第11話

「てか待って。なんで二人一緒にいんの?」


俺は米を飲み込む。


「申し訳ありませんマスター。マスターとは違い、私は既にリエとは親友の仲です。マスターとは違い」

「な・ん・で、二回も同じこと言ったのかな?」


こいつ、絶対俺にマウント取りにきてる。


こいつ神聖高そうな見た目してるくせに小ちゃい奴だな。


「何言ってんだ!!リエルの親友はこの俺だ!!お前みたいな綺麗で強くて頭のいい奴如きに負けるわけないだろ!!」

「エル、別にそういうので判断する気はないけど、なんか負けてるよ」

「ウェン!!お前はどっちの味方なんだ!!」

「え、えっと……メフィーさん……かな?」

「f●ck」


この色ボケ野郎が!!


「そもそも食堂に誘ったのは俺からだ。メフィー、お前はその後釜の存在なんだよ」

「マスターはやはりアホですね。その間にあのゴミ虫からの猛攻から守っていたのは私です。マスターに親友を名乗る権利があるとでも?」

「あ?」

「はい?」


バチバチと俺とメフィーの間で火花が上がる。


「しょうがないな」

「こうなりましたら」


俺とメフィーは同時に首を横にし


「「どっちだ(ですか)!!」」


リエルは目をパチパチさせ


「や、やっぱりお二人はお付き合いを?」

「「あり得ない(ません)!!」」

「す、凄い息ぴったり……」


リエルは吹き出しように笑う。


「急にどうしたんだ?」

「マスターが変顔したからでは?」

「通常モードだよ!!」

「え!?今正に変顔しているではありませんか!!」

「普通の顔が変だって言いたいのかあぁん?」

「やっぱり二人は仲良しですね」

「どこをどう見たらそうなるんだ……」

「リエ、目を見せて下さい。治しますので。ついでに三つくらいは増やせますよ?」

「そ、それは遠慮しますね。ですが……何だか羨ましいです。そうやって何でも言い合える仲、憧れてしまいます」


リエルはいつもの太陽な笑顔ではなく、どこか暗い表情を浮かべた。


「リエル……」


少し胸が締め付けられる。


だが同時にこれはチャンスだ。


俺はウェンに目を向ける。


攻略チャンスだ、ぶちかませ!!……っておい、なんだその顔。


「いや……何だか諦めないとなって思ってきて……」

「はぁ?何言って」


ん?


ウェンはメフィーが好きだ。


だが、メフィーに恋してる間はリエルに靡かない可能性がある。


ゲームとして終わってるが、これは現実だ。


ならば、もしや俺は


「……」


メフィーの恋人になるべき……なのか?


(絶対に嫌です)


アイコンタクトが送られる。


(だがこうすれば一気に攻略が)

(マスターの恋人など例え死んでも嫌です。死にませんが)

(どんだけ嫌なんだよ!!お前そろそろ俺の言うこと聞けや!!従者だろ!!)

(そう言う人いますよね。自分よりも下にいる人間は何をしても良いと思うゲス、マスターも所詮奴らの一緒なのですね)

(テ、テメェ!!)


レスバ強すぎだろこいつ!!


「あのウェンさん。二人はさっきから何を?」

「さぁ、でも、やっぱり仲良しだね」

「そうですね……本当に羨ましいです」


(マスターがあまりにうるさいのでリエがまた落ち込んでいますよ?)

(俺関係ないだろ!!だからここでウェンと)


「マスター」

「な、何だよ急に」


突然喋ったらビックリするだろ。


「マスターに目的は存じています。私もその件に関しては、マスターに全力でサポートするつもりです」

「お、おう助かるよ」

「ですが」


どこか圧のある声


「少しは他人の意思を尊重しては?」

「は?何を言……いや」


確かに……そうかもな。


少し急ぎ過ぎていたのかもしれない。


俺が今しようとしていることは、親友の恋心を引き裂き、弱った二人をくっつけようとしている。


それって何だか


「悪い」

「どうしたんです?」

「何を謝ってるんだ?」


そうだな。


二人も生きている。


リエルには聖女になってもらわないといけないのは変わらないが、時間はまだある。


そもそもストーリーは始まったばかりじゃないか。


なら俺のするべきことは


「まぁなんだ、リエルにもきっとそういう人が現れるよ」

「そう……でしょうか?」

「ああ、絶対にだ」


なんたってリエルはこの世界の主人公だ。


バカ王子やらアホの貴族がイケメンフェイスで迎えてくれるだろうよ。


「俺が補償してやる。と言っても、リエルみたいな素敵な女性なら心配する方が難しいことなんだけどな」

「え、あ」

「だけど、それでまだ不安だってなら」


俺は笑い


「俺がリエルの全部を受け止めてやる。だから好きな時に、好きな言葉で話そうぜ」

「あ、はい。よろしく……お願いします……はぅ」


俺とリエルの間で謎の雰囲気が生まれる。


「何……やってんだ俺……」


そして俺はやっとのことで自分を思い出す。


え?マジで俺何やってんの怖いって!!


顔が熱い。


頭の中で後悔の言葉が高速で動き回る。


死にたい。


「エル」


ウェンは俺の肩を掴み


「二人狙いはどうかと思うよ?」

「どっちも狙ってませんよ!!」


その後の食事は顔を真っ赤にしたリエルと、何か悟ったウェン、そして何事もなかったかのように食べ続けるメフィーという謎の空間と共に過ぎ去った。


◇◆◇◆


「やっぱりおかしい!!」

「マスターは頭の先から細胞の一部までおかしいですよ」

「そうじゃない。俺のキザッキザな台詞だよ」

「やっと恥ずかしいとお気付きに?」

「最初から気付いてたよ、悲しいことに」

「そうですか」


家でゴロゴロとしている俺は、リビングで謎の何かを操作しているメフィーに相談する。


「俺って絶対あんな台詞吐かないんだよ」

「人は自身が思ってよりも複雑な生き物ですよ」

「そりゃ分かるが……なんて言うか、口が異様に滑る」

「本心……ではあると?」

「まぁ……そうだな……」

「顔真っ赤ですよ?」

「メフィー。お前は少しマスターを敬え」

「嫌です」


もうどっちが主従か分かんないなこれ。


「つまり何が言いたいので?」

「ああ、つまりだ。この世界にはもしや、カッコつけさせる機能みたいなのが存在するんじゃないか?」

「まさかこの世界にそのような面白……法則があったとは」

「お前今面白そうって言おうとしただろ」

「いいえ。マスターは腐れ外道だと言いました」

「何故改変した上に悪口を!!」


何?


メフィーさんって絶対に俺を傷つけないといけない法則があるの?


「とにかく!!今のところ問題ないが、例えば貴族の前で俺がやらかしたら大問題だ。これまでの基盤が崩れる。だからメフィー、もし俺の行動が危うい時は止めてくれ」

「了解しました」

「こう言う時は聞き分けいいんだけどなぁ」


メフィーは確かに聖女復活の手助けはしてくれる。


だが、それ以外となると


「喋りすぎて喉乾いたな。メフィー、水入れてくんね?」

「嫌です」

「俺マスターなんすけど」

「私はマスターより強いですが」

「へいへい、申し訳ありませんね」


俺は重い腰を上げ、水を入れる。


「大変そうだなぁ」


これからの生活に不安でいっぱいになるのであった。


◇◆◇◆


「「あ」」


朝、リエルに会う。


「……」

「……」


何故か微妙な時間が続く。


「えっと」 「あの」


言葉が重なる。


「お、お先にどうぞ」

「あ、いえ、エルさんの方からどうぞ」

「いやいや、大したことじゃないし」

「私の方がつまらない話でして」

「いや絶対俺の方がしょうもないから。てかもう話す気ないくらいだからマジで」

「私も本当に時間の無駄といった感じです。言葉を紡ぐことすら烏滸がましい程です」

「いーや、喋ってくれ」

「エルさんの方こそ」

「嫌だ!!」

「私もです!!」


お互い向き合う。


しばらく時間が経ち


そして


「何やってんだよ俺ら」

「本当ですね」


二人で笑う。


何を緊張していたのか。


友人同士で恥ずかしいことを共有することなんて当たり前じゃないか。


「悪かった、急に変なこと言って」

「そんな、私は嬉しかったです。多分……ですけど、あの瞬間エルさんは本音を語ってくれました。それがなんだか嬉しくて」


照れ照れとリエルはどこか楽しそうに喋る。


「エルさんが友達でよかったです」

「……そうか。俺も、リエルと出会えてよかったよ」


本当に


「じゃあ教室行くか」

「そうですね」


二人で肩を並べて歩く。


その距離は昨日よりもほんの少しだけ、近かった気がした。








「ちょっと待った!!」


誰だよ今いい感じに終わりそうだったのに!!


声の向く方に振り向くと


「何やってるんでしょうか」

「俺が聞きてぇよ」


何故か学校内で馬に乗ったエギルがいた。

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