ループ、もしくは周回とも言う

 場所は、クラウスたちが住む田舎の屋敷。七日前にランハートへ国王選のことを知らせて、今まさに転移の魔法陣で王都へ向かおうとした瞬間である。

 格好も、あの時と同じ。違うのは記憶だけ。


「……クラウス。何が起きたのか、説明してくれ」


 これには流石に怒りを収めたらしい。落ち着きを取り戻したランハートが、クラウスを問い質す。


「『時の砂時計』で、俺たちの時間を七日前に戻しました。俺が作った魔工アイテムです」


 これは砂をひっくり返した日から、最大七日まで遡ることが可能。砂時計を破壊した瞬間、金色の砂を浴びた者だけは、その記憶を引き継ぐことが出来るという国宝級の便利アイテムだ。

 これにより、アクセルに捕まりそうになったあの光景は、二人以外の記憶にしか残っていない。


「最初から、六日で国王選をどうにか出来るなんて考えていませんでした。だから、何をどうすれば六日で義父上が国王になれるかを色々試そうと思ってたんです。七日の間なら……ほら、砂時計もこの通り、元通りですし」


 上着の内ポケットにある砂時計を取り出し、ランハートに見せる。つい先ほど粉々になった筈の砂時計は、何事もなかったかのようにさらさらと砂を落としている。

 時が戻れば、砂時計だって元通りになる。つまり、納得できる結果を得られるまで、何度でもやり直せるということだ。


「……ということは。私が国王になるまで、お前は諦める気がないということか」

「もちろんです! だって見たでしょう? アクセル殿下は国王に相応しくありません!」


 義理の息子贔屓がなかったとしても、アクセルを国王だとは認めない。この国を変えるためには、やはりランハートが必要なのだ。

 それがクラウスが企む、この国に対する復讐でもある。


「収穫はありましたから、必ず義父上を国王にしてみせますよ! 衣装のデザインや生地の種類、宝石の数まで全部覚えていますから、王都に着いたら真っ先にウィルマ殿に注文しましょう。それで衣装問題は解決です。あとは……やはり、義父上の力を知らしめることが必要なようなので、邪竜を倒しに行きましょう。一度でも行けば、簡易の転移魔法陣を作ることが出来ますから損はない筈です。うーん、やることが多いなぁ」


 最初はああして、次はこうして。うんうんと考え始める息子に、ランハートはやれやれとため息を吐いた。

 傍から見れば、勝手に決めるなと叱るべきなのだが。


「……王都に着いたら、アクセルの顔を見に行った方が良さそうだな」

「あ、確かに! 忘れていました、流石は義父上!」


 自分よりも、息子を優先してしまうのだから。

 血が繋がっていなくとも、この二人は似た者親子なのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

跪け愚民ども、我が麗しき義父上の足元に 風嵐むげん @m_kazarashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