思ってなかったのか、ビックリした目を手渡された包装紙に視線を落とす。
「いつの間に?」
「まぁ買えるものは限られてるけどな。お小遣い貯めていけばこの位はね」
「開けてもいいの?」
「もちろん」
まぁ正直目の前で渡したプレゼントを開けられるのは不安があるっちゃーあるのだが。やはり反応が気になるところではある。
丁寧に包装紙を剥し出てきたのは赤いベルベットに包まれた横長の箱。
その箱をゆっくりと開けていくと中から、銀の台座に雪の結晶を連なれて型どった髪留めが見える。結晶の中は水晶と一部にアパタイトがあしらわれている。
「きれい…」
麗奈の反応をみてホッとする。どうやら気に入ってもらえたようだ。はじめてのプレゼントで記念日となるのならこの位は安いものだと思う。
「ふふっ、やっぱり莉斗は青系が入るんだね」
確かに青系は好きだが…そのね、アパタイトの石言葉も気になったり…まぁ言わないでおこう…
そんな昔の事を思い出していたら病院の時計は18時を過ぎたあたり。
「そろそろかな」
そう思った矢先に病室のドアがコンコンとノックされドアがスライドする。
「おはよー莉斗」
「おはよーって…18時だよ?」
弱々しく返すのが精一杯なのだが、麗奈には聞こえたようだ。
「今日初めて会ったのならいつでもおはようなのだよ!」
よくわからない謎理論を言って入ってきたのはあの頃よりだいぶ大人になった麗奈。誰が見ても美人と言うだろう。中身はちょっとおっちょこちょいな所はあるのだが…
背中半分位までに伸びた黒髪は綺麗に手入れされ、クリッとした瞳は笑うと垂れ目になり愛らしい。身体つきはアレだな、当たり前だけど小さい頃一緒にお風呂入ってた時より相当成長してる。高校、大学と大分モテていたのは周知の事実。その辺は置いといて。
ベットの脇に椅子を持ってきて今日一日の出来事を楽しそうに話し始める。動けなくなってからというもの、麗奈が来て面会時間が終わるその時までが楽しみでもあるが今日は言わなくてはいけない事がある。
面会時間が終わりに近づく。意を決して麗奈に話し始めようと声をかける。
「麗…」
声を発したその瞬間に麗奈の柔らかい唇で塞がれる。ふわっと香るいつもの麗奈の匂いに鼻孔をくすぐられ安堵感を覚える。
今日はいつもより長い。ずっと一緒に居たから何かを察したのかもしれない。
やがてゆっくりと離れていきいつもの笑顔で
「また明日も来るからね!」
椅子から立ち上がりドアに向かう麗奈の手首をつかもうと腕を伸ばすけど身体は言う事を聞いてくれない。
何かから逃げるようドアの取っ手に手をかける麗奈。
声は届かないだろうけど…言わなくてはいけない。その背に向かって…
「約束守れなくてごめんな…今までありがとう」
病室のドアが閉まる。自分の声で伝えたかったが届いてないだろう。まぁ届いてなかったとしても書ける時に書いた日記を読んでくれる事を願おう…
その日の深夜、
「あぁ、わかっていたよ。今日で終わりになる気がしてた…自分の身体だからな…」
温かい海の中をゆっくりと落ちていく感覚。
身体もなのか?意識だけなのか?
深い深い眠りにつく。この世と別れたことだけは理解した。
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