第4話
良い話と悪い話がある。
良い話というのは親友が襲われたと思ったら、俺の視界の隅っこに侵入者らしき人間の山ができていること。
悪い話というのは
「あなたのその優しさ!!そして美しさに惚れました!!」
親友が侵入者よりも一億倍以上ヤバいのに告白していたことだ。
「優しい、というのは些か語弊があります」
「語弊?」
「私はあくまでマスターにあなた達に傷をつけるなという命令を受けています。そして先程侵入してきた賊があなたに害を加えようとしたため、やぶさかながら守ったまでです」
メフィーは淡々と答える。
俺的に言えば怪我させるなよ!!的なニュアンスで言ったつもりだったが、結果的にナイスな展開だ。
「でも、実際にあなたは僕を守ってくれました」
負けじとウェンが詰める。
あんなに積極的なウェンを初めて見る。
俺としては親友が幸せを掴み取ろうと頑張る姿は応援してやりたい気持ちで一杯だが、相手が人外だと話が変わってくる。
確かにその人見た目絶世の美女だけどさ、一日足らずで世界滅ぼせる化け物だよ?
僅かにメフィーと目が合う。
殺すという暗示か、はたまた
「しょうがない」
俺としても親友が間違った道に進むことを止めること、それと一応人の身を預かった者としての責務を果たすか。
「ちょっと待った」
「え?」
パジャマ姿にさっきそこで引き抜いた雑草を手に持った俺。
「初めて会った時からヤバいって思ってました。特にあなたに近付いた時は本当の意味で心臓が止まりました。どうか俺を選んでください」
「エル、まさか君も」
俺はメフィーにアイコンタクトを送る。
「申し訳ありませんマスター。フリでもマスターとそういう関係になるのはお断りです」
「おい!!」
「ねぇ」
ウェンは真剣な顔で
「どういうこと?」
◇◆◇◆
シスターと同じような内容を話す。
「二人の関係はよくわからないけど、エルも学園に来るんだ」
「ああ。悪いな。お前には一番に言うべきだったのに」
「ううん、いいんだ。むしろシスターやみんなに速く伝えるべきだよ」
ウェンの渾身の告白を有耶無耶にしたのに怒らないのはウェンの美徳というべきか、それとも
「嬉しいよ」
ウェンはニッコリ笑う。
「もう暫くは会えないと思ってたから」
「俺もだ」
「それに」
ウェンはチラリとメフィーを見
「メフィーさんも学園に来るということですか?」
「いやいや、メフィーは」
「その通りです」
「ふぁ!?」
どゆこと。
「私は一応仮におそらくマスターの従者です。私にはあなたの命を守る責務があります」
「そんなに俺の従者なの嫌!!」
「はい」
「即答!!」
「なんか……二人とも仲良いね」
「それは誤解です。私がこの世界で最も多く言葉を交わした人間がマスターなだけであり、それ以上の気持ちは一切持ち合わせていません」
「そうだぜウェン。俺とメフィーの間にはもっとこう、深い事情が絡んでるんだ」
「あ……そうなんだ」
ウェンが何故か悲しそうな顔をする。
なんか勘違いしてそうな雰囲気あるけど、これからも一緒にいるんだ。
自然とウェンも俺達の関係を察するだろう。
「とりあえずウェン。お前にはこの人外よりもいい相手がいるんだ」
「マスター賞賛し過ぎてすよ。私が人の枠に収まらない程の美貌ということは理解していますが」
「言ってねぇよ。勘違いしないでよね」
いや実際メフィーよりも可愛いとか美人とかいう次元に立てる人間は存在しないであろう。
そう確信できる程の魅力がある。
そしてそれをかき消すくらいのトラウマが俺の中にあるわけだ。
「話がズレたな。つまりだウェン。学園には色んな人間が集まるわけだ。その中にお前に合う人間、多分だけど平民出身でスカート履いてるのに木登りしちゃう系の王子様に臆さない女の子とかがいるはずだ」
「随分とピンポイントだね」
「とにかく、落ち着けウェン。もし少し冷静になってからもう一度決めるんだ」
「エルがそこまで言うなら分かったよ。それでもメフィーさん。僕は本気ですから」
そう言い残し、ウェンは去っていった。
「これがゲームに影響しないでくれると助かるんだがな」
そんな俺の杞憂は、ある意味叶えられるのだが、それはもう少し先の未来での出来事である。
◇◆◇◆
「ですからここで魔法の転換をですね」
「???」
それから俺が孤児院を出るまではあっという間だった。
楽しい時間は過ぎ去り、涙一色に染まったお別れ会も催した。
年長者である俺が抜けたことでシスターの負担が大きくなると思ったが
「あと二倍はいけるわ」
