約束の地

Ⅰ 老人と若者


「神様が俺たちを作ったなら、どうして俺は救われないのか」

ハエが部屋中を飛び回る。湿気の多いじめじめとした獄の中で、2人の囚人が向かい合って座っている。

「…どうして、今俺はここにいると思う?」

ひげを生やした老人の囚人がそう、問いかけた。

「わたしには何故あなたがここにいるのか、よくわかる。あなたは罪を犯したからです…してはいけないことを、」

もう一人の若い囚人がそう言った。

「違う、違う、違う。神は許してくれるはずじゃないのか?俺の罪を、俺の…」

「いいですか、あなたの罪は決して許されはしない。どんなものにも変えることは出来ない、苦しいけれど。だからあなたはここにいる」

老人は目を開いて、若者に口を開いた。

「なあ、教えてくれ。俺はどんな罪を犯したんだ?もう、もう何十年もここにいる。そしてどうしたらここから抜け出せる?」

若者は老人の手を握った。

「…生きている事。あなたは、母親を自らの手で殺しましたね。あなたが死んだとき、あなたは自由になれる。あなたは死後の世界で、約束の地で、”彼女”に会うでしょう」

「生きている事が罪だなんて、耐えられない」

「ええ…辛い。とても。計り知れない呪いなのですよ、でもどうか信じて。神はあなたを救います。そして幾度もあなたはこれを飲むことを拒否してきた。あなたが最期の一人なのです」

若者は、白い薬を差し出した。

「さあこれをお飲みなさい」

老人は受け取った。

「罪の赦しを」

老人はそういうと、立ち上がり若者を蹴飛ばした。

若者は驚きそのまま頭をぶつけて気絶してしまった。老人は若者にその薬をのませ、手を合わせ合掌した。

「神は死んだ」

そういい、老人は次の若者が来るのを、独房の中で今でも待っている。


Ⅱ 母親と息子


「あなたが生きていける世界を、作りたかったのに」

喉は乾ききり、暑さで死んでしまうような岩の独房に母親と息子が入れられている。彼らは手足を鎖でつながれている。

「母さん」

「何も救えなかったのね、あなたがここにいるのだから」

「僕はもういいんだ、どうか母さんは」

「私のせいね、私よ、私なの、私だからだめなの」

息子は、首を振る。

「あなたは何も悪くない」

「…わたしのせいにして、どうせ殺すのならあなたが悪かったと言ってほしい。わたしのためを思って」

「…」

「さあはやく。彼らが来てしまう」

「あなたの…せいだ。あなたが世界を救わなかった。救おうと命を差し出すことを今までしてこなかったからだ。だから、あなたは…」

「言って」

「罪を償うべきなのです…生きている事の、罪を」

独房に彼らが入ってきて、母親の口を開けさせる。白い薬を飲ませようとする。

「決めたか?どちらが飲むかを」

母親はそう言われジタバタと抵抗しだした。彼らは驚き、独房に頭をついて気絶した。母親は独房の出口の方に指を指した。

「私は、罪を償うわ。いい?あなたは、何も悪くない。だから、死なないで。あなたが生きている限り、私も生きているのだから…」

母親は薬を飲み、数分後苦しんで死んだ。

息子は、首を縦に振る。

「あなたのせいだ」

そうして母親の目を閉じる。

「私は永遠に解放されません。あなたから…生きることからも」

そういい、息子は次の囚人を待ち構えた。

「そう、永遠に。ずっと」






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