聖獣になった破滅済みの悪役令嬢は、冷血王子に溶けるほど溺愛されていると気づかない ~美人王子と男装麗人に愛され両手に花ですが、知識チートで乙女ゲームの世界を脱出させていただきます!~
第2話 何の因果か、オタな世界に舞い戻ってしまいました。
第2話 何の因果か、オタな世界に舞い戻ってしまいました。
プチプラからハイブランドまで、誰もが一度は名前を聞いたことのある有名アパレルが、所狭しと軒を連ねている。レストランエリアも充実していて、流行りのスイーツに舌鼓を打つことも出来れば、上品なフレンチを楽しむ事ももちろん出来る。
映画館や、夜景を見ながらカクテルを楽しめるバーもあるし、なんと水族館まで併設されている。この複合施設は、まさにデートにはもってこいのスポットと言えた。
だが、
――舞い戻ってしまった……
ホールに立ち尽くし、凛は感慨深く辺りを見回した。
見回した先には、エスカレーターを背に設えられた即席の舞台があり、その舞台上には巨大パネルがいくつも置かれている。そして、そのパネルの一枚一枚に、アニメや漫画でよく見るタッチで描かれた等身大の人物イラストが貼り付けられ、美しく飾りたてられていた。
凛は、舞台に向けていた目を、観客スペースに移す。すると、彼女の周りに居るのは、女性客ばかりで、誰も彼もがウキウキと楽し気な様子だと分かった。
そのように、女性客ばかりなのは必然だ。何故なら、凛や女性客たちがこの場所に居る理由は、本日このイベントホールで行われる乙女ゲームの公式イベントに参加するためなのだから。
――この世界には、二度と足を踏み入れまいと思っていたのに……
チラチラと周りの様子を
凛は、学生時代からずっとマンガやゲームが大好きだった。休日には、二次創作イベントで薄い本を買い漁ったし、アミューズメントパークに遊びに行くのだって、好きなエンタメ作品をテーマにしたアトラクションを楽しむためだった。それだけで十分楽しく、凛は人生に満足していた。
だが、ある時。
このままで良いのかと疑問に感じる出来事が、凛の周りで起こり始める。
大人になるに連れて、友人たちの中に恋人が出来る者がチラホラと現れ出したのだ。しかも、今まで色恋の話など振ってきたこともなかった母から「あんたって、彼氏とかいないの?」と訊ねられてしまった。
このような事態に見舞われ、凜は唐突に思った。
――彼氏なんて別に欲しくないけど……このままじゃ、ダメなのかも?
そう感じ、そろそろ恋人の一人もいて良い年齢になったのだと自覚した凛は、一念発起。社会人になると同時に、恋人づくりの障害になりそうなオタクな趣味と、泣く泣く決別した。そして、程なくして友人の紹介で、彼氏を作ったのだった。
――私の人生そのものだったマンガやゲームとお別れするのは、本当に辛かった。でも、彼氏も出来て順風満帆……だったはずなのに……
凛は今、乙女ゲームのイベント会場に居る。
何故、こんな場所に居るのかというと、それにはこんな
凛は、付き合い始めたばかりの彼氏に浮気され、失恋したのだ。
しかも、その彼氏が浮気相手と居るところに遭遇するという、心の準備すら出来ていないシチュエーションで。
彼氏が浮気しているなんて、全くと言って良いほど凛は疑っていなかった。そんな状況で、人生初の彼氏の自分に対する仕打ちを知り、凛は深く深く傷ついた。
そんな彼氏、もとい元カレの所為で沈みに沈んだ凛の心は、中々浮き上がることが出来なかった。彼女は会社に出勤する以外の時間、自室でずっと落ち込み続けた。
――現実の世界って、コワいし、辛いことばっかり。二次元の世界にどっぷりと浸っていられた頃が……懐かしい。
そんな事を考えながら、休日に自室で
それは、一本の乙女ゲームだった。
――
そう。そのゲームは以前、元カレが凛にくれたものだった。
元カレはゲーム会社勤めで、仕事の関係で手に入れたらしい。
オタバレを恐れた凛は、そのゲームを受け取ることを渋った。だが、悪気のない様子で「女の子って、こういうのが好きなんでしょ?」と言う元カレに、強引に押し付けられ、無理やり受け取らされたのだ。
とはいえ実を言うと、このゲームは、以前からとても気になっていたモノだった。制作会社はこの手のゲームを昔から手掛けている老舗で、神作を何作も世に送り出している有名メーカー。それにキャラクターの絵柄も、凛の好みのど真ん中。もし、オタから足を洗っていなければ、速攻でプレーしていたのは間違いない。
そんなゲームだった。
――悪いのは
元カレのプレゼントというのが気に食わなかったが、凛は何とかして気分転換したかった。
それ故に、押し入れに仕舞い込み、自ら封印していたゲーム機を引っ張り出すと、久々にこの乙女ゲームをプレーすることにしたのだった。
そして、現在。
今や、思わず公式イベントにまで足を運んでしまうほど、その乙女ゲームの沼に、凜はどっぷりと浸かってしまっているのだった。
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