真顔で言ってのけるもんだから、後腐れなく出ることが出来た。
俺はダンジョン攻略でメフィーといくつかの金銀財宝を貰っており、一生不自由なく暮らしていけるだろう。
というわけで俺はかなり大きな家を購入し、しっかりとした地位を確保した。
一定額の税金を納めれば、身分というのは簡単に手に入るのは分かりやすくてよかった。
だがこれらは
「世界が滅んじまえば全てぱぁだ」
ここで皆が考えることはきっと
『メフィーいれば魔王倒せるくね?』
だと思われる。
いや俺もそう思ったよ。
だから聞いてみたら
「魔王といえば99層のアレですか。まぁ確かに私ならワンパンですが」
「ですが?」
「魔王は聖なる力も持つものにしか破壊されません。既にその力を失った私では相性が悪く、仮に消そうと思えば魔王の前に世界が滅びます」
て言うもんだから無理じゃん。
だが逆に言えば、戦闘になればメフィーの圧勝。
主人公を聖女に覚醒さえさせれば、後はイージーゲームというわけだ。
つまり俺がすることは変わらず、主人公の恋愛ストーリーを全力でサポートするわけだが
「ここも間違いです」
「ふんぎぃいいいいいい」
俺は勉強という全世界共通の壁にぶち当たっていた。
時代が進んでいないため数学やらは楽勝だったが、歴史と魔法がマジで分からん。
歴史の言葉は長い横文字だらけだし、魔法の構造なんて知るわけのない俺は子供がするような教材でせっせと勉強する。
ちなみに教師はメフィーだ。
この子マジで完璧だ。
「どうしてこんなものも分からないのですか?マスター」
毒を吐いてくる以外はな!!
スパルタ教育ではあるが、内容がスラスラと頭に入ってくる。
出来の悪いで有名な俺でも、これならいけるかもしれない。
「はぁ、この程度も分からないなんて……」
「その前に心折れるかも」
◇◆◇◆
それからというもの
「マスター、こんなものそこいらの幼児ですら解けますよ?」
「休憩したいですか。なるほど、マスターの覚悟はその程度だったと」
「もう少し優しく?まだ心臓が動いているのなら私が優しい証拠なんですよ」
こうして紆余曲折、山あり鬼ありを乗り越え、遂にその時へとやってきた。
「あんたすごいクマだな。大丈夫か?」
「クマ?あぁクマは第4層に現れるヘビーベアのことだな。やっぱりヘビーベアの特徴と言えば」
「わ、悪い。大丈夫そうならお互い頑張ろうな」
「待て!!アウトプットした方が頭に入るんだよ!!俺の話を最後まで聞け!!」
「ひぃいいいいい」
逃げて行く受験者。
「……」
遂に試験当日を迎えた。
メフィーが言うには
『これだけやれば大丈夫でしょう。ま、頑張りましたね』
と言われて送り出された。
前日はしっかりとした睡眠を取れと言われたが、不安で目が覚め、勉強、また寝ようとしては勉強を繰り返していたら、いつの間にか朝になっていた。
「おいおいメフィー。俺は大丈夫だって」
「メ、メフィーって誰です?」
「誰ってメフィーはメフィーじゃないか」
「人違いかと」
よく見ると知らない女の子がどこかへと走り去って行く。
あれ?じゃあさっきまでいたメフィーはどこに行ったんだろうか?
そんなことを考えていると
「そろそろ時間だ。席につけ」
試験官の呼びかけと共に、場に緊張が走る。
指定された席に着き、静かにその時を待つ。
「それでは始め」
決められたわけでもないのに、皆が一部の狂いもなく同時に紙を捲る。
そして目の前には簡潔にして、難解な羅列が飛び交う。
「こんなに勉強に本気になれる時がくるなんてな」
そして俺は真っ赤な目を開き、空白を埋める。
最早起きているのかどうかも分からないまま時が過ぎ、丁度最後の問題を解いた時点で試験管から静止の声が飛んだ。
「ふむ、皆の衆お疲れ様。結果は後日発表されるから、今は束の間の休息に浸かっておくといい」
こうして試験は終了した。
それと同時に、俺の中の緊張の糸が解ける。
「ダ、ダメだ、限界だ」
皆と一緒に外に出たはずなのに、いつの間にか周囲には誰一人いなくなっていた。
どうやら頭より先に体に限界が来たようだ。
ここがどこなのか、俺は果たして試験をちゃんと出来たのか、それすらも分からない。
「あ」
躓く。
地面へとガードもなしにダイレクトでぶっ倒れる。
春の暖かな日差しの下で、ゆっくりと意識を手放す俺の元に
「だ、大丈夫ですか!!」
ボヤける視界の中で最後に見たのは
「天使」
そしてポックリと俺は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます