第13話

 俺はメフィーに首根っこを掴まれながら飛ぶ。


 普通窒息しそうなものだが、メフィーの謎パワーで息は特に苦しくない。


 だけど持ち方もう少しどうにかして欲しい。


「さて」


 最初ということで好きに暴れさせてもらおう。


 俺のすることは簡単、イベント破壊だ。


 恋愛フラグを建てるイベントはそのままに、死の危険が高いものは事前に取り除く。


 それが俺の作戦だ。


「ですが何故35層に?」

「一応あのスイッチを押したはいいが、何故か知らんが俺はメフィーと戦わされた」

「あれは戦いではありません。虐殺です」

「事実だけど怖いからあんまり言わないで」


 俺、未だに軽くトラウマなんだからな?


 あの時俺の腹をブッ刺した手が、今は俺を抱き上げて音速で移動していると思うと少し感動ではあるが


「まぁとりあえず、スイッチが怖いから先にワープ先のボスモンスター殺しちまえばいいじゃんって話」

「単純ですが良い作戦かと」


 珍しく褒められた。


「このダンジョンというシステムを完膚なきまでに破壊しましょう」

「マジで恨み持ちすぎだろ」


 長年閉じ込められた牢獄みたいな認識なのかな。


 もしかして、あんまりダンジョンには誘わない方がいいかもな。


 まぁ今はそれよりも


「とりあえずまず五層のボスからだ」


 下の階に降りると、大きな扉が現れる。


 ダンジョンは五層毎にボスが現れる仕組みであり、こいつらを倒さなければ先に進めない使用になっている。


 筈だった。


「マスター、何か勘違いをしているのでは?」

「へ?」

「最早私を拘束するダンジョンのルールは存在しません」


 メフィーは扉に向かって


「進みます」


 突っ走る。


 扉が破壊される。


 何かがいる。


 メフィーに轢かれ消える。


 あまりのスピードに六層に続く扉は閉まったままだが


「邪魔です」


 破壊する。


 ゲームだと設定上は破壊不可能オブジェクトだった筈だが、そんなのお構い無しである。


「これならばボス戦を全てスルーできます」

「うん、そうだね」


 さすが裏ボス。


 マジで対峙した時の絶望がそのまま希望にとかしている。


「これなら余裕そうだな」


 この勢いのまま、35層までなんの障害も無いまま進んだ。


「なーんか、一人だと絶対に腰抜けて命乞いしてたんだろうな」


 俺は上を見上げる。


 黒い毛皮、別れた三つの頭、口からはマグマかと錯覚するような涎が垂れている。


 ゲーム上名前は公開されていなかったが、プレイヤーの間で呼ばれたあだ名は


「ケルベロス」


 俺がメフィーに会ったスイッチを押すと、プレイヤーは強制的にこの部屋に飛ばされる。


 もちろん序盤でこんなのに勝てるはずもないため、とある方法を使ってここから脱出する必要がある。


 その方法を初見で見抜くことは不可能。


 また、自力でこの層に到達したとしても、こいつはとある手順を踏まなければ倒すことが出来


「倒しました」

「……」


 そこには体が破壊され、頭だけになったケルベロスの悲しき姿があった。


「胴体ってさ、通常の一万倍の防御力があるから頭しか攻撃できないはずなんだけどね……」


 ……ま、いっか。


「よーし目的達成だぜ!!」

「ご苦労様です」


 俺何もしてませんが?


 嫌味なのか?


