第6話
「おいあれ見ろよ」
「すっげぇ」
「赤いってことは貴族か」
予想通りというか最早予知というか、馬鹿みたいに注目を集めるメフィー。
そして
「隣歩いてる男誰だ?」
「どうしてあんな冴えない奴が」
ついでとばかりにとばっちりを受ける俺。
「もうだから嫌だったんだよ。離れてくんない?」
「それだとマスターの従者であるアピールが出来ないじゃないですか」
「むしろ逆だろ。絶対周りは貴族のお前に俺が従者として付いてきてるようにしか見えねぇよ」
「それは想定外の結果ですね。ですが原因はオーラのないマスターのせいでは?」
「うるせぇ!!俺がメフィーの主人なんて器じゃないのは俺が一番分かってるわ!!あと絶対メフィーは分かっててやっただろ!!」
ギャーギャーと言い争いをしていると
「おはようエル、メフィーさん」
「ん?おおウェン。おはよう」
学園について早々ウェンに出会う。
特待生は上級組として扱われるため、赤い制服を身に纏っている。
「エルは下級組か」
「逆にどうやったら俺が上級組になれると思ったんだよ」
「なんか最近のエルを見てたらいけるかなって」
「そんなわけないだろ」
平凡を絵に描いたような俺のどこを見たらそう思えるんだ?
「胃とかでは?」
「牛の方がまだ見てて面白いぞ」
結果的に上級組二人、下級組一人と俺が完全にアウェイになったが、まぁしばらくすれば
「クラス分けか」
上級組と下級組はクラスが別だ。
だからこの二人と同じクラスになる可能性はゼロなわけだ。
「それにしても俺といるために学園に来たのに、別のクラスになるのはいいのか?」
「いえ、そもそも数キロ圏内であればマスターを守れるので」
「じゃあ学園来る意味ないじゃん!!」
「それは……マスターはいちいち小さなことを気にしますね。だから今まで女の影すらないんですよ」
「メフィーは俺を一回刺さないといけない病気かなんかなの?」
しかも地味に的を得てそうで俺の心臓にダイレクトアタックされた。
「あ、あのメフィーさん、同じクラスになれるといいですね」
「いえ別に」
「おいメフィー。少しは気を遣え」
「はぁ」
メフィーは軽くほくそ笑み
「そうですね。ウェンさんと一緒なら(マスターに色々出来そうで)楽しそうですね」
「そ、そうですね!!」
「はは、相変わらず下手くそな笑がハブ!!」
「何かおっしゃいましたか?マスター」
「き、今日も笑顔が素敵だね」
今時暴力系ヒロインなんて流行らないからな!!
「ご安心を、ツッコミですので」
「ツッコミの威力が暴力って言ってんだよ!!」
腹をさすりながらクラス分けが書かれている場所に移動する。
人だかりが出来ているし、あそこで合ってるはずだよな。
「お、おいエル」
「どしたウェン」
「そっちは」
「おい!!」
怒鳴り声のような声が俺の耳に入る。
「そこを退け平民。これ以上僕を怒らせたらただじゃ済まないからな」
「いいえ退きません」
んん?
聞き覚えのある声。
「うわぁ」
そこには生まれて初めて見るのに、まるで何度も見慣れたような光景が広がっていた。
「ただ肩がぶつかっただけです。この人には何の落ち度もありません」
涙目になって頭を何度も下げている男の前に立つ金髪の少女。
「違うな平民。僕が歩けば平民を道を開けなければならない。それがルールだ」
そこに向かい合うように数人の黒い服を着た生徒を取り巻きにしている赤い服の男。
「学園では身分は関係ないと決められている筈です」
リエルはこの学園のテストにでるような常識を口にする。
「……ぷっ」
貴族の取り巻き達が一斉に笑う。
「何がおかしいんですか」
「これが笑わずにいられるか。どうやら頭がお花畑のようだな。確かに学園では身分は関係ないと言ってるが」
貴族は見せつけるように胸を張る。
「この服が紛れもない事実だ。結局は僕達貴族の前では全てが平伏すしかないんだ」
「そんなことはありません!!」
「……何?」
貴族の苛立ちが高まっていくのが分かる。
「確かに学園が貴族の方々の力で成り立っているのは分かります。ですが、それを言うのであれば貴族の生活だって私達平民の力あってこそ成り立つものです」
「お、お前!!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、貴族は拳を握る。
「あまり調子に乗るんじゃねぇ!!」
その様子に、身体が自然と動いてしまう。
「そこまでだ」
直撃を覚悟し目を瞑っていたリエルがポカンと口を開ける。
やれやれ、可愛い女の子がピンチになるとつい庇っちまいたくなるんだよな。
「貴様……何者だ!!」
何者か……ね。
しょうがない、せっかくだから盛大に自己紹介といきますか!!
