第12話
「それは……馬、なのか?」
「ノッツ、それは間違いだ」
何故2回も否定したのだろう。
「これは僕の愛馬スペクティターセカンド3だ」
「どうしてセカンドなのに3なのです?」
「ん?カッコいいからに決まってるじゃないか」
分からない。
こいつの思考が全く持って理解できない。
だが
「それが面白い」
「さて、マイフレンドよ。まだそこのゲスと一緒にいるのか?」
「げ、下衆ではありません!!エルさんは凄くいい人です」
「……ハァ、マイフレンドのその純粋さは大切にすべきだが、それを逆手にとって騙すものは本当に許せないね」
ギロリと目線を向けられる。
「俺がリエルを騙してると?」
「その通りさ。すまないが僕の目もまた真珠のように綺麗とは言えない。だがお陰で暗いものを見れるようになった」
エギルは俺の目を見て
「何を考えてるのかは知らないが、僕の目が黒いうちは僕は君から目を離さないよ」
「エギルさん!!」
バっと間に入るリエル。
「やめて下さい!!」
「マイフレンド。これは君のためにーー」
「お二人とも私の友達です。友人が喧嘩をしていていい気分にはなれません!!」
「……すまない。君を困らせるつまりではなかったんだ」
エギルはどこかしょぼくれた様子になるが
「だがマイフレンドよ。僕と君の友情は永遠だ。次は花畑の見える場所で共に食事でも取ろうじゃないか!!」
アッハッハとエギルは笑いながら、俺たちとは違う方向に行き
「これ、何?」
「え、あ、先生」
馬ごと先生に連れて行かれた。
「嵐のような人ですね」
「面白いよな、本当に」
「……」
「気にするな、悪い奴じゃない。ただ少し勘違いしてるんだよきっと」
「そうですね。エルさんもエギルさんも、どちらも悪い人には見えません」
「……そう……だといいな」
果たして俺は、もし魔王が目の前に迫った時に家族とリエル、どちらを優先してしまうのだろうか。
多分今の俺なら
「どうしたんですか?」
「いや、今日の授業は大変そうだと思っただけだ」
やっぱり俺はゲス野郎だ。
◇◆◇◆
「ふわぁ、あ?何だっけ?」
「ですから、本日の授業内容を説明して下さい」
「ん?おお、そうだったな。えー今からダンジョンに挑む」
相変わらず二秒で説明を終えるバラン。
「……バラン先生、もう少し詳しく説明を」
もう一人の教師が分かりやすく青筋を立てる。
「えー、本日は下級組と上級組での合同授業だ。理由は……ま、管理がしやすいからだな」
管理しやすい。
この言葉は一見真実なのだが、残念ながらあんたらが思ってる程ダンジョンは甘くない。
「それからついでにお前らの垣根を無くすいい機会だからな。命の一本くらいかければ多少仲良くなれるだろ」
「先生!!」
うわぁ言っちゃったよあいつ。
「あ、これ言ったらダメなやつだっけ?」
「……」
「あ、NGか。やべ、やったな俺。まいっか」
適当だなホント。
「とりあえず今日は第一層の探索をしてもらう。出てくるのも雑魚ばっかだし、集団で取り掛かればまず負けることはない」
そうだよな。
普通ダンジョンは複数人で挑むものだ。
一人で頑張った俺を褒めて欲しいよマジで。
「と言っても相手はモンスターだ。負けない前提は本気を出してる前提でもある。気が緩めば一発で死だ。その覚悟を持って進めよ」
バランは珍しく真剣に言葉を投げかける。
どこか油断していた連中も背筋を伸ばす。
「じゃあ早速班決めだ。上級組と下級組が混じっても文句言うなよ。それと、戦闘力の面で一部班がおかしくなってるけど気にするな」
バランは大きな紙を取り出し、空中に浮かせる。
あれも魔法なのだろうか。
ゲームでエフェクトか文字でしか見たことない俺は、魔法というものを生まれて初めてみたのかもしれない。
「これがお前らの班だ」
俺はパーっと目を通す。
全然知らない名前ばかりだ。
そんな中で馴染み深い名前を見つける
「よし」
そこにはしっかりと
「確かに無理矢理は良くない。俺もここは反省している。だが、偶然なら仕方ないよなぁ!!」
「さすがマスタークソ下衆野郎ですね」
「……何しに来たメフィー」
いつの間にか俺の横に立っていたメフィー。
「マスターのアホ面を拝みに来ました」
「随分と余裕そうで何よりだ」
さすが裏ボスさん。
実家(ダンジョン)での安心感は最高なもんだろうな。
「ここを実家とは呼べませんね」
「何だ?珍しく怒って」
「怒っていません」
「いや怒ってるじゃん」
どうしたんだ急に。
「それにしてもおかしいな。次にメフィーと絡めば厄介な貴族が俺に突っかかると思っていたが、案外普通だな」
普通と言っても明らかに殺意に近い視線を感じる。
だがゲーム特有の
『平民如きが上級組と関わってんじゃねー』
的なノリがこないのは何故だ?
「答え合わせですマスター」
「あ?」
メフィーは目も向けずにある一点に指を差す。
そして
「何故……ビームを出した……」
「分かりやすいと思いまして」
周りが突然の出来事にざわつく中
「そういうことか」
紙が焼き焦げた場所にはしっかりと
班 エル ベル
名前がしっかりと刻まれていた。
「同じ班だから文句言えないってことか」
「その通りですね」
確かに納得だ。
納得だが
「何か情報操作しただろ」
「何のことでしょうか」
「まず二人の時点でおかしい」
他はどこも四人〜五人の班。
メフィーの戦闘力が高いという理由でわざわざ二人の班にする必要がない。
その上、その相手が偶然俺というのも出来すぎている。
そして何より
「名前」
「ベルですね」
「俺の目の前にいる人の名前はメフィーだった筈だが」
「いえ、私は人ではありません」
「否定するのはそこじゃねーだろ!!」
「先日の夜に色々問いかけたのは事実ですが、結局判断したのは向こうですので」
「昨日なんか弄ってたのはこれかよ!!」
相変わらずやりたい放題だなこの裏ボス。
学園に直談判出来る奴なんてそうそういないぞ。
「さてマスター。そろそろ動きますか」
「はいはい、分かりましたよ」
メフィーは生意気で強くて可愛げがないことを除けば優秀だ。
この情報操作、裏を読めば
「最初に行くのはお前らか。……まぁ一番安全そうだしな」
バランはどこか化け物を見るような目で俺らを見る。
「今回の授業内容はあくまでダンジョンに慣れること。メフィストフェレスさんならば20層までいけそうですが、今回は無しで」
「ベルです」
「へ?」
「気安くその名で呼ばないで下さい」
メフィーが圧を出すと、上級組の担任の女教師が膝を震わせる。
「やめろメフィー」
「承知しました」
スッと圧が消える。
「ぐへへ、すいやせん。こいつちょっとお茶目なとこがありまして。ですが名前だけはちょっと……気をつけて頂けます?」
「も、もちろん。生徒の願いを叶えるのは教師の役目なので」
どうにか穏便に話を片付ける。
「おっかない二人はさっさと行ってくれー」
バランはどこか急かすように入るよう促す。
随分と嫌われたもんだな。
「行くか」
「はい」
こうして俺は久しぶりにダンジョンに入った。
だが今回は前とは違い
「では早速」
メフィー中に入ると同時に翼を広げ
「35層まで突っ走ります」
飛んだ
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