「他に懸念点は?」

「あー……確か第1層にデーモンっていうまぁまぁ強いモンスターが湧いてくるが、マジで低確率だし出現場所もランダムだしで大丈夫だと思うけどな」


 実際俺は一度も会ったことないし、ネットでも月に一回デーモンの報告が上がるレベルの低確率。


 まぁ流石に大丈夫だろう。


「帰りますか」


 五層毎に存在するボスを倒すと、地上にワープする魔法陣が現れる。


 それを踏めばものの一秒で帰還出来る上、メフィーの高速移動を見られずに済む点でもありがたい。


「行くぞメフィー」

「……はい」

「?」


 どこか不安そうなメフィーは俺の隣に立つ。


 そして魔法陣は光だし、視界が真っ白になったかと思うと


「やっぱり地上の空気の方が美味いな」


 俺らは太陽の下に戻って来た。


「え、もう戻ったの!!」


 俺らの帰還に例の女性教師が近付いてくる。


「さ、さすがメ……ベルさん。5層のモンスターなんて簡単ということですね」

「いえ、マスターのご助力あってこそです」

「あ、あはは」


 5層どころか35のやつ殺して来たんだが、それは言わないでおこう。


「あー、予定より少し遅かったな」


 大きな欠伸をして現れたバラン。


「せいぜい20で終わると思ってたが、まだ先行ったか」

「……何のことでしょう」


 やっぱこいつは曲者だな。


「まぁいいや。お前ら二人ちょっと手伝え」

「手伝う?」

「何の為にお前らを最初に行かせたと思ってる。帰ってきたら他の生徒の面倒見てくれよ」

「いや何生徒に仕事押し付けてんだよ」

「そうですよバラン先生。これは私達に与えられた仕事、私達自身で管理しなければ生徒に示しがつきません」

「その示しってのは生徒の命よりも大切なのか?」


 女性教師が押し黙る。


「元々これが交換条件でもある。そうだよな?」

「はい、事前にお伝えした通り」

「?」


 あ、こいつ俺のペアになる代わりの条件に見回りの案を出したのか。


 実際俺もメフィーと一緒になれて助かったし


「先生方、俺らもこのまま終わるのもなんですし、是非もう一度ダンジョンに行きたいのですが」

「そう?生徒がそう言うのであればやぶさかじゃないけど」


 女性教師は少し迷いながらも


「分かりました。二人共、安全には気をつけて」

「はい」

「当然です」

「頑張ってくれよー」


 そんなわけで俺らは二度目のダンジョン探索に向かうことになった。


「分かってるな?」

「マスターこそ」


 そして俺らはリエルを探しに行ったのだった。


 ◇◆◇◆


 四人の男女が歩いていた。


「なんかモンスター少ないね」

「そうですね。誰かが先に倒してしまったのかもしれません」


 ウェンとリエルはダンジョンのモンスターの少なさに違和感を覚える。


「これじゃあつまんねーよ。俺はもっと血湧き肉躍る戦いがしたいんだ。な、お前もそう思うだろ?」

「僕の目指すのは世界一美しい剣を振る剣聖だ。確かにこのままでは僕の修行にならないな。ところで血湧き肉躍るとはなんだ?」


 スレインとアルバートは特に気にした様子もなく前に進む。


「あのお二人とも、少しペースが速いのでは?」

「ん?いいじゃんいいじゃん。進めば敵は強くなり、成績も上がる。大丈夫俺が全部倒してやるからさ」

「すまない、女性と歩くことは慣れていないんだ」

「アルバート。あの平民が言ってるのは歩くスピードが速いって話じゃないからな」

「そう……なのか?」


アルバートはよく分からず首を傾げる。


「よく分からないが、僕は強い。安心して任せろ」

「ま、そういうこった」


スレインとアルバートは変わらず奥に進み続ける。


すると横から突然現れたゴブリン。


「きゃ!!」


リエルが悲鳴を上げるが、ウェンがそれを撃退する。


「す、すみませんウェンさん。私戦闘があまり得意ではなくて……」

「僕もダンジョンは初めてだよ。でも、それなりに鍛えてきた自負はある。いざとなったら僕の後ろに隠れて」

「ありがとうございます」


 それからモンスターは度々現れるが、前に立つスレインとアルバートによって簡単に倒されてしまう。


 二人の撃ち漏らしは全てウェンが退治し、ことはあまりにも順調に運ばれていく。


「このまま5層まで行っちゃうか!!」

「ここは今何層なんだ?」

「3層だよ3層。ここからなら戻るよりもボスを倒した方が速く帰れる」

「速いことは良いことだと父上も言っていた。それならば先に進もう。二人もそれでいいか?」


 ウェンとリエルは顔を合わせ


「戻ろう」 「戻りましょう」


 言葉を揃える。


「私達はあくまでダンジョンに慣れる目的での探索です。これ以上の攻略は授業の範囲を超えていると思います」

「僕達はまだ学生だ。ここで万が一が起きてしまえば、その責任は自分達だけに留まらない。深手を負う必要がないのに、わざわざ進む意味はないと考える」


 ウェンとリエルの言葉に二人は


「……じゃあ帰れば?俺は先に進むけど」

「何故速く帰れる道を選ばないんだ?そういうのを……非効率?と言ったはずだ」


 意見が綺麗に別れる。


 スレインとアルバートはまた変わらず走り出す。


「ど、どうしましょう」

「先生方に知らせるか、それとも僕らもついていくか……」


 二人は悩み


「追いかけましょう。何かあってからでは遅いです」

「そうだね。もう少し説得してみよう」


 奥へと進んだ。


「ktktktktktktktktktktktktktkt」


 そして災厄は訪れた。

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RPG風乙女ゲー世界に転生したら、裏ボスが仲間になった @NEET0Tk

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