「僕の名前はウェン。それ以上でもそれ以下でもないよ」
こうして二人の出会いイベントが始まった。
◇◆◇◆
「その服、貴族か」
「僕は孤児院出身だ」
「……特待生か」
貴族はため息を吐く。
上級組というのは例え出自が孤児であろうと、将来が大きく見込まれた者に与えられる称号だ。
つまり繋がりを大事にする貴族にとって将来自分と同等、もしくは上になる可能性のある特待生には強く出れないのだ。
「全く、どいつもこいつも人を庇う文化でもあるのか」
「それは君が悪いことをしているからだろう」
「おかしなことを言うな。貴族に逆らったらどうなるか、それを今の内に教えておく良い機会だ」
「そんなもの最初から必要ないね」
ウェンと貴族が睨み合う。
それをボケーっと傍観する俺。
「マスターは参加しなくて良いのですか?」
「良いよ別に。むしろ参加したらまずい」
このイベントはウェンとリエルの貴重なファーストコンタクトだ。
正直後々出てくる頭のおかしいバカ(攻略対象者)に比べたら、俺的にはウェンを選んで欲しい。
てかどっちも幸せになって欲しい。
そんなわけで極力ウェンルートを押したい俺は、ここで良い感じにことを運んでもらいたいわけだ。
「同じ上級組だからって良い気になるなよ」
「そっちこそ、貴族だからって少しやり過ぎじゃないのか?」
「あれれ?」
なんか思ってたより白熱しちゃってるな。
ゲームだと
『お互いの為にも、ここは手打ちとしないか』
というウェンの言葉と共に解散となる予定なんだけどな。
「悪は絶対に許さない」
「……もしかしてだが」
現在ウェンはメフィーに惚れちゃってる。
そしてこの前、メフィーは偶然とはいえウェンを助けた。
それを見たウェンは正義の心が芽生えちゃって
「そういうところがウェンの長所であり、短所なんだよなー」
「将来ストーカーになりそうですね」
「大丈夫だと信じたい」
散々な評価を受けたウェンは貴族相手に歯向かい続ける。
そして
「顔は覚えたからな」
嫌な雰囲気と共に貴族達は去っていった。
「君、大丈夫?」
「はい、あなたの方こそ大丈夫ですか?」
ここで遂に主人公と攻略対象者が初の会話を試みる。
「あれ?さっき君の横にいた人は?」
「途中で逃げちゃいました」
「薄情だな」
「いえ、むしろあれ以上私達に迷惑をかけられないというご配慮でしょう」
「そうだろうか?」
「はい、きっとそうですよ」
悪を前にし、二人の間にはなんとも言えないよい感じが広がる。
本来ならここで二人は軽い自己紹介を交わし別れるのだが
「ところで君の名前は?」
「私の名前はリエルです」
「リエルか、いい名前だ。あ、僕の自己紹介がまだだったね。さっきも言ったけど僕の名前は」
「ウェンだ」
「「え?」」
二人が同時に素っ頓狂な声を上げる。
「こいつの名前はウェン。顔よし、性格良し、その上勉強運動何でもござれのスーパーマンだ」
「何やってんのエル?」
「何ってお前」
俺はリエルの横に立ち
「もちろん俺はリエルの親友さ」
親友枠を勝ち取ろうとしていた。
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