第7話 兄の帰還、憎しみ
兄は、昔から不思議なことを言うことがあった。全てを見通すかのように、ぽつりと言葉を言う。すると、ひとつの出来事の後、「あれはこのことを言っていたのかもしれない」というふうに合点がいく。この世の不可思議さに直接接続しているような人だ。それでも、私は兄を恐ろしいと思ったことはない。彼自身が彼の能力を支配しているのは、安易に見て取れたから。それに、私の優しい兄上だもの。
それでも。彼が孤独に覆いかぶさられて、目の光を消す時は、さすがに不安を感じずにはいられなかった。ここにいるのに、いないような。どこか、生の淵を彷徨っているような。そんなとき、私は努めて明るく、なんでもなさそうに、彼に声をかけるようにしていた。すると、ぱっと彼は彼の今の身体に戻ってくるのだ。その瞬間を、私は内心、帰還と呼んでいる。
「でも、お兄ちゃん」
私は彼の顔を覗き込んだ。
「あんまり考えすぎちゃだめよ。お兄ちゃんが楽しく生きられるのが一番だもん。初、お兄ちゃんの穏やかに笑ってる顔が一等好きよ」
すると、お兄ちゃんは帰還した。
「初、ありがとう。心配をかけているのなら、ごめん」
私は努めて微笑む。
「そんなことないわ。私はただ、欲張りなだけ。大好きな人が笑っていたら、私が嬉しいのだもの」
「思いやりの深い妹を持てて、僕は幸せ者だよ」
兄が茶化したように言ってくる。
「あら、私も、優しくて賢い兄を持てて幸せよ」
「僕のほうが幸せだよ」
「なによ、私のほうが」
喧嘩みたいな言い合いをして、それから顔を見合わせて、笑った。私は笑いながら、兄を苦しめた親類を呪った。